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神然の宿

 この宿には一つ、欠点がある。

 それは……。


「これ覗けんじゃねぇ⁉︎」


 声には出てない。……多分な。


 一先ず、彼女の心境の整理がつくまで暫く一人にさせておこうと言う事になり、一度小人族の集落……ゲノーモス火山へと戻る事になった。

 今回も、メールやSNSと言った情報共有手段の有り難みを噛み締めながら歩くのだが、今日は一旦ここで夜を過ごそうという結論になり、アルヘーム内に存在する宿にて、湯船に浸かっている最中だった。


 ここの風呂場と言うのは、言葉通りの森林浴……いわば露天風呂だ。

 今にも希臘の女神様に姿を変えられた鹿男が、犬に追いかけられながら出てきそうな泉、もとい温泉だが……問題はそこじゃ無い。

 少し遠くで声が聞こえるのだ。彼女達の声が……。


「森の中の温泉かー……なんか神秘的……」

「癒されるにゃぁ〜〜」

「桶の中から……」

「失礼します……」

「良きかな良きかな〜」


 ——あれ? もしかして、鹿になる男って俺の事では?


 いやいや待ちたまえ、一度冷静になろう。

 彼女達は同じ目的のパーティメンバー。もし仮に覗きがバレたら、信頼性を大きく失う。

 パーティ解散になったら最悪、あの娘に再び出会う事も無くなるかも知れない。

 そうだ。そもそも俺には心に決めた相手が居るのだから、彼女以外は所詮有象無象。


 残念だったな女神殿ッ! 俺はあなた方の裸体を見る為、無闇な失策はしないッ‼︎


 そう心に決め、サイはたち上がる。

 腰に巻いたタオルをギュッと締め、逸る足を彼女達に向け、音を出さずに忍び寄る。


 ……残念だったな女性諸君。男なんてそんなもんだ。


 あと少しで見える景色には美少女が多数。温泉の時間はパーティ毎にグループ分けされている為、邪魔する者は存在しない。……やるしかねえだろこんな状況⁉︎

 見えすぎる目に興味は湧かないが、今だけは千里眼が宿って欲しいものだ。透明化でも可。


「もう少し近付くか……?」


 白い素肌を見る予定ではあったが、視界に写る大部分はもくもく湯気君の裸体だ。別段嬉しくはない。

 森を素足で歩くのはかなりの痛みが伴うが、正直それどころじゃない。


「痛って……。取り敢えず、位置を変えよう……」


 修学旅行にて、男どもによる風呂上りの会話が『よく見えなかったけど、見てはいるぜ!』なんてダサすぎるだろう……。ここは蛮勇だとしてもふるうべき……。


「……」


 ——いやそれにしたって痛くない? 刺々しいもの刺さりすぎじゃない? てか何、この懐かしい感じ……。


 一体何が刺さっているのかと、足の裏をひっくり返して覗き込む。

 バチッ……バチッ……と音を立て、足の周りで発光スペクトルを暴れさせながら走る『それ』はあの日に受けた衝撃に似ていた。

 ……否。そのものだった……。


「おーけー何かの間違いだ」


 ゆっくりと足を前に出してみる。足の先からふくらはぎに向けて、走る彼らに目を見開く。

 うーん……。僕が思うにこれ、増してますね……。

 思っていた以上の衝撃による反動で足を引き戻し、声になりそうな思いを心に留めながら言い放った。


 ——雷だ。これ。


 残念だったな男性諸君。お色気シーンなど無い。


 ——原理は分からんが、女湯に近付くにつれ電力が増していくらしい。さながら電撃結界が張られている訳だ。


「……仕方ない。ここで見てよう……」


 翼を持たぬ人間が空に想い馳せる様に、彼女達を眺めていよう……。

 千九百三年以前の人々の想いと今の彼の想い。一体どこに差異があるだろうか……?

 そんな彼が出来る事と言えば、決して届きのしない光に名前をつけるぐらいだ。

 しかし、男の浪漫を見ようにもキャンバスには白い絵の具でかき消され、何気なく見ようとした星空は木に邪魔され見えなかった。


「……半裸で寒いし、戻ろ」


 くたばれ異世界。もう許してやんねえ。

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