年頃の少女
「昨夜はよく眠れたかにゃ?」
「いや、全然……」
午前九時、火山内部。
早起きしたのに朝日を拝めない、ふざけんじゃねえ……という思いは胸にしまい、女性陣と合流する為に受付前へ向かうと、先にシストラムが来ていた。
「これ、日が経てば色落ちるとか……無い?」
寝起きで鏡を見ると、どこかで見た様な気がする男がそこに立っていたのだが……それは一度忘れよう。
「そんな嫌かにゃ?」
最終確認終了……やっぱり俺だった。
「……んで、サチさんとアー、ルヴはまだ来ない感じか?」
「さとにゃんは寝癖がー……! ってずーっと言ってたにゃ。二人はそこに付いてるにゃ。……飢人族の世界は、みんなあんな感じなのかにゃ?」
うーん……。
「現場は見てないし見た事ないけど、女性陣はみんなそんな感じだと聞いています。はい」
「大変そうだにゃー……」
「そう言うの、トラちゃんは無いのか?」
「トラじゃ無いにゃ、弄るんじゃ無いにゃ。うちは……多分、獣ぱわーでなんとかしてるにゃ」
「何そのぱわー、なんか欲しい」
……そんな会話を繰り返している事数分、サチさんが妖精族の二人を手に抱えながら慌ただしく走って来た。
特別遅刻をした訳でも無いのに忙しいもんだと他人事ながら思う。
朝に見える世界というのは、ぼやけてふわふわしているのだが……その姿は話に聞いた通り、世の女性諸君による努力の結晶で……率直に言うと美しかった。
「流石っす……」
「へ?」
唐突な褒め言葉に反応出来ていないサチさんに対し、シストラムはただ……ただただ呆けていた。
恐らく、獣人族の世界……少なくとも、獣人達にはそう言った文化は無かったのだろう。
「すごい技術も、あるもんだにゃ……」
「世の女性の必修科目らしいぞ。知らんけど」
「まじでかッ!」
語尾すら怪しくなっているシストラム。
そんなやりとりに恥ずかしくなったのか、サチはシストラムの手を掴んで俯きながらこの場を後にする。
「と、取り敢えずチェックアウト……? 済ませてくるから!」
ここで待て! と言わんばかりに言い放ち、サチさんは妖精族二人を椅子に置いて受付へ向かう。
嵐の様に過ぎ去る彼女に有無を言えず、妖精族の二人となんとなく気まずい空気が流れる。
この静寂は、過ぎた嵐が帰ってくるまで続いた……。
まだヒリヒリと感じるマグマの熱と空気に慣れないまま、昼を待つ一行。
我々はちょっとした広場で次の行動の予定を決めている最中だった。
「もう少ししたら、あの馬鹿でかい建物に武器を取りに行く訳だけどにゃ。その後、このまま一直線で小神族の集落……アルヘームに行くかにゃ? 一度、晴天ヶ原に戻る事も出来るんだけどにゃ」
「でも……戻る理由ある……?」
「買い物も……休憩所で事足りる……」
サチさんの両肩にちょこんと乗ったアーとルヴが疑問を投げる。
「ん……。まあ、そう言われれば特に無いかにゃ……?」
「そ、それじゃ……直接アルヘームに向かう方向で……」
少し口ごもりながらも同調するサチ。
……なんとなくだが今日、俺に対する彼女の様子がよそよそしい。
ま、別に普段から仲が良い訳では無いのだが……。
——まだ、昨日の件引き摺ってんのかな……。
普段から人の目を見る癖が無くて良かった。しかし実際、年頃の少女の前で愛を叫ぶという行為はかなり奇行なのでは……?
まあ、本人に向けられた言葉でも無し、問題は無いだろう。しったこっちゃねー……。
「二つの種族に対するアプローチは、小神族の長と話してからだしにゃ……」
「最良は示談、最悪は戦争って所かね。まずは何考えてんのか確認かぁ……」
結局、話を聞かない事には進まない。という結論に達する一行。
適当な雑談をしながら時を待つ。昼はそう遠く無い。




