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古鐵の宿

セリフ多めの説明回です。

 この宿には、一つ欠点がある。

 それは……。


「部屋に風呂が付いてなぁい‼︎」


 女性陣営(妖精族含む)と別れた後、一人部屋で唸るサイ。

 どうやらこの宿、大浴場なるものがあるらしく、個室でゆっくり湯船に浸かる事は出来ないらしい……。


「面倒だなぁ……」


 素直な感想を呟きながらも、バスタオルと民族衣装の様な寝間着を持って大浴場に向かう。

 道中で女子と偶然出会わないかな……なんて妄想は修学旅行に限る。事実、そんなことは無かった。


 ——でっか……。


 中に居る人々は殆どが小人族では無く、旅行や仕事で来たであろう別種族の人間だった。

 わざわざ、地元の旅館に泊まる物好きはそう居まい。


 地中に存在する集落のため露天風呂といったものは存在しないが、それゆえにごつごつとした岩肌が剥き出ており、それを椅子や滝として利用している。


 シャワーといった器具は見受けられず、前述した滝がその役目を担っている様で、小人族らしい大雑把さが感じられる。

 しかし、椅子や桶などを良く見てみると丁寧に磨かれ、怪我をさせない様な作りになっており、凝る物はとことん凝る。それ以外は何だって良い……といった考えなのだろう。


 一番大きな湯船のど真ん中には大きな岩の柱が立っており、柱の表面にはいつか見た土竜が彫られており、この世界に慕われる国獣の様な存在なのだと認識した。


「んー……取り敢えず、体を洗い流そうか……」


 出来るだけ周りに人が居ない場所を選び、滝のシャワーに手を伸ばしてみる。


「……痛いな。……いや、結構痛いんですけど⁉︎」


 ……飢人族は貧弱なのだ。

 それもその筈、野性を欠片すら残さぬ程に、自らの進化を諦めたのだから……まあ、一概には言えないが。


 よし、では言い直そう。


 ……俺は貧弱なのだ。

 それもその筈、己の体なんぞに探究心など湧かなかったのだから。


 ——なんか、昔遊びに行ったプールで同じ様な痛みを体験をした気がする。


 痛みを凌ぎながらなんとか体の洗浄を終えると、湯船に浸かろうと向かう。

 地面はごつごつさをあまり感じさせない癖に滑りやすいものでも無く、ちょうど良い塩梅で歩きやすい。

 そんな地面を噛みしめながら向かう中、一人の男性が話しかけてきた。


「いやー……ここの風呂場は良い造りだよね……。君も仕事終わりかい?」

「あ、ああ……まあそんな所かな」


 話しかけて来たのは、いかにも微笑の仮面が似合いそうな耳長の男だった。



「いやねー……。見ての通り、僕は小神族の人間なんだけど、ここ最近小人族と小神族の外交が上手く行ってないからさ。それによって、かなり仕事に影響がきちゃって……。彼らの視界に映るだけで、嫌な顔される様になったんだけど……小人族の人間はあまりここを利用しないから、唯一落ち着ける場所なんだよ」



 見ての通り、と言われても分からんのだが……まあ、そうなのか?

 小神族という言葉だけだとピンとは来ないが……やはり、耳長の『エルフ』で間違い無さそうだ。


「ま、そんな感じで商談とかじゃなくて、普通に誰かとお話しがしたくてさ……。近場にいた君に話しかけたと言う訳さ」


 湯船に浸かりながらそう言う彼に続いて、自分も足を入れる。湯加減もちょうど良い。


「まあ、どうせ俺も暇だし……愚痴を聞き流しするぐらいは付き合うぞ」

「いやいや、他人に愚痴を聞かせる程辛い訳じゃ無いんだ。ただ、今は状況が悪いからね。少し疲れる相手……程度に思ってるよ。元々、仲が良い訳でも無かったしね」


「……そういうあんたは、別に嫌ってなさそうだな?」

「小神族からして見れば、僕は変わり者だからねぇ……。魔術も覚えず、君たち飢人族の様なビジネスに走った、ちっぽけな会社の社長さ」


 ——なるほど、そりゃ話しやすいかもしれん。


「……自分で企業したのか?」

「まあね……。それなりに苦労もしたよ。両親は、特にね……」

「はは……異世界事情は知らねえけど、そういう所はあんま変わんねえのかもな……」


 初めは大して会話も続かないだろうと思っていたが、進めてみると案外会話が弾む。

 意外と人と話すのは苦手では無いのかもしれない……。


 ——今まで気が合わなかっただけ……みたいな……。


 いーや、現実は受け入れよう。

 無駄話に興じるのも悪くは無いが、小神族の情報を集めるために彼の話を聞くべきだ。


「ところで、小神族の長ってどんな人なんだ?」

「ああ、彼女か……」


 どこか懐かしそうな姿を見て、知り合いなのかと尋ねてみると『まあ、一応ね……』と微妙な反応を示しながらも、その人について話してくれた。


 彼女とは幼少の頃に学舎が同じだったらしく、関係性はそれっきりの様だ。

 当時の彼女は優等生オブ優等生。彼女のお爺さんが丁度、小神族の長……大公だった頃で、周りからは敬遠されていた。


 両親は早くに亡くなり、大公のお爺さんは彼女に跡を継がせる気でしかなかった。本人もそれには応える為に必死に勉強していた……と言うのが彼の見解だ。


 彼は『僕が彼女の心持ちを推し量ることは出来ないけど……』と小さく呟いた後に、続けて話す。


「まあ、それも少し昔の話。彼女自身が大公になってからは、色々ありつつもようやく安定して来た……って感じだったんだ。それが今、小人族との仲違いでね……。さて、どんな心境なのかな……」


 ——成る程、少しだが為人が見えてきたな。こう言う奴は、理不尽なキレ方をしているに違いない……っと、また悪い癖が出たな。


 これからの事を考えれば、自分の中での好感度を事前に下げておくメリットも無いだろう。何事も、ポジティブにな。



「元々、僕らの種族は結構プライドの高い人間が多くてね。政治に関わる人間も、家柄が大きく関わってくる。彼女自身は大公の孫という立場だけれど、元々はそこまで権力を持たない家だったんだ。お爺さんが、家柄関係なくトップに立った様な人でね。界隈では、気に入らない人は多いんじゃないかな……」


「小神族の政治か……裏で疑念の魔術とか使ってたりするのか?」


「いやいや、魔術と言えば聞こえはいいけど、基本的には自然的な物を無から生み出す、ある程度操るって言う物なんだ。自然的な物って言うのは火、水とかだね。予知だったり瞬間移動っていう超常的な物は出来ないし、この湯船の水を重力を無視して操る事は出来ても、人だったりを浮遊させたりするのは出来ないのさ」


 水を手で掬ったり人を指差したりと体を使って説明しながら彼は続ける。

 勿論、表現の一つとして……である。



「そもそも、僕らの魔術っていうのは後天的な物でね。火とか水の属性に対する『言語』を覚えて魔術書を使う……って感じかな。つまり、異種族だって魔術を『技術』として扱える」


「ただ、僕達の中には先天的に魔術を扱える人間もいるんだ。先天的に魔術を扱える彼らは、人を浮遊させる様な超常的な物を一つだけ扱えるんだとか……。その場合、魔術書が必要無くて魔法陣を描くらしいけど……。でも、本当に極少数の選ばれた人間って感じかな。僕はどれも扱えない未熟者だけど……」



「成る程な……。魔術ってのも極端に便利なものじゃ無いのか」


 自らが知っている魔術を解説し終えたのか、彼は満足そうに大きく息を吐く。

……暫しの静寂が流れた後、彼は頭に載せたタオルを手に取りながら立ち上がり、『少しのぼせそうだし、そろそろ出るとするよ』と終始笑顔でそう言った。


「ああ……そう言えば、名前を言ってなかったね。僕の名前はモルボス。付き合ってくれてありがとう。また会えば、よろしく頼むよ」

「杠葉サイだ。こちらこそ」


 湯気に消えて行く彼を見送り、少ししてから部屋に戻る。

 元の世界に居た頃では、こんなに長く会話なんてしなかっただろうと苦笑しながら……。

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