求める強さ
単独行動と言うのは慣れているつもりだった。
いや、正確には守護霊じみたラジオが延々とノイズを喚き散らしているのだが……こいつはカウントしないでおこう。
一先ず、小人族はシーアの事を信頼している人間が多い為、二人の恋仲も認められやすいと考え、シーアは火山に留まる事になった。
俺達とエルスは話通り、神話を使ったアプローチを試す為、アルヘームへと向かっている最中。
少し早いが休もうと言う話になり、休憩所にて各々が休息を満喫する中、サイは一人でに抜け出していた。
さながら、わんぱく少年の様にあっち行ったり、こっち行ったりとパーティを抜け出し続けているサイだが……その理由は、近くに奴がいるかもしれないと言う話を聞いたからだ。
しかし、広大な大地に一人というのは持て余す。
言葉に出来ない虚無感を抱えながら、帰る道を見失わぬ様に悠久の幽鬼を探している所だった。
「居ねえもんだなぁ……」
手慣れ始めた魔物との戦闘が終わり、そんな独り言を呟く。
これだけ視界が開けていたらすぐにでも見つかるかと思っていたが、案外そうでも無いらしい。
——いや、待てよ……。奴は襲いかかってくる魔物を蹴散らして徘徊している……だったら、そこには戦闘の跡がある筈か……?
見た所、このあたりにそれらしき物は無い……少なくともここの辺りは通っていない?
「あーあ、無駄な事やってんなぁ……」
シストラムが居れば、嗅覚でどうにかなるかもしれんが……如何せん彼女達の力を借りる予定は無い。
無理をしているつもりは無いが……意地は張ってるんだろうな。
——正直、自分でも分かんねえよ……。
「あ……ぉ……ね……ちょっと! 聞いてるんですか⁉︎」
「……ん? ああ、聞いてない」
「そんな爽やかな顔しても、酷い事言ってるのに変わりは無いですからね⁉︎ 全く……散々話しかけたのに無視するなんて……」
「悪かったよ……。何か用があったのか?」
「いえ、用はありません。ただ、ちょっと怖い顔していたので。戦闘で張り詰めているだけだったかもしれませんが……」
伝え辛そうな気持ちを抑えた様に、彼女は死者としての言葉を掛ける。
「成仏させてくれるのは嬉しいですが、そう気難しく考えないで下さい……。所詮は死人の戯言。今を生きる貴方に、限りある時間を使わせている事を、私は気にしているんですからね……!」
——悟った顔で、悲しい事を言わんでくれ……。
言葉にはしない言葉を抱えながら、ふと空を見る。
地平線から溢れ出した光が淡く世界を照らす。
地に生えている草ですら赤みがかった世界では、こんな俺でも一曲歌えそうな気分になる。
しかし、オレンジ色の夕焼けと黒焦げた雲、恵まれた大地から目を逸らし、踵を返して歩き始めた。
誰かがそう言ったように、世界は綺麗だ。
ああ、しかし……くそったれ。嫌に綺麗に見えやがる……。
× × × ×
休憩所
「本当、無駄な事やってたわ……」
そりゃあ、探しても見つからない訳だ。
灯台下暗しとは良く言ったもんで、まさか人類を滅ぼした古代兵器が、人の賑わう場所で悠々と歩いているとは思わなんだ。
そんな彼はボロ布を靡かせながら、堂々と一直線を歩き続ける。物好きの視線など気にも留めずに。
「あ、何処いってたのー? さっき、折角この世界の名物が見れたのにー……なーんて、シスちゃんと話してたんだよー」
「ユーロース……知ってたか?」
「んんっ……そりゃ、異世界名物みたいなもんだし?」
——情報収集の相手ぐらい、選ばなきゃ良かったよ……。
「あの人、ずっと昔からあの格好で歩いてるんだって。噂じゃ、何千何万年前からとか言われてるけど……誇張されすぎってもんよねー」
——ああ、本当なんだろうよ……。そんな馬鹿げた話……。
「どこの種族かも分からないし、やけに目立つのよねー……あ、襲ったり攻撃しちゃ駄目だよ。一回やられたら死ぬまで追っかけ回すって話だからー……」
「そうかい……」
話に聞いた通り……他人のそら似では無さそうだ。
まあ、チャンちゃんが奴の周りをヒュンヒュンと夏の虫の様に飛んでいるあたり、そんな筈は無いか。……別にその方が良かったなーとか思ってないし。
しかし、そう思える程に圧はある。どれだけの屍を踏み越えてきたのかは知らんが、それでも離れようとしない彼女に感謝するこった。
「いやぁ、やっぱり何度見てもかっこいいですねえあなたは……。まあ、血に染まってますけど。ところで最後に会ってから何年経ちました? あ、別に殺されたことに怒って無いですよ? 最近会いに行って無かった事は謝ります。私は私で色々画策している事がありましてね……。久しぶりの再会ですから、少しぐらい馬鹿やっても許されますよー……」
「……」
——まあ、いい。
一先ず安心したのは、この古代兵器がゴジラレベルの規模のデカさでは無い事だ。
流石に、怪物相手の首を切れ。なーんて身に余る。
なんとかなるだろうか……?
失敗は許されないが、始めなければ正解かも分からぬまま。
少なくとも今は、しょうもない自分を信じる事ぐらいしか出来ないだろう。
「後は、それに付いていける様に強くならんとな……」
「ん? なんか言った?」
「……いや、何でもねえよ」
目の前に居る強さの塊を再度否定して、心の垣根を確かめる。
ああ、やはりもう少し器用に生きて来れば良かった。
『助けてくれ』なんて声に出すには届かない距離で、近付く術なんて自分は知らない。
「なあ、ユーロス」
「ん、どったの?」
「お前の生きた世界は、生き難かったか?」
× × × ×
「…………まあ、程々にね」
自分の体を舐める様に見据えながら、ため息混じりに言葉を返した。
私は未熟者だ。
体の成長が遅いのか、竜の鱗は生えてこないし……尻尾は蛇の様にツルツルだと馬鹿にされるし……。
強さが全ての世界で生きる為には、私はまだまだ貧弱者。
そんな私が生き易い世界とは到底言えなかったけど、別に嫌っていた訳では無かった。
——元の世界に帰るのが目的である彼らの傭兵として、彼らを手伝う。私も、その船に乗って良いみたいだけど……もし、その時が来たら私、どうするんだろう……?
特別、この世界を気に入ってる訳じゃ無いし……でも、帰る理由だってある訳じゃ無い……。
あれ、私ってこんなに何も無い人間だったっけ……?
弱い自分のままでも認められるのに、この世界が何故か好きになれない理由……。
「ああ、そっか……」
この世界には、あんなに恋焦がれた『強さ』は必要無いんだ。
このままで良いのだろうか?
そんな事で思い詰めていたのか、気付けば深夜で布団の上。
埋まらない答えを吐き出す様に、いつものコソ練を始める。
「ゲッホ……はあ、無理無理。て言うか……そもそも、ここで出したら燃え尽きるんじゃ……?」
どうやら、竜は炎を吐くらしい……。
それで、私が吐けるのかって? ご冗談。
少なくとも、私は無理。……周りは、皆んな出来るらしいけど。
そう、私は落ちこぼれ。
炎を出そうとして出た嗚咽が、今の私の感情そのものだ。
皆んなが出来る様な事も出来ない私は、どうやって強くなればのだろう……?
……どうして私は、未だに『強さ』を求めているんだろう?




