少女の正体
深夜。
相も変わらず、杠葉サイと言う男は努力を見せたがらないらしい。
少なくとも現時点では、周りの目が休み始めた頃に練習を始めようとしている……筈だったのだが、幽霊少女の目とやらはどう塞げば良いのだろうか?
そんな疑問に答えてくれる人など居らず、妥協によって無視を決め込み、夜の目を掻い潜って抜け出すサイ。
見ていない隙を計らって……なんて事も考えたが、何故か少女は俺の背後霊となる事を選択したらしく、彼女の目を掻い潜るのは無理な話だった。
「夜に一人抜け出して……。これは…………密会⁉︎」
——黙っててくれねえかな……。
邪魔になる事は確かだが、それを言い訳に努力しないなんて言うつもりも無い。
というか、ここには他に誰も居ない訳だし話しかけても良いのでは無いだろうか?
しかし、今まで無視を決め込んでいた手前、なんか話しかけにくいな……。
そんな事を考えつつも、体は動かさねばと刀を抜く。
「……ん?」
ガリッ……と何かを踏む音を聞き、地面から出て来たそれを拾い上げた。
「何だこれ……?」
形状から察するに何か破片の様だ。薄汚れているが、磨けばまだ綺麗で資材としても使えそうな物だった。
「あ、それはですねー……。んー……それはもう遥か昔々に使われた武器の破片かと! 戦争が多かったですからねー。こんなところに出てくるなんて……この場所、昔は戦場だったんでしょうかね? もう覚えてませんけど……」
「へぇ……」
「あれ……? もしかして、聞こえてます……?」
——あ、やっべ……。
横から覗き込む様に疑問を投げかける幽霊少女。
ああ、どうして俺は同調と言う返事をしてしまったのだろうか?
「……あの! 聞こえてますよね⁉︎ 実は私の声聞こえてんたんですね⁉︎ いや、大丈夫です……私には分かります。美人なお姉さんに声をかけられて緊張したんですよね? 年頃の男の子ですものね……大丈夫。これでも私は巷で看板娘をしていたんですよ? 近所の男の子相手には百戦錬磨ですよ。あ、別にやらしいことはして無いですよ? 私にはもう心に決めてる人がいて……って何言わせてるんですかもうっ……。ま、まあ取り敢えずですね? こうして知り合えたんですからお名前だけでも……」
気まずさと動揺、加えて彼女の弾丸トークにより頭はパニック状態。
彼の頭は思考の拒絶を求め、何も考えないまま無視を決め込み、体は予定通り練習へと移行した。
「あの! 確かに私、見た目は幼いですよ? でもですね? 当時、私の体は二十三歳なんですよ? 確かに、マスコットキャラクターの節が有ったことは認めます。でも今、私幾つだと思います? あれ、幾つだろう? ……とにかく! 子供のいたずらとかそういうのじゃ無いんですよ? あの……実はちょくちょく私を狙って無いですか? 確かに私はもう死んでいて……幽霊の類ですけど! 別に斬られても問題ないですけど! 大丈夫だと言われて刀を振られるのを許しますか? あの! 本当に怖いんです! ごめんなさい! 私が何かしたなら謝りますから‼︎ ちょっとお願いを聞いてほしいだけなんです! あの! ひいいいいぃぃぃ……‼︎」
その後、実際に斬ってみた所透けてしまったので諦める事にした。
透明な体を切られた恐怖を与えたのは、少し悪い事をした……なんて気持ちも湧いてきたが、永遠と弾丸トークを聞かされた復讐が出来たので割と嬉しかった。
「……で、何の用なの?」
結局、彼女とは話し合う事にした。一先ず、祟りや呪いが無い類で助かった。
「いえ、特別用があって付いて来た訳では無いんです。ただ、面白そうだなーって思って。ただまあ……幽霊らしく、成仏出来ない理由もありますけど……」
幽霊の癖に、人間らしく腰かけて話す少女。
何処と無く悲壮感を帯び、体を狐火の様にゆらめかせながら足をバタつかせている。
「まず、自己紹介でもしましょうか。私の名前はチャンと言います。気軽に、チャンちゃんと呼んでください!」
——中国人かよ……。
「先程も言いましたが、こう見えても生前は唯一の看板娘。みんなから可愛がられていたんですよ?」
——客寄せパンダかよ……。
こうして幽霊と話したなんて、この異世界でも珍しい事だろう。
個人的に、幽霊の類は信じていなかったのだが……ここまでくれば嫌でも信じる。
目の前に幽霊がいる状況。怖いのか、怖く無いのか……なんて思考さえ過らない程に自然な佇まいの彼女には、それなりに対等に接するのが礼儀だろう。
「杠葉サイ……。一応聞くが、なんで俺だけ見聞き出来てるんだ?」
「分かりません! 永い時間をこの姿で彷徨ってきましたが、君が初めてですよ。これはもう、一蓮托生。私を成仏させてくれる流れですね‼︎」
「いや、知らんけど……」
「えぇー……愛しの彼が大変な目にあってるんですぅ……現在進行形で! ナウ‼︎ 良い加減休ませてあげたいんです。次いでに言うなら、私も休みたいです‼︎」
——最後が無ければ吝かでも無かった。多分な。
「実はですね……」
——別に聞いてない。
しかし、心を読む能力は幽霊にない。……ああ、俺にも無いぞ。
問答無用で説明をしようとする彼女。まあ、それを止める程嫌な訳でも無いのだが……。
「簡単に言えば、彼を殺して欲しいんです。今も彼の非行は続いている……彼の意思とは関係無くです。昔々、一国の王様が世界の統一を遂げる為、彼を利用したんです」
「昔々って……この世界って異種族ばっかの世界だろ? 全種族の統一を目指した訳? 今のヒルコ様みたいな……」
「いえ、そんな話よりもずっと……ずーっと前です。この世界が異種族で溢れる前の世界……」
「この世界で繁栄する筈だった『旧人類』のお話です」




