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新たな出会い

 異世界生活とやらにも慣れ始め、当然の様に日常の一ページが始まる。

 

 皆と合流し、手始めは朝食。

 食事の内容は今いる場所の文化に沿うのが主流だ。わざわざ異文化の食事を売ったりしないからな。

 中には物好きが異文化の食事、食料を提供する店も存在するが……まあ、少数だ。


 そんな訳で小神族の文化に則り、今日の朝食は果物のみになる。

 元々、肉を食らう習慣は少ない様だが、一番の理由としては宗教チックな考えらしい。


 曰く、樹木は神々の依り代で、果実はそのお恵みだとか。一日を始める食材として、相応しい訳だ。

 彼らは神様に対して、全種族の中で群を抜いて信仰心が強い。魔術も神様の御技を模した物、と考えている様だ。


「ん……! すご、美味しい‼︎」


 そんな考えがあるからか、元の世界でもかなり手の込んだ類の美味な果実が勢揃いで、正直驚いている。

 お値段も手に届く額……おい親父、これからの御供物これにしないか?

 あの通販サイトなら異世界だって届けてくれるって。知らんけど。


 そんな食事を終えて少し自由時間。

 大半は女子トークで占められ、俺は少し離れた場所で適当に過ごしている事が多い。

 偶に妖精族の二人が付いてくる事もあるが、今日はそうじゃ無いらしい。


 基本特にする事も無いので、この世界の神話を読むか、異種族の生活を眺めるか。この二つが俺にとっての主流の過ごし方だ。


 今日の俺は後者を選び、鳥の泣き声を聞き流しながら人の営みを眺めていた。

 その間、一人の少女と目が合ったが、すぐ逸らした。

 何、大した事じゃ無い……これも日常の一ページさ。どんな奴なのか、なんて気にしなければな……。


 大それた事件が起こる事も無く、穏やかな木漏れ日が照らす世界。

 日常なんてそんなもんだ。俯瞰的に、無関心に……小さな事に目を向けなければ、世界はこんなにも静かで美しい。


 プチ女子会が終了した時点で、俺の自由時間も終了する。


 『待たせてごめん』なんて言われもするが、案外この時間を俺は気に入ってる。

 何、好きでやってるんだ。話に参加したいと思えば、そうするさ。


「準備はいいかにゃ?」


 向かう先はゲノーモス火山。

 ここまでゆっくりしておいて、出来ていないなんて事は無いだろう、と俺。

 残りの五人も問題無い様子で、出入り口にある水流のアーチへと向かう。


 そんな気持ちで辿り着いた先には、一人。この先に行くには無視して通れないって奴らしい。

 第一声は『我武蔵坊弁慶也』……なんて言う筈も無く、ただ仁王立ちで顔を赤らめたエルスがいた。


「……連れて行け」


 そんな訳で、想定よりは早過ぎるが……決心はついたエルスを迎え、一行はゲノーモス火山へと向かう。


 これで八人。


 ……ん? 数が合わないって? いーや八人だね。俺が保証する。

 まあ待ってくれ。俺だって、上手く飲み込めて無いんだよ……。



×     ×     ×     ×     ×


 旅の最中


 何、大した事じゃ無い。パーティメンバーが増えただけ。それだけの事だ。

 なんなら、エルスさんは活動資金も補填してくれる様だ。文句を付けたくても無理な話。


 俺は引っかかっているのはもう一人……いや、果たして人と定義して良いのかも分からぬ者だ。

 勝手に付いてくるのも問題だが、一番の問題は……俺以外には見えていないらしい。

 ああ、確かにそれが普通なのかもしれない。何を隠そうこの者の体は透けて見え、足は地面に付いていないのだ。

 うーん……。


 ——幽霊だろ、此奴。


 確かに、疑問は抱いた。だって足ねえもん。目があった時やべぇって思ったよ。でもスルーするしか無いじゃん。何? 目が覚めたらなんかしらの理由で霊感が目覚めた系の奴? なーにが、静かで美しい世界だ。気になって仕方ねえよ。


 ……そんな思考を巡らせつつも、一旦のスルーを決め込んでいるサイ。

 だって、祟りだの呪いだのが無いのであれば、このまま俺の幻覚でハッピーエンド。素晴らしい事じゃないか。

 

 しかし、それで済むなら話にするまでもない。


「なるほどなるほど。このエルスさんはシーアさんと言う方が好きなんですね! よぉ〜く分かりますよぉ! かく言う私もですね、それはとても魅力的な男性が、もう私にゾッコンでして……。そこまで好かれたらたまったもんじゃ無いと私も……」


 ——うるせえ……。


 話し相手に無視されながらも会話に参加する少女。

 それに気付か無い女性陣。

 どうしたもんかな……俺。


「そう言えば、エルスさん。急に抜けて来て良かったんですか?」

「何、表面上は小人族との外交で事足りる。この世界じゃ、最も大切と言って良い事柄だからな。そう、難しくは無かったぞ」


 旅の最中は移動が殆ど。その間、時間潰しになるのは雑談ぐらいだろう。

 良く話題が尽きないな……なんて思いつつも、俺自身は流し聞きが基本。偶に会話に入るぐらい。

 しかし、ある一名の恋愛脳のせいで今日の話題は恋バナのみとなっている様だ。


「暇だし、好きな相手の好きな部分でも言っていくかにゃ?」


 ……大体、こんな具合だ。


「私居ないから言えなーい。て言うか、トラちゃんも言えないじゃん」

「ずる……」

「悪どいね」

「そこまで言うかにゃ⁉︎」

「ま、まあ……実際良いポジションだよね。その話……」


 ——いつの間にか、トラちゃんと言うあだ名がユーロスにまで浸透している。なんか女子っぽい……。


 そんな恋愛話の流れに、肩身の狭い者同士が同盟を組むのも自然な流れと言えるだろう。


「……な、何故彼女はああも聞きたがるのだ? そう言う話が若い女子の流行と言う奴なのか?」


 こそこそ話で微妙に違った知識を確認してくるエルス。

 そう言えば、この手の話は疎いんだったな……。


「流行はちと違うけど……。まあ、あいつは人の恋愛話が好きなんだよ。聞いた話じゃ、元の世界でご主人様の恋愛相談に乗っていたんだと」

「な、なるほど……?」


 ——そう。特段、シストラムの過去を聞いたりはしないのだが、酔っぱらった時に話を聞いた事がある。


 そのご主人様には良くしてもらっていた分、恩返しがしたいそうだ。帰りたいと言う理由も、同じ事だと。

 彼女の恋愛脳も、そこから来てるのかもな。


「ええい! サイは⁉︎ 何か言える様な事は無いのかにゃ⁉︎」

「好きな相手の好きな場所を聞かれても、分からんとしか答えようが無い。百個は挙げられるぜ、なんて嘘だろ。多分」

「……まあ、右に同意だ」

「もみじ君はともかく、エルスさんは気付いて間も無いから……」


 さて、ここまでは普通の会話として成立しているが……お忘れなきよう。俺の頭には幽霊少女の語り手が延々と情報を流し込んできている。

 取り敢えず、彼氏ラブ……的な内容でしかなかったのでここでは割愛しているが、右耳と左耳で別の音楽が流れている気分だ。情報量が多い。


「ユーロスはその手の話無いのかにゃ?」

「私……? んー。竜人族の世界って、力が全て。強さが全てって感じだから………色恋沙汰も、それに直結する感じだったかなー……。別に私は興味ないけど」

「お前はお前で変人扱いだったんだな……」

「何、その同情の眼差し……嬉しくないんだけど。ま、私は竜人族の中じゃ全然へっぽこだからー……。色恋にかまけてる暇は無いって訳よ。強くなきゃ、振り向かれないしねー」

「成る程な……」


「つまりですね? 私と彼が繋がれたのはそれはそれは運命の如く、パズルが噛み合ったおかげなんですよ。力? 力だったらうちのだって負けてませんよ。彼だって国の一つや二つ……」


 ——駄目だ。頭がパンクする……。


 良い加減、早く終わってくれないものか……。

 そんな願いも天には届かず、おしゃべりマシーンと化した幽霊少女の惚気話は休憩所に着くまで続いたのであった……。

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