どこから見てもただの鉄の剣
最奥にある坂を上り、土竜の像が対をなす門を抜けると、初めに見た大きな建物の全体が見えてきた。
建物の外観は大きな円柱で入口に扉は無く、両手を伸ばしても入れる程の穴が空いているのみだ。
壁にはこの国の紋様らしきものが彫られている。記憶が正しければ、晴天ヶ原の宮殿に同じ様な紋様が描かれた国旗が一つあった気がする。
中に入り、何があるのかと身構えていたが、それに見合った何かがある訳では無く……ただ大きな洞穴と梯子がかけられているだけだった。
「何もねえな……降りれば良いのか?」
「そうしてみるかにゃ」
身の丈三つ分程ある梯子を降りると、少し屈んで通る程の道が出来ており、一本道の奥には赤黒い扉があった。
「洞窟の中に洞窟とは、良く分かんねえセンスだこと……」
手を払いながら最後尾のサイが合流し、奥の扉を開ける。
中は質素だが、最低限の仕事ができる机と椅子、そして机の上には乱雑に資料が散らかっており、内容は遠目で見ても分かる設計図の様なものが大半だ。
その椅子には勿論、シーアが座っているのだが……頬杖をついて、何やら不服そうな顔をしている。
「ん……やっと来たか」
重い腰を上げ、立ち上がるシーアに訳を聞く。
「なんかあったのか?」
「いや、そういう訳じゃねえ。ただ、こうして席に座ってるだけってのは退屈でな。元々、表も威厳のある建造物を……なんて事を言われて建てただけの物でな。鍛冶とかの仕事場は別にあるんだ」
そう言って親指で後ろを差す。
指差した先には半開きで扉が開いており、ケーブルカーの様な物があった。
——ゴミ収集車のおっちゃんみたいな乗り方しないと乗れんよな……あれ。
「ここは、小人族の長としての仕事場でな………つっても、俺には性に合わん。内政だとか、苦手なもんでな」
そう言ってシーアはごそごそと机の下を漁り、それぞれの武器を渡してくれた。
「本当に出来てるのか……。ん、ありがとよ」
「ほら、嬢ちゃんのも……」
「あ、ありがとうございます」
「……ん? こんなの言ってたかにゃ?」
サイに渡された二つ目の武器に疑問を抱くシストラム。
「ああ、俺が追加で頼んでおいた奴だよ」
シストラムとサチさんがあだ名がどうこう言っている中、日本刀とは別にもう一つ、小回りの利く剣鉈をお願いしたのだ。
それぞれ、腰や背中に日本刀と剣鉈、弓と矢筒を掛ける。
ずっしりとした重みがゲームとは違うリアリティを感じさせ、息を飲む。
試しに剣を抜いてみると、ガシャリと音を立てて光る刀身が目を眩ませた。
「飢人族じゃ刀に名前をつけたりするらしいが……生憎、俺らにそんな習慣は無いんでな。付けたいなら勝手に付けな」
「いや、刀に名前付けても痛い目見るだけだし……遠慮しとく」
昔、木の枝にアメノオハバキリと名付けた結果、センスが無いと馬鹿にされてからはその手の話を却下している。
まあ、そのままにしておけば、その木の枝で我が子を殺す事になるのだが……。
——それにしても、子供であの名付け方は無かったな……。
「それで、そのちっさいのは何でなんだにゃ? 一つでも良い様なもんだけどにゃ……」
「俺のFPS、TPSのプレイスタイルはナイファー一択だ。つまり、そう言う事だ」
なんかかっこいいだろう。という理由で決めポーズ。勿論、みんなからは無視された。
横ではサチさんが指を守る弓懸を付け、弓を引く動作をしている。
「まずは、慣れか……。偽善とは言え、平和を謳って来た我が世界では、剣なんて扱う事は無かったのである」
そう言ってぶんぶんと適当に剣を振るサイに対して、『安心しな』とシーアが口を挟んだ。
曰く、小人族の世界では物に対しても『経験』が積まれるらしく、初心者も安心の設計だとか。
自信満々に頷くシーアに、何言ってんだこいつ……と言わんばかりのサイ。
その姿に、まだ理解出来ていないのだと判断したシーアは続けて説明する。
「剣を振ったりしたら、人間は剣に対して成長するだろ? その際、剣も同じく成長する。成長、経験した剣を扱えば、担い手の成長、経験が無くても剣の分だけ扱えるって訳だ」
「つまり、サイ自身がクソ雑魚でも、剣が強ければ問題ないって事だにゃ……!」
何故か、自信満々に頷く異世界先輩の両者。
確認の為、サイが今の説明受けて整理する。
「つまり、自分のレベルが上がってなくても、剣のレベルが上がってるから強いみたいな奴か? 初心者キャンペーンだとかで初めたソシャゲみてーな……」
「そういう……」
「事だにゃ……!」
再度言おう。……何故か、自信満々に頷く異世界先輩の両者。
十中八九ソシャゲ部分は伝わってないであろう彼らに、疑問を抱く異世界後輩の両者。
尚、同じ異世界先輩である妖精族はノーコメントを貫いている。
「えーっと……という事は……」
「ああ、この武器作り立てだから……経験も成長もレベルも全部0だな」
「「……確かに!!」」
「……にゃ」
「ねえ、彼女語尾怪しくない……?」
「えっ? ま、まあ……」
近過ぎない適度な距離の耳打ちで、疑う彼らに弁明するシストラム。
……少なくとも、語尾云々の話は内容が覚えられない程薄っぺらい内容だったので割愛する。
「……で、獣人族の知性は本来より低下している……という言い訳で、シストラム弁護士はシストラム被告を弁護するらしいけど。小人族の長であるシーアさんは?」
「ん、俺も言い訳させてくれるのか?」
——そう気持ち良く言われると、少し嫌味ったらしく言った自分が恥ずかしいわ……。
『つっても大した話じゃ無いんだがな……』と前置きし、シーアは語り出した。




