くそったれの神様へ
「はぁー……美味し……」
部屋に戻った後に水分補給をし、一息入れる為に横になる。
なんだかんだで異世界生活とやらにも慣れ始めて来たのだが、いざこうやって休んでみると特にする事も無く、途方に暮れてしまう。
スマホやゲームがある訳でも無し、ましてやPCでのオンラインゲーム等もってのほか……暇を潰せる物と言えば、この世界に語られる建国神話が綴られた書籍一冊。
今に限って言えば、指遊びや雑談に暮れる相手の一人や二人を呼び出したい所……と思う程には暇を持て余していた。
——あ、俺友達いねーや。
「……なーんて思考回路も、異世界だからと言い訳できるのは、素晴らしい事だな」
そんな卑屈さを滲ませながらも、現状に笑えるぐらいには上手くやれているつもりだ。
如何せん、シストラムやサチさんに対して『俺たち、もう友達だろ?』と言い難いぐらいには、孤立した人間だったのだ。
好かれる努力……と言えば、曖昧で幅も広すぎるのだが……まあ、細かくルールを決めた訳でも無いので許してほしい。
……ともかく、そんな努力を諦めた人間が、この俺なのである。
勿論、だからと言ってこの世に誰からも好かれる人間が居ない様に、誰からも嫌われたりした訳では無い。
ある人間は顔見知りレベルの少し気まずい関係。
ある人間はお互い距離を取り合う関係。
ある人間は俺に憤慨したり、無礼だと罵ったり……まあ、そんな程度。
特段後悔をしている訳でも無いのだが、他の生き方もあったかなぁと思うのもまた事実。
異世界生活とやらをきっかけに、そんな生き方を試してみた感じでもあるが……まあ、性に合わないかもな……。
「……暇を持て余すと、余計な事ばっか考えてしまうな。いかんいかん」
首を振って一度頭をリセットする。
……割と効果はあるので実際やってみて欲しい。
ほら、いっちにー……。
よし、じゃあ切り替えて……次は俺の恋話でもするとしよう。
散々捻くれた思考で世界を嫌って来た俺だったが……きっかけ一つで全てを許容できるぐらいには、世間的に成長したと言える。
高校デビュー等くそくらえだと馬鹿にしながら迎えた新学期。
一年間同じ教室で過ごす同級生に、嫌な顔を隠さず席に座りながら過ごす事十分程度。
トイレに行く為に立ち、目の前で扉を開けて入った彼女の姿を見た途端、稲妻がこの体に落ちて来たのは錯覚じゃなかった……と今でも思う。
残念ながら俺と彼女の席は隣同士という訳ではなく、X軸とY軸両方が真反対の角同士だったんだが……まあ、名前順は仕方ないよな。
そんな恋を迎え、心のもやもやを抱えたところで性格やポリシーが変わった訳では無かったし、彼女に対して特別扱いだってしたつもりは無い。
ただ、それなりに日々を過ごして行く中で……彼女をきっかけに、それでも良いかと思える様になったのだ。
……ま、この時点で既に一年経っていた訳なのだが。
そして、二年。
また同じクラスに……なんて願いは神には届かず。
親不孝者だと自覚はしているが、そもそも神なんぞ信仰していないのだから当然だなと妥協した。
この一年間、大して彼女と進展がある訳でも無いし、語る事もない。
世界がひっくり返って、やはり友達が出来ないながらもそれなりに充実した一年だった筈だが……正直、長く感じたな。
親が神職の影響で、正月には親戚総出でお供えだのお祈りだのと忙しい訳なのだが……俺が手伝うって言い出したら、『今までそんな事言わなかったのに……』なんて宮司さんがびっくりしていたな……。まあ、俺の親父なんだが。
真意としては、卑しい話なんだが……藁にもすがる思いって奴なのかな。
それが効果あったのか、それとも別の何かか……新学期、入口に貼り出されていたクラス分けにはガッツポーズを決めてやった。
教室に入り、例によって席は対角線上に位置する訳だが……それでも誰かと喜びを分かち合いたかったね。隣の席を見たら、知らん奴だった。
嫌いな事に変わりはないが、少なくとも家の神様には感謝を入れておこうとは思ったさ。
家にあるちんけな神棚じゃなく、ちゃんとした拝殿でな。
本当、神様ってのは悪戯好きなのか……それとも単に嫌な奴なのか……。
鳥居を潜った先に見えた景色は、知りもしない異世界だった……という訳だ。
二度と神様は信用しないと決めたね。
そりゃそうだ、想い人とこんな形で離れるなんて理不尽だろ?
はあ……。
「今、何やってんだろうな……」
……早く元の世界に帰りたい。
そんな想いを最後に、思考が途切れて眠りについた。




