竜の世界
異世界に行く方法なんてあるんだろうか……?
実際、あの世界に行った時も……ただ、迷子になっているだけだった気がする。
要は、気付けばそこに居た……なんて曖昧な事象だ。
だから説明なんて出来ないし、私自身も良く分かって無いけど……強いてその時の共通点を挙げるのなら、私はまた迷っているんだろう。
「……ただいま。私の愛しい世界」
強く吹き荒ぶ風が、今にも落とそうと私の体を押し出してくる。
下を覗けば白の靄。落ちたらどうなるか、未だ私達も知らないけれど……少なくとも、帰ってきた人は一人も居ない。
大地とは到底呼べない、限りある足場とそれらを繋ぐ吊り橋。
名前なんて無いこの場所で、生き残る為に強さを求める。
ここが……私の世界。
「本当、立つだけでやっとだっての……」
飛ばされそうな体を支えながら一歩、また一歩と当ても無く進む。
——さて、これからどうしたものかな……。
私としては、彼らの傭兵として雇われていた訳だし……ほったらかしにするのもなぁ。
でも、そのためにはまた異世界に行かなきゃだし……。
うーーん……こう言う時は……。
「神頼み……ってね!」
この世界の端っこ。何処かから、はぐれてしまった様な場所……神域。
——本当、人居ないな……ここ。
大きな枯れ木に、人一人が入れそうな穴が一つ。中には丸い鏡が置いてある……ただそれだけ。
それ以外は何も無い……寂れた場所。
私たちの神様を祀る場所、らしいけど……もう誰も、神様なんて信じて無いらしい。神様が力を示してくれれば、きっと信仰し始めるんだろうけど……。
でも、手入れもされずに放置されたこの空間が、私は昔から好きだった。理由なんて、言えそうに無いけどね。
神様にとっても、私は見慣れた顔だろうし……作法も何も知らないけど、お願いするだけしてみよう。
「神様ー……戻してー……。この通りだからー……頼むよー……」
……。
——うん、やっぱ駄目そう。
枯れ木が必死にガサガサと騒いだって、私には伝わんないっての……。
うーん……となると本ッ当に出来る事が無いし、当ても無い。
……いや、一つあるか。
「はぁ……。久しぶりに帰りますか……憂鬱だけど」
× × × ×
竜の頂 我が家
私たちは会話をしない。
それが、いつも通りの生活だった。
例え家族でも、友人でも……あまり言の葉は交わさない。
それよりも、もっと効率の良い方法を知ってるから。
「くっ……」
鈍い音が辺りに響く。こちとら、腕がへし折れそうだってのに……余裕そうな笑みがまた、ムカつくのなんの……。
父との手合わせ。それが家に帰った時のお決まりだった。
『強さ』
それが、私たちにおける全てだ。
弱者に差し伸べられる手は無く、全てを自分の力で掴み取る。
そして、負ければ全て奪われる。
そんな世界で、最も強かった父が一番上に立ち、それ以外が下に付いた。
そんな父から生まれたのに私は、『最強』に見合った強さを持っていないのだ……。
周りからの冷ややかな目に、父が反論してくれる訳も無い。全ては、私が弱いから。
「っ……」
父は何も語らない。
教養も、戦闘の技術も、強さとはなんたるかも……。何もかもを、見て覚えろと言わんばかりに……。
——ああ、今日も……来るッ‼︎
吹き飛ばされた体を出来る限り安定させ、手をついて着地する。
よろけた体を持ち直している間、父は待っていた。……まるで、全力で止めてみろと言わんばかりにッ‼︎
目視出来るほどに口元の熱で空間がゆらめき、離れた場所からでも体感できるほどに、辺りの気温が上昇し続ける。
来るのは分かってる……けど、どうすれば良い⁉︎
父は笑みの様に大口を開ける。
次に見えた景色は……炎の中だった。
「あ゛あ゛っづ……⁉︎」
幾度と試合って、私が父に勝った試しは無い。だから、敗者の景色というのはもう見飽きていた。
這いつくばって、上を見上げて……爪が食い込むぐらい、拳を握って……。
そんな私には目もくれず、父は口元を手の甲でクッと拭いた後、ゆっくりと戻って、偉そうな椅子に腰掛ける。
そして肘を置き、足を組みながら頬杖を着いた後……不敵に笑うのだ。
「ゲッホ……ゲホ……。竜だからって火吹くとかありえんし……」
地面に腰を下ろし、大きな枯れ木に体を預けながら不満を垂らす。
炎を直接食らっている所為か、肌がペリペリと剥がれ落ちていく。
「痛ったー……手加減とか無いのー? 自分の娘にさー……」
何故、あんなにも戦闘を重ねるのかなんて分からない。私なんて早々に捨てて、別の子に鞍替えすれば良いのに……。
そんな事を思い始めて十数年。結局、私は一人娘で落ちこぼれ……。
それでも、得た物はきっとある……いや、今のは言い訳。絶対ある。
決意を胸に空を見上げ、きっと何処かに居る誰かに話しかけた。
「……やっぱり、私戻るよ。あの世界に。そして、またこの世界に帰って来る……きっとね」
——心残りを置いたまま、最強になんてなれやしない。強さに濁りは必要ない。だからこそ、彼らの元へ行かなくちゃ……。
取り敢えず、またあの世界に行く方法を考えよう。
そして、ついでに叶えば親父ぶっ倒す。
そう心に誓い、彼女の日々が始まった……。
異世界詐欺ですね




