恋と知覚
「集合」
一人の宣言と共に、部屋の端で集まる4人。
アー、ルヴが困惑のエルスと雑談をする中、この小さな空間では異様な空気が漂っていた。
「まず、我々の目的を再確認しよう。俺たちは、元の世界に帰ると言う名目で集まった。そして、この世界の統治者的存在……ヒルコ様に相談し、神様の試練とやらで今回は小人族と小神族とのいざこざを収める。そうだな?」
「ほふはっへー……?」
「そこの尾噛み女。一旦黙れ」
「そして、言われて来てみれば、恋してる……って事だにゃー……」
「へ、そうなの? 誰が?」
「チッ……押さえてろ」
腰に付けた刀の帯を外し、わんわん喚く爬虫類の口を縛る。
さながら拉致監禁をしている気分になったが、今は置いておこう。俺にその様な趣味はない。
「問題は、本人がそれを気付かずに嫌いだと認識している事。まあ、本当に嫌っていて俺らが勘違いしている可能性もあるが……」
「それはありえんにゃ。……恋愛脳の勘がそう言ってるにゃ!」
「あっはい……」
——ふむ。さて、これからどうしたものか……。
我々が直接、それは恋だと伝えるのは良いが、恐らくそうすれば彼女の頭は暫くパンク状態になるだろう。
ただ、あの調子じゃ自分で気づく事なんて無いだろうし、その件は仕方ない。
彼女自身がそれを自覚したとして、問題は……。
「えっと、ちょっと良いかな……」
自己完結の思考の中、サチさんが顔を赤らめながら口を開く。
「エルスさんって……好き……なんだよね……シーアさんが……。だったらそのまま直接伝えるのが、良いのかなって……。やっぱり、そう言うのって……変に拗らせるより、直接の方が良いんじゃないかな……って」
「概ね同意だが……問題は、彼女達の立場だ。昔から、小人族と小神族の仲は最悪。本人達はそれで良くても、民衆がそれを許すか否か。……元々、ある程度の立場を持っている人間は、エルスさんの事を良く思ってないって話も聞いたしな……」
公衆浴場でモルボスから聞いた話を思い出し、小神族の背景を語るサイ。
——まあ、実際は目で見ないと分からん代物ではあるが……。
我々は政治のエキスパートでは無い。シーアはともかく、エルスはその手の話に長けているだろうし、任せるのが無難なのだろう。
方向性は彼らが決め、それの手伝いを我々がする。
「取り敢えず、エルスさんに恋だと伝える事は全会一致みたいだし、彼女の気持ちを自覚させる事から始めるか……」
第一投手 サチ
「エルスさん!」
「ん? どうした?」
「シーアさんの隣を歩く事を考えてみてください!」
「き、急だな……。まあ、やってみようか……」
以下省略
荒ぶるエルスを鎮め、散らかった椅子等を片付けた後、第二投手 ユーロス
「……」
「えーっと……」
「はむはむ……」
「次ッ‼︎」
第三投手 シストラム
「だからにゃ? こう……ぐわーっとした感情を胸の奥から感じたのであれば、それは嫌いな感情と言えるけどにゃ? なんと言うか……むむむむ……みたいな感情を抱いているとすれば……」
「は、はあ……」
「どけっ……エモーショナル馬鹿ッ‼︎」
第四投手 サイ
「よし、じゃあエルスさんが抱くシーアに対する想いを再確認しよう」
「う、うむ。……やはり、心が灼ける感じだ。もう少し具体的に言えば……そうだな……。炙られ続けている感じだろうか……?」
「ほう、成る程」
「一体なんなんだ? みんなして……」
困惑するエルス。ま……結局、試行錯誤したってこうなるのが自然だ。人間関係ってのは……。
「エルスさんよ。一度身を引き締めて聞いてくれ」
「あ、ああ……」
「そりゃ恋だ」
他人の気持ちなど理解出来ないとは良く言うが、今に限って言えば彼女の気持ちが手に取る様に分かる。
頭の中で『恋』と言う概念や言葉が反響し続け、情報過多になるんだ。
そして、そんな人間の取る行動は……。
「そ、そんな訳無いだろう? 炙られ続けているのに好き等と言う気持ちを抱くなど……」
浮ついた思考による否定。
しかし、その言葉で俺は確信したのだ。
「今のあんたの気持ちを言語化してやろう。好きな気持ちで堪らないのに相手は見向きもしてくれない。炙られ続けると言うのに例えるなら……丁度食べ頃なのに、焼き続けてこのままでは焦げてしまうって所か?」
「今か今かと待ちわびていながら、どうして彼は自分に無関心なのだろう。彼は自分の気持ちに気付かないし、相手にどう伝えて良いのか分からない。そりゃ恋だよ……」
「そん…………な、筈は……」
色恋知らぬ少女に訪れた……否、訪れていた恋心。
本人からしてみれば急激に世界が反転して見えた事だろう。
少女の脳はオーバーヒートを起こし、焼き切れた錯覚を覚えながら意識を失う。
——なんか人形に出来そうだな……この姿……。
女の子座りの状態で両肩の力が抜き切っており、大口を開きながらパカパカとさせているエルス。
同じ恋心を持つ物同士親近感を抱きつつも、共感覚によって少し恥ずかしくなって来たサイ。
例え元の世界に帰る目的が無くなったとしても、彼女の恋心にはとことん付き合ってやろうと決意したのだった。
焼肉行きたいですねぇ……呼ぶ人いないけど




