初恋と聞きたがり女子
時折、自分の居場所が分からなくなる。
ワタシで居る間、私はどこに居るんだろう。
彼らと過ごしてきた×××はどっちの×××?
いつからか、何かに諦めた×××とその結果、周りに合わせるだけだった×××。
この世界に来て、彼らと出会って……。
それから……?
「さーとにゃん……!」
「ふえっ……⁉︎」
跳ねた体と同時に振り向くと、モノクロの輪郭から笑みが見える。
「急にボーッとして、どうしたんだにゃ?」
滲んだ世界が少しずつ、鮮明な世界へと戻っていく。
嫌に明瞭な世界に目が眩み、そんな中でふと疑問を口にした。
「さ、さとにゃん……?」
「そう……! さとにゃん! これから、それなりに長い付き合いになりそうだしにゃ。折角の女の子同士、仲良くしようと思ってあだ名を考えた訳だにゃ!」
「えっと……ど、どういう経緯でさとにゃんに……?」
「んー? なんとなく……かにゃ?」
——友達ってなんだろう?
昔から、感じていた。
ある意見を持った時、同じ意見を持った彼女と『友達』になった。
彼女と別の意見を持った時、彼女は離れていった。
そして、その意見と同じ意見を持った人と『友達』になった。
そんな繰り返し。
早すぎるローテーションに追いつけず、私はいつからか意見を持たなくなった。
そして少し時が経ち、周りから言われた言葉。
『八方美人』
——結局、どちらの×××も受け入れられなかった。
「それじゃ、理由も分かった所で……さとにゃんがうちのあだ名を決めるにゃ!」
「あ、あだ名?」
「当然だにゃ! うちがさとにゃんとあだ名で呼ぶのだから、さとにゃんもうちをあだ名で呼ぶ。これ、必然だにゃ」
「そ、そんな急に言われても……」
——あ、あだ名……どうやって決めれば……?
「なんだっていいにゃ! 名前を弄るとか……色々あるもんだにゃ?」
まあ、そうなんだけど……と微妙な顔でごまかすサチ。
と言うのも……。
——私の名前『さとな』って言ってない筈なんだけどなー……獣の勘って奴なのかなー……。
うーん……誰かが考えたあだ名を使った事はあるけど、自分で考えるのは初めてだな……。
えっと、えーっと……。
「トラちゃん、とか……?」
「……」
「うち猫にゃぁああ⁉︎」
「トラだって猫科だろ……異世界じゃ知らんけど」
「あ、サイ君……」
どうやら武器作りのすり合わせが終わったらしく、後ろの方でうんうんと唸るシーアの姿が見える。横では猫がうずくまる。
そんなシーアを他所に、サイは少し恥ずかしそうにしながら口を開いた。
「前も思ったけど、君付けかー……」
「……もしかして、嫌だった?」
『いや、そうじゃねぇんだ……』と否定した後、彼はシーアに書く物を貰うとその紙に『杠葉サイ』……と自分の名前を書いた。
「俺の名前さ、こう書いて『ユズリハ』って読むんだけど……元いた世界じゃ、いっつも『こうよう』だとか『もみじ』だとか……勘違いだか、馬鹿にされてるんだかの名前で呼ばれててな……まあ、新鮮だったのよ」
「そう……だったんだ。その……ごめんね?」
「いや、別に不快だーって文句言ってる訳じゃなくてな。慣れてないだけだよ。実際、あの娘にもみじ君って呼ばれた時は普通に嬉しかったしな……」
放課後、ただ忘れ物を取りに帰りに教室へ戻った時、委員会の仕事で残っていた彼女と少しだけ話したのだ。
家に帰ってからびっくりするぐらいには何もなかったが……。
「あの娘……?」
何やらよく分からない話をしている……と、黙って話を聞いていたシストラムが口を開く。
シストラムが見ている文字は彼女からしてみれば馴染みのない文字であり、ただその言葉が意味する事柄を理解できるだけ。紅葉という似た字の読み違えと言うのが、良く分からないのだ。
「あの娘って誰なんだにゃ⁉︎」
……しかし、今の彼女にとってそんな事はどうでも良い事だった。
獣の嗅覚が言っている……。
其れ即ち……恋話の匂い!
「な、なんでそんなキラキラした目なんだよ……」
——何か嫌な予感がする……多分。いや、絶対。
心底嫌そうな顔を浮かべるサイには気を使わず、根掘り葉掘りと聞く気満々のシストラム。
そして、何故かサチさんですら聞きたそうにしている……。
そんな事を思いながらも、こうなった女子は止められない……と白旗を上げ、荒波に逆らわずに身を任せる。
何故か自然と正座になり、質問責めを受ける思春期男子の心情は、想像するに難くないだろう……。
ようやく、ラブコメの雰囲気だけ始ります




