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告白

 ゲノーモス火山 内部


 小人族の日常と言うのは静かな環境になる事が珍しい。

 話し声や作業音。常に何かの音に囲まれるのが小人族の日常だ。


 しかし、今日はいつにも増して騒がしい。


 ……それもその筈。最も嫌い、嫌われているであろう人種。そのトップがこの場にいるのだから。

 当の本人は周りの目など知った事かと、ずんずん最奥へと進んでいる。

 どこと無く機嫌が悪そうに早歩きするエルスに、我々一行は付いて行くだけだ。

 寄り道もせずに最奥の坂を上り、土竜の門を潜り、ハリボテ建造物の中へ。梯子使わないで落ちてくんじゃ無いか? とも思ったが、突然の急ブレーキからカツカツと音を立て、覗き込んだ頃にはもう地に足を付けていた。


 そんな威風堂々エルスさんだったが、いざ扉の目の前に立つと躊躇したらしく、恋する少女の顔で手にかける素振りを見せつつも、その先に進む事は無かった。


「……私が開けようか?」


 そんなサチさんの掛けた声に首を振り、彼女は腹を括った顔で言い放つ。


「ここからは、民の上に立つ私達の……いや、私の問題だ。一人で行かせてくれ」


 そんな事を言われては、これ以上掛ける言葉は無い。

 ガチャリと開いた扉の先に、少し驚いた顔のシーアが居る事を確認し、そっと扉を閉めておいた……。





 扉を閉じた後の会話の流れと言うのは、聞き耳立てる派とやめた方が良い派に別れた。

 聞き耳立てる派のシストラムは、どれだけ貶されようともやるのだと言う決心でいる様だ。


「だって、気になるにゃ?」

「否定はしない。だから俺も混ぜろ」


 そんなこんなで結局、全員が扉に耳を当てると言う構図が完成した訳だが……考えても見れば自然な流れだった。人間なんてそんなもんだ。


 二人の会話は至極真っ当な話し合いだった。

 長同士の話というのは、小難しい事が並ぶ物。これから先の話をするのに精一杯。しかして、善だけでは語れぬ物である。

 そんな明るい話題も暗い話題も話し合うの聞いている……こちらとしては、物凄くもどかしい。


 ……しかし、そんな話し合いも初めだけ。次第に二人(主にエルス)のヒートアップが始まり、終いにはただの喧嘩と化していた。



「そう言う所だ! そう言う所が嫌いなんだ! 単細胞で先が見えていない。その癖分かってる様なフリして全然分かってないし‼︎」

「分っかんなくなって聞いても答えねえだろ! そもそも事の発端は、お前が無視し出した事だからな‼︎」

 


「うーん……入った方が良いんじゃ無い?」


 ユーロスの問いかけに応じるか否か。

 少なくともシストラムは否を唱えた様で、口の前に指を当てながら変わらず偵察を続けた。

 いや、きっと入った方が良いなどと戯言を言うのはユーロスぐらいだろう。

 ……何故かって?


「だぁーかぁーらぁあ! 私とお前が恋仲になれば、民達の収束が図れるんじゃ無いかと言っているんだ! 何度も言わせるなこんな事ぉおお‼︎」


 ——時間の問題だろ、これ。


 さて、エルスのはぐらかしつつも理解は出来る内容を足りない頭で考えていたシーアだったが、恋仲と言う単語を聞いてようやく話の趣旨を理解した様で、声だけでも分かる程に顔を緩めていた。


「ばッ……恋仲ぁ⁉︎ 馬鹿じゃねーの⁉︎ 唐突すぎるだろ!」

「最初からそう言ってるだろう。まったく……仕事脳のお前に色恋沙汰の話などあるまい?」


 ——それ、あんたが言うのか?


 小人族はともかく、エルスも大概の仕事脳である。

 それなりに立場を持った人間は、気軽に恋が出来る環境では無いのか……それとも、立場を持つ様な人間はその手の話が苦手なのか……少なくとも、この二人には春がきた様で何よりだ。


「無い……。無いが……良いのか? お前、俺の事嫌いだろう?」

「ああ、そうだとも。そして、お前が私の事を嫌いな事も知っている」

「あ、いや……嫌いっつー程嫌ってる訳じゃねえけどよぉ……。意味わかんねえ所でキレるのが気に入らねえっつーか……」

「うるさい!」

「痛っ……⁉︎ そういうとこだよっ!」


 扉越しにでも空気の割れる音が聞こえた事は言うまでも無いであろう。

 即ち、ビンタである。


「確かに、私はお前が嫌いだ。仕事しか出来ない所とか、理解力の乏しさとか出来もしない癖に気を使おうとする所とか、会議中の貧乏ゆすりとか……それこそ、挙げれば百個言える程になぁ!」

「そこまで言うなら無理して恋仲にならなくて良いだろッ⁉︎」


 実に正論。しかし、恋とは正しい物では無いのだ。



「…………それでも、こんな嫌いと言う気持ちに嘘を吐けぬ様に、この熱い気持ちにも嘘を吐けぬのだ。例え、お前の嫌いな所が百あるとしても……掛け替えない一個を……。愛そうと決めたのだ」



 

「成る程にゃあ……」

「うーん、これは……」


 ——ツンデレ(九:一)……ですね。


 恋の受け入れ方はひとそれぞれである。

 しかしまあ……これはちょっと俺も予想外。


 ここまで多様化したツンデレという文化にも、『嫌い:好き』の黄金比率なんて気が触れてるな……。


 恋は盲目とは良く言うが、詰まる所は狂気の沙汰。

 どんな音楽家が歌にしても足りない、どんな物書きが本にしても、どんな画家が描いても描ききれない物。

 俺の場合……嫌った世界を憂う程に、心を侵し尽くす狂気に名前を付けて、それを虫の良い話に仕立て上げる。


 ……なに、こうは言ったが決して悪い話じゃない。

 正しい物が正しいのだ、という単純計算も出来なくなった人間にとって、そんな確かな想いは唯一無二の存在なのさ。

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