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探偵と喫茶店

 最近、この町では失踪事件が話題になっている。

 当日まで普段通り過ごしていた若者が、忽然と、神隠しにでもあったかのようにいなくなる。

 一人の時もあれば、一クラスまとめて消えたときもある。

 俺としてもその事件は他人事のように流すことは出来なかった。


 知り合いが一人、事件に巻き込まれた。


 勿論、警察も捜査は進めているだろうが、オカルトチックなこの事件の解明にはいつまでかかることやら。

 そこで俺はとある探偵に調査を依頼することにした。

 その探偵は俺と同じ高校生かつ同じ高校に通っている女子らしいが、それを知ったのはつい先日の話である。本人には内緒。

 

 今は待ち合わせ場所の喫茶店にて彼女が来るのを待っている所である。

 夏休みまっ最中の昼前だが、他の客はいかにも常連ですという雰囲気を醸す老人が一人。

 冷たいカフェオレでも楽しみながら時間を潰していると、カランカランと綺麗な鐘の音が静かな店内に響き渡り、誰かが扉を開けたことを告げる。

 

 「おっと、夏天頭(かてんとう)さん。お待たせしましたか?」


 癖毛のショートに目元には不健康そうな隈。

 身長はこの年齢なら平均、消えた知り合いとも近いんじゃなかろうか。

 そんな彼女の名は秋咲(あきざき)(かえで)

 店に入ってすぐに俺の存在に気付いたようで、迷うことなく俺の隣の席に座った。


 「マスター、サンドイッチくださいな。あとオレンジジュースを」

 

 秋咲は手っ取り早く注文を済ませると、鞄からスマホを取り出した。

 オレンジジュースはすぐに出されたので彼女はそれを飲みながら話を切り出した。

 

 「さて、私の方でも件の失踪事件について調べましてね。一つ手がかりになりそうな動画を見つけました。流しますね」


 見せられた動画には見るからに怪しいフード付の白外套を身に纏った、顔が見えず性別は不明の人間が撮影されていた。

 俺も良く知る住宅街を意味もなく歩き、小さく聞こえた金属音と共に跡形もなく、それこそ神隠しに遭ったかのように消えるだけの三十秒程度の短い動画。


 「これは……失踪に巻き込まれたのか?」

 「どうやら少し違うんですよね」


 そう言って秋咲は手際よく画面を切り替え、今度は写真を俺に見せてくれた。


 「学校前かここ?」

 「ご名答」


 何かをじっと眺めているかのような外套人間。

 写真には収められていないが、風景から目線の先に俺達が通う学校があるのはすぐに分かった。

 

 「これはさっきの動画よりも後に撮られたらしいんですよ」

 「ってことは、消えたけどなんとか帰ってきた?」

 「そうかもしれませんし、あるいはこの事件の黒幕である可能性も……。だって怪しいでしょうこんな外套」


 先も言ったが、今の季節は夏。外を歩けばすぐに汗を流すような猛暑だ。

 その中で見るだけで暑苦しくなりそうな外套を纏って出歩くなんて、正気を疑わずにはいられない。


 「まぁ何にせよこの人が事件を解く手がかりになるのは間違いないですね。最初の目標はこの人との接触を……」

 「お待たせしました。こちらサンドイッチになります」


 話を遮るようなタイミングでサンドイッチも提供される。

 一つ一つが小さめだが、代わりに数が多いタイプのやつだ。

 秋咲は待ってましたと言わんばかりにサンドイッチを一つ頬張った。


 「夏天頭さんにも一つ位ならあげますよ」

 「じゃあお言葉に甘えて」

 

 俺が手に取ったのはレタスとハムが入ったもの。

 シャキシャキとした食感のレタスにハムとマヨネーズ。

 合わない訳がない。事実旨い。

 

 「後は……そうですね。失踪事件に遭った知り合いについて聞いても?」

 「ん、ああ。そいつは俺らと高校は違うし、言っても分からんと思うけどな。星黒(せいごく)紅葉(もみじ)って奴だ」

 「むぐっ、それは本当ですか!?」


 秋咲は飲み込もうとしたオレンジジュースを吹き出しそうになったのをなんとか堪えた。

 その反応を見れば素人の俺ですら彼女が動揺しているのだと分かる。


 「え? もしかして知り合いだった?」

 「昔の話ですけどね。彼とは小中と同じ学校通ってましたし、何度か遊んだこともありますよ」

 「はぇ~、まじかい。世界って狭いのな」

 「しかし、それなら私としても依頼を受ける理由が強まりましたね。これも何かの縁です。依頼料も安くしておきますよ」

 「ありがとう。助かるぜ」


 秋咲がサンドイッチを食べ終えたら、会計を済ませて喫茶店を後にする。

 真夏の猛暑が相も変わらず町を包んでいた。

 

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