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神様の名を騙る者-3

「…それで、一体どういう事なんですか?」


私が口の中のご飯を食べ終わった後に、にゅいにゅいさんの方を見ながら質問をすると…にゅいにゅいさんは小さく微笑んだ後に…ゆっくりと私の視線を人差し指に固定しました。

人差し指を立たせたまま、親指だけを器用に動かして私の視線を操りながら…ゆっくりと私の手を握りました。


「…そうですね。まず前提条件として今回の依頼はイルヴァから貰った依頼…って言えば分かります?」

「……本当ですか?」


イルヴァ…別名歴代最高の聖女さん。

つまりは今回の事件の首謀者からにゅいにゅいさん達は依頼を受けていると言われた訳なのですが…果たしてどうするべきでしょうかね?

このままにゅいにゅいさん達から逃げる…けれどどうやって逃げるべきでしょうか?


「ふふ。無駄な抵抗…と言う奴ですかね?」

「…えぇ、そうですね」


にゅいにゅいさんの言葉を聞いて、私は小さく口を歪めました。

…今の私が全力で逃げた所で、捕まるのは時間の問題でしょうね。

此処からだと分かりませんし完全な勘ですが、かなり遠くからクレアさんが私を見ている気がします。

クレアニーナ様を信仰しているレンジャーの方の一握りは、視覚が驚く程広かったりします。

過去の勇者のパーティにいたレンジャーだと太陽の目なんて言われ、世界の裏側の悪事まで視る…なんて伝説もあるくらいです。。

勿論そんな伝説と並ぶ程の…とは考えていませんが、この街一帯を見ることくらいは可能だろうと考えています。

そうでなければクレアさんを私から離した理由も無いでしょうしね。


「…オリンフィアさんは何処に居るんですか?」

「ああ。…彼女は今交渉に行ってますよ」

「交渉ですか?」


その言葉を聞いて、にゅいにゅいさんが苦笑しながら頷きました。

…交渉対象が誰か知りたいですが、流石に教えてもらう事は出来ないでしょうね。


「一つ教えて下さい。悪魔と契約を交わした聖女の結末を知っていますか?」

「おや。寡聞にして知らないですね」


私はにゅいにゅいさんの返事を聞いて小さく苦笑しました。

…確かに聖女が悪魔と契約する事は珍しい事ですし、知らないのも無理ないかと小さく微笑みます。


「まず初めに。悪魔と契約した人間がどうなるかは知っていますか?」

「えぇ。死ぬと魂の輪廻から外れ、二度とその魂は現世に戻ってくることは出来ない……確か聖書ではこの様な説明でしたかね?」

「…少しだけ違いますね」

「あれ?」


自信満々に答えていたにゅいにゅいさんを見ながら、私は少しだけ苦笑します。

それを見てにゅいにゅいさんが首を傾げますが…特に気にせず、私はどう説明するかを考え始めました。


「正確には死ぬ寸前に魂が引き抜かれ、その魂は悪魔に食べられてしまう。だから現世に戻る事が出来ないのだ……これが聖書の一文ですね」

「…あ、そうなんですね」

「はい。そしてこの死に方は普通の人限定の死に方なんですね」


普通の人…と言う言い方はしましたが、つまりは聖女や勇者になれない人達ですね。

所謂精神の浄化や7束の楔等をしていない人なのですが…


「歴代の勇者の中で、実は一人だけ悪魔に魂を売った存在が居ます。…これは有名だと思いますが…」

「はい。フォーリアですね?」

「正解です」


一瞬で真名を言われた事に少しだけ驚きながらも、私は感情を隠すように微笑みながらにゅいにゅいさんを褒めました。

嬉しそうににゅいにゅいさんが頬を緩ませたのを見て可愛いと思いながらも、私はにゅいにゅいさんの手を握って小さく微笑みました。


「…では次です。聖女で悪魔に魂を売ったのは、誰か知っていますか?」

「……そんな人、居るんですか?」

「はい。勿論フォーリアさんの様に書類が残っている訳ではありませんが、神殿の禁書部屋の本には書かれているんです」

「…禁書エリアって事は、私がどうやっても入れない所じゃないですか」

「ふふ、そうですね。少しだけ意地悪しちゃいました」


そう言いながら私は悪戯っ子の笑みを浮かべて微笑み、話を戻し始めます。


「悪魔に魂を売った聖女さんは、最期に死ぬ瞬間…とある行動をし始めました」

「……?」

「堕天と言う…そうですね。自分の聖なる力を全て変換して闇の力に変える方法と考えてくれれば幸いです」

「闇の力に…?でもそれをした所で死ぬ瞬間だったら意味がないんじゃないんですか?」


にゅいにゅいさんの最もな問いに小さく頷きながらも、私は普通だったらそうですねと相槌を打ちました。

それを聞いて首を傾げるにゅいにゅいさんを見ながら…今度が私がにゅいにゅいさんの視線を人差し指で移動させました。


「確かに普通だったらそんな事をしても仕方ないんです。…ですが、悪魔と契約をした彼女達は違いました」


…小さく言葉を切ってから、私はどういえば正解かを考えます。

反魂の儀式と言う物騒な儀式があり、それを使って聖女が悪魔に成り代わったという一例を教えるか…それとも本当の事を伝えるべきか。

本来なら何も考えずに本当の事を教えるんですが…残念ながら私達に聞き耳を立てながら一定距離を歩いている人間が居るんですよね。

とても見覚えのある人ですし、此処で何処まで知っているかを伝えてしまえば…最悪の場合此処で処理されるかもしれないです。

流石に子供達が歩いている所で死体になりたくは無いですし…とりあえず誤魔化しながら様子を見てみましょうかね。


「ふふ。必死に頭を働かせている姿、とても可愛いですね…」

「…?すいませんにゅいにゅいさん。今聞き取れなくて…」

「大丈夫。独り言ですよ?」

「そうですか?…なら良かったです。最近シスター達が私の方に来て貴女は難聴ですよね?なんて言われるのでとても不安だったんですよ」

「…いや、それは本当だと思いますけどね」


にゅいにゅいさんが呟いた一言を聞いて少しだけダメージを食らうが、一応先程の会話から離れる事が出来て心の中で神様に感謝をしました。

でも出来れば心に傷を負いたくなかったなと小さくため息を吐くのと同時に…


「…あれ?」


私の視界の隅で泣いている女の子が見え、私は思わず振り向きました。

…其処には小さな女の子がずっと泣いていて、それを見ているのにも関わらず大人達は我関せずといった様な様子で通り抜けていきます。


「…っと、助けに行きますか?」

「……」


少しだけ考え、私は小さく首を横に振りました。

それを見てにゅいにゅいさんが少しだけ驚いた様な表情を浮かべますが…私は耳元に唇を近づけ、ゆっくりとにゅいにゅいさんに説明をし始めます。


「えっとですね。……あの子はかなり有名な乞食の子でして」

「乞食なんですか?」

「えぇ。母親も父親も居らず、自分の努力は報われないと世界を嘆いている…とまぁ、此処までなら普通の可哀想な女の子で済むんですが…」


小さくため息を吐きながら、私は話を続けます。


「本当なら教会で引き取る話が合ったんです。ですが…」

「…ああ…」


私が続けるまでも無く、にゅいにゅいさんは納得をしました。

それを見て少しだけ嬉しそうに微笑むのと同時に、ゆっくりと口を離し…


「…あ、最後に私の耳をふーってしてくれませんか?」

「えっ……いや良いですけど。急にどうしたんですか?」

「その…ため息がとても私の頭の中をかき乱したと言いますか…正直今の話全部吹っ飛んで何を話してたか忘れてしまったと言いますか…」


…もしかして、今さっきの「ああ」って肯定の意味で使ったのではなく、自分の感情を吐き出す為の言葉だったんでしょうか…?


「…あ、えっとそれで乞食でしたっけ?」

「えぇ。助けない理由だったんですけど…」

「結局彼女が教会からの助けを断ったんですよね?どうせ私一人でも生きていけるんだから…と言った所でしょうかね」

「…そうですね。あの時は強く言えなかったですが…今思えば私があの時強く言っていれば…」


私が少しだけ後悔の念を滲ませながら言うと…にゅいにゅいさんはとてもつまらなさそうな表情で乞食の少女を見つめていました。

それを見て私は思わず目をぱちくりとさせますが、にゅいにゅいさんは表情を変えず…


「リリーからの提案を断る方が悪いんですよ。だから彼女は幸運の女神に嫌われたんです」


小さく何かを呟くのと同時に、乞食の少女が突然転びました。

…それを見て私は思わず近寄ろうとしますが……教会の取り決めによって封じられた足を見て思わず歯噛みをしました。

……拒む者を助けるべからず。

教会によって定められた法は、私達の身体の中で結ばれた魔術によって行動を制限させます。

…本当なら一目散に走って助けたいのですが…一定範囲内に近寄れば私の足は動きを止めてしまいます。


「…っ…」

「…もう行きましょうか。これ以上見てても時間の無駄ですし」

「……ぅ、ぁ……」


にゅいにゅいさんのあまりの冷たい一言に何も言い返せず、私は足を反対方向に向けて…小さく涙を溢してしまいました。

…それを見てにゅいにゅいさんが吃驚していましたが…私は特に気にすることも出来ず、唯涙を袖で拭う事しか出来ません。


「ちょ…其処まで気にしますか!?高々乞食一人じゃないですか!世界規模で見たら何万人の内の一人ですよ?!」

「…その何万人の一人すらも救えないんです…今の私は…」


小さく歯噛みをする様に自分の腕を叩くと、それを見たにゅいにゅいさんが慌て始めます。

私は気にせずにもう一発自分を叩こうとしますが…


「そうだよね?泣いてる子供一匹すら救えないなんて…今の教会可笑しいよね?」


その前に静寂が訪れ、私の頭の中に一人の幼い女の子の声が聞こえ始めました。

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