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私の世界

 一日目

 今日から、日記を書く事にした。

 元の世界へ戻る為に、少しでも手掛かりが残ればと思う。

 取り敢えず、親父と戦いに行って来る。


 焼かれた。

 戦闘も、帰る方法も……収穫はゼロ。

 と言うか、異世界に行く方法って何……?

 白靄に落ちてみるとか? ……死んだら元も子もないな。



 二日目

 不満。かち合った時、親父の鱗が私の柔肌に刺さって痛い。

 刺さるし燃えるしでもうお肌ボロボロ……。

 色々周りに話を聞いて回った。

 やっぱ馬鹿にされたけど……でも一つ分かったのは、私がこの世界に居ない時間でも、私と言う存在が居なくなった訳じゃないらしい。

 変に、行方不明だ! ……なんて騒がれないで済んだから楽だったけど、不思議だなー。



 三日目

 あえて炎に突っ込んだ。

 もう二度としない。



 四日目

 嫌がらせがてら、今日の戦闘では親父の顎下ばかりを狙ってみた。

 ……若干、不機嫌だった気がする。これ以上すると何されるか分かんないな……。

 神域に行ってみた。……別に何も無かったけど。

 明日は街に行ってみようかな。有益な話が聞けると良いけど……小さいのよね。他の世界と比べると……。


 五日目

 今日は街で買った武器を使ってみた。

 ……一瞬でへし折れたけど。使い方分からんし!

 今度は炎に投げてみようかな……? そもそも私たちって、基本武器を使う様な種族じゃ無いのよね……。

 街を散歩してる途中で、昔よく行っていた場所を巡ってみた。

 結構変わっててびっくり!



 六日目

 昨日書いた通り、武器を投げてみた。

 投げたらなんか消えてた。

 溶けたのかな……。

 珍しく話し合ってる人達に寄ってみた。

 ……でも、やたらと話しかけて来る奴って私、評判みたい。辞めた方が良いかな……?



 七日目

 無茶だと思ったけど避けようとしてみた。

 勿論、無理だった。

 速い癖に横幅広すぎるのよ……あれ。

 でも、炎を吐くって言う同じ動きしかしてないのに、対応出来ない私って相当よね……。


 今日、お父さんが嫌いになった。

 よくも私のおやつを……。



 八日目

 今日はやられる前にやる。それしか無いッ‼︎


 無理。

 思いっきり蹴ってるのに、なんでびくともしないの……?

 戻ってくる直前を思い出した。

 それなりの平和。それなりの友。

 そんな世界に……縋って、拒んで……訳が分からない。

 結局どうしたかったんだろう。

 でも一つだけ、あの世界の住人の共通点を見つけた。


 きっと、疑問を抱いていたんだ。どうして、この世界にいるのかって……。


 変なの。



 九日目

 身を委ねて、親父の炎を真正面から受けてみた。

 力の抜け切った体が、迫る炎を受け入れていく中……なんとも言い難いぬくもりを感じた。

 そりゃ熱いなんて、当然の感情なんだけど……そうじゃ無い感じ。

 暖かくて、優しくて……力の籠った焔が体を突き抜けて……。

 いつの間にか倒れていた。なんだったんだろう……あれ。


 変なの。





 そして、十日目。


「……」


 やはり、言葉は交わさなかった。


「本当、変なの……」


 しかし、独り言の様に彼女は笑みを零す。


 ——また、来る。あの理不尽な咆哮が……。


 何度も灼かれて、何度も傷ついて……何を得たのか、まだ言葉には出来ないけど……。

 ただ、今ならできる気がする。

 根拠は、何一つとして無いんだけどさ。


「すぅーーう……」


 何をすれば良いのかは、焦げ切った体が教えてくれる。

 意識を埋め尽くす本能に身を委ねて……まだ、もっと。

 全身の力を抜いて……。



 やけに視界は鮮明に見える。

 聴覚は炎の音に震え、嗅覚は焦げ臭い匂いに痺れた。


 ——まだ、もっと……今じゃない。


 異常な程に研ぎ澄まされた五感が、限界など知らぬと鋭くなっていく。

 親父の顔はよく見えない。……けど、どうせ余裕ぶって私の事を待っているに違いない。

 やがて、全身にヒリヒリとした感触が走る。空間内の熱が逃げ場を探す頃。

 心が……体が、熱く煮えたぎる様に。体の内側から感じる『何か』を……瞬きする間だけでいい。

 その一瞬。今ある力を全部……。


 捻り出せッ‼︎






 ——熱い……。体は灼けてるし、口の中も……。


 炎の味は、ちゃんと覚えられただろうか。

 そんな思考の中、父の行動は変わりない。

 私も……視界に映るのはいっつも天井。


「はあ……」


 ため息をつく。


 ——また…………負けた。


 がむしゃらで何が起きたのか分からなかったけど、顔を上げずに見える天井がその証拠だ。

 ……だからと言って、敗者のまま地に伏している訳にはいかない。悲鳴を上げる体を押し退けて……無理矢理にでも体を起こし、座り始める父を睨む。

 喉に残り火が突っかかる様な感覚を覚え、咳き込んだ後に口元を拭いた。


 ——……げ。今私、親父と同じ様な事した?


 手に付いた煤を吹き落とし、変な気恥ずかしさを抱きながら、ふと見上げた先に……。

 不敵に笑う父を見た。


× × × × ×



 その後 神域にて


「……」


 神様にとって、作法を知らぬ者が祈るなど、無礼極まり無いのかも知れない。


 ——でも、昔から言い伝えられた物がある訳でもあるまいし……それに、こんなに気持ちが籠ってるんだし大丈夫でしょ。


 一柱ぐらい、そんな考えを持つ変わり者の神様がいても良いと思うのだ。

 そんな神様に届けば良い。そもそも、こんな辺鄙な場所で祀られてる神様なんて、どうせ変な奴でしょ……きっとね。


「……さて。良い加減、あの世界にまた行かせて貰えませんかねぇ……神様ー? 聞いてるー?」


 実際、何をすれば良いのか……見当もつかない。

 こうなれば枯れ木の中でも漁り尽くして見ようか。

 それとも……。


「落ちてみる……なんてね」


 いやいや……まさかまさか。

 別に初めてあの世界に行った時は、別に落ちた訳じゃないし?

 だったら確証なんて無いのに落ちるなんてそんな……。


「……いや、怖ッ⁉︎ 無理無理‼︎ 絶ッ……対に行かないからね⁉︎」


 一瞬だけ映った崖の側面に、この世とは思えない程の恐怖を覚える。

 覗き込むのはもうやめだ。見たい景色がある訳でもあるまいし……。


「流石にリスキー過ぎるでしょ。別の方法考えよう……」


 ——親父の事もあるし、そう考え過ぎる事でも無いのかなぁ……。でも、悠長にしてあの世界に行ってみたら、もう彼らは居ないみたいな……何しに行ったって感じだし。


 あくまでも、本来の目的はあの世界に戻る事。親父を倒すのは二の次だ。

 ……勿論、最終的には倒すけど。


 ——まあでも……今日の戦いで、一つの答えは見つけたのかな……。


 その瞬間、突風が吹く。


「あっ……」


 気付けばそこに地面は無く、暫くして足を踏み外したのだと理解した。

 背中から、あるかも分からない地面に向けての自由落下。風が私を包み込む。

 何も足掻けなかったとしても、何か……何かを掴まねばと、届かぬ太陽に手を伸ばす。

 そして……。


「……ただいま。私の愛しい……愛しい世界」


 ——空気が変わった。……自信は無いけど。


 雑草のクッションを背中にチクチクと感じながら、何も変わらない太陽を握りしめた。


「何やってんだお前……」


 三色髪の少年が私の顔を覗き込む。

 理由も方法も知らぬまま、私はまた来たらしい。この世界に……。

 纏わり付いた雑草を払いながら立ち上がり、落ちてきた先を見上げる。

 どうやら、片側が急斜面で崖の様になった丘から落ちてきた様だ。両の手で斜面を掴んで崖を登る。


「いやー……災難災難。変な事もあるもんだよねー……」

「大丈夫ですか? 怪我とか……」

「これぐらいの高さなら、平気平気!」


 大概の建物なら、屋上から飛び降りても余裕で着地できる。

 そんな事実がある中で、白靄に対して恐怖を抱くのは種の記憶なのだろうか……?


「これ、僕が落ちたら……」

「死ねるかも……ね?」

「妖精族基準だとにゃー……」


 どうして、この世界に戻れたのかは分かんないけど……これからの事は決まっている。

 正直、彼らを手伝うだなんて意地みたいな物だけど……最後まで付き合わなきゃ変に気持ち悪いしね……。

 それに、やっぱり私が親父に勝つにはまだ早いみたい。だから、そう……。


 ——回り道って事で……。だから、もう少し待ってな……親父。

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