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俺は職員になりすますと見回りのフリをして侵入した。

最上階が「拝啓!坂の上からシリーズ」専用だった。


俺は職員になりすますと見回りのフリをして侵入した。


目的は盗撮である。


最上階の、そのフロアの全クラス全生徒が「拝啓!坂の上」(以下「拝啓!」)シリーズのメンバーなのだ。


俺はそれっぽい紺のスーツを重々しく着込んで見回った。


夕暮れ時にこっそりと侵入する方法論もあるがそれでは拝啓!メンバーの躍動を画像、そして動画に収めることができない。


なによりもその芳しいティーンの息遣いや体温を感じなくては意味がない。


教室を覗き込んで廻った。


ファンには見せない姿でくつろいだり談笑し、またダンスの練習に励むメンバーの姿があちこちで見られた。


廊下を悠然と俺は歩いた。


白昼堂々と正面から乗り込むのが最も安全な侵入なのだ。


更に階段を登って屋上の扉を開けようとしたが鍵がかかっていた。

誰かが見ているかもしれない。俺はドアの点検をするふりをした。


平島友希那や白岩まきの姿はなかった。


このツートップは仕事が忙しくて学校に来ることができないのだ。


その代わり古川七瀬の姿を見つけた。

誰とも話すことなく席に座り、じっと黒板を、いやその向こう側をアンニュイな表情で見つめていた。

そんな誰も見たことがない七瀬の姿を収めることができたのは大収穫といえるだろう。

その発せられる、ほのかな光は静かながらに威厳を持って周囲を圧する結界を形成していた。


もうすぐ授業がはじまる。


引き揚げようと階段を降りた。


走ってはいけない。


俺はあがってきたときよりも更に悠然と下った。


すると下から黒字で「警備」と書いてある黄色い腕章をした、これは本物の職員が上がってきた。


俺は笑顔で挨拶をしてすれ違うべく瞬時に役作りを図った。


盗撮カメラを仕込んだ部分を意識させてはならない。


距離が詰まる。


そしていよいよのタイミングで目を見たが、不思議と彼は上の空だった。


素知らぬ顔でやり過ごしたあとで俺の胸に笑みが浮かび上がった。


(同業者ってわけか)


あちらも同じことを思っているとしたら、それもまた愉快だ。


まったくどいつもこいつも若い女の香りに吸い寄せられやがって。


廊下を出口に向かうだけとなった。


外界の光がひときわ大きくなった瞬間だった。


後ろから声をかけられた。


亜香里ちゃんだった。


黒のシャツにオレンジのブルゾンを羽織っていた。


キュロットスカートを履いていた。


とにかくあざと爽やかだった。


「ご苦労さま!色々大変だけど頑張ろうね!」


めっっっ・・・・ちゃ可愛かった。


あかりんも日頃は面白キャラで売っているが実物はシュッとした美少女なのだ。


あかりんが美少女?と言われそうだが実際にそうだから仕方がない。


28歳にもなって現役アイドルをやれるのは、やはり生まれ持っての美少女性ゆえだろう。


お嬢様育ちで、本当に恋愛禁止を守っていて、キスもしたことがないという。

それはきっと本当だろう。

本物のお嬢様が清純アイドルをやっている。

それはこのご時世、ちょっとした奇跡と言ってもいい。


あかりんは数秒だけど隣で並んで何かと話しかけてきたが、なにぶん突然のことだったし、1番困る質問「今日はどうしてここにいるの?」を引き出したくなかったから、俺は少々そっけなかった。


あかりんは「じゃ!」と最後まで明るかった。


しかしあかりんの所属する燦々!グループは拝啓!シリーズとはライバル関係だ。

燦々!グループVS拝啓!シリーズとして、「グループ」と「シリーズ」という使い分けもされている。

それにあかりんは燦々本店所属というわけでもない。


(中京支部のあかりんがどうして拝啓!シリーズ女子高へ?)


そんなことを思いながら街に出た。


アーケード街を機関車が走っていた。


といってもミニチュアでナンバム・スクエリが作った精巧な模型らしかった。


ゲーム以外にも多様なアミューズメントをクリエイトしているのだ。


いやむしろ原点である工芸集団の心を忘れないように務めているというべきか。


前から走ってきたので余裕でかわせると思ったがくるぶしに接触されて結構痛かった。

ミニチュアとはいえ機関車は見た目より重量がある分だけ運動エネルギーも高い。

それは重さと速度の2乗に比例するからだ。


ガツン!という響く痛みを感じた瞬間思った。

亜香里ちゃんはオレンジのブルゾンにキュロット、まるで気さく系女教師のような格好だった。

俺は湧き上がる笑みを抑えきれなくなった。

あかりんはあかりんで(うまくやり過ごした)とでも思っているのだろう。

それを思うと愉快の2乗になった。

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