担い手の世界
その世界は職人がありふれていた。
製造に特化した世界では『物』は成長し、そして『人』は退化する。
やがて学習を辞めた人類は終戦を知らぬまま、今尚争いは続いているのだろう。
しかしながら担い手は居らず、道具に扱われている事に気付く者は居ない。
人々は造る事だけに専念し、扱う事を忘れたのだ。
そんな彼らも、いずれは終末を迎えるだろう。
もっとも、人が学習を求めない事には、争う両者に『差』が生まれる事は無いだろうが……。
「ま、散々馬鹿にしてはいるが……俺の故郷だからな。例外なく、俺だって同じ考えだった訳だ」
やってる事は今も変わんねえな……と自虐気味に話すシーアに、自らの素直な感想をサイは聞かせる。
「何言ってんだ。人間が変わる瞬間なんて一瞬で、結局そいつは今まで通りを生きるしかねえもんだよ。自分の知らない世界を認知して、世界が広くなった事を『変わった』なんて勘違いしてるだけだ」
自分の経験談から話すサイになんとなく気が休んだのか、シーアは少しにやけながら皮肉を飛ばす。
「それじゃ、俺は一生このまま生きるしかねえのかね……」
「それは違う。所詮人間は変われんが、自分の理想像とやらになりたいと想う心は尊重されるべきだ。後は、そいつ自身が無理して立ち振る舞うかどうかの問題でな。まあその結果、案外出来た事に勘違いして調子に乗る阿呆も居るが……」
「んん……お前、もしかして頭良い話してるか?」
少し照れ気味に、『何言ってるか分からんぞ』と主張する顔付きに、ため息を吐きながら首を振る。
「……忘れてくれ」
「そんな事より、長居するのもどうかと思うにゃ? そろそろ発ってもいいと思うけどにゃー」
——そんな事より……。
彼が言う、好かれる努力を諦めた事の一つに、自らの率直な感想は嘘偽らずに話すという物がある。
今回はそうでもなかったが、この話をすると何故か嫌われやすかった。
いや、今回も皮肉に対して否定を入れなければ、人によっては嫌われる要因に成り得たかもしれない。
そんな前例もあった為、控えていたのだがつい出てしまった……はまだ良いのだけど、そんな事かぁ……。
「え、えっと……。た、確かに……とりあえず目的は果たせたし……」
「いや、良いよ。気ぃ使わなくて……」
「そ、そう?」
心優しいサチさんに心の中で敬礼しつつ、シーアに感謝を伝えてこの場を後にする。
とぼとぼと歩く歩幅に合わせてくれる彼女は女神か何かか……?
「……あ、おい!」
扉に手を掛ける直前でシーアの声が響く。
「忘れ……人?」
そう言って指した指の先には、机にちょこんと座った妖精族の姿があった。
アーは幼児が横断歩道を渡る様に右手を高らかに挙げ、ルヴはよそ見をしながら足をパタパタとさせている。
「うちが連れてくから先に行ってていいにゃー。すぐ追いつくし、どうせ梯子はサイが最初に登るしにゃ」
「あ、ああ……」
——悪気が無いのは、愛嬌と呼べば良いのか……。それともある種、意地が悪いのか……。
少なくとも自分の経験上、彼女と比較出来る様な人間との関わりは無いらしい。




