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不幸一杯のプロローグ-5

走って走って走り続けて。

街の中ともあって人通りも多く、今の地震で震えている人を他のシスターが助けているのを見ながら…私は唯外に向かって走り続けます。

本来なら他の人を助けてあげたい、本当なら真っ先に転んでいる子供を助けてあげたい。

けれどそれが出来ないから、私は今使える最大限の回復魔法を転んでいたりぶつけた人達に掛け続けながら、一秒でも早く地震の元凶へ向かう為に足を動かし続けます。

外に向かって進み続け、私は一人の少女の下へ向かい…


善神の祝福(マズダ・ブレス)!」

悪神の息吹(アジダ・ブレス)


魔法を唱えるのと同時に、少女も同じように魔法を唱え…私達の魔法は打ち消されました。

…その事に自分の弱さを自覚しつつも、彼女の注意が他の所に行かない様に杖を握って睨み付けます。


「……」

「あれ?随分早く来たんですねー?やっぱり怪我したおっさんとか見捨ててきました?」

「否定はしません。私は多くの人を見捨てて貴女を倒しに来ましたから」

「良いですねー。貴女の言葉は何時も後悔が滲んでます。そういうの、私達悪魔にとっては良い感情なんですよー?」

「他人に悟られるならまだ私も青いのでしょう。聖女になり得ない、その程度の器って事です」


その言葉を聞いた目の前の少女は、何か面白そうに笑いだす。

それを見て私は小さく首を傾げますが…少女は何も気にしない様な表情で唯…


「聖女になり得ないですか。ああ…本当に笑えますね」

「何が面白いんですか?」

「いえいえ。腐った果実を見ると、時折よく育った美しい花を見たくもなる……そういう事ですよ」


そう言いながら少女が、一人の女性の首を地面に落とします。

……それを見ても私の表情は変わりませんが、目の前の少女は分かっているのでしょう。


「ふふ。どうですか?」

「…そこまで聖女を殺すのは楽しいんですか?」

「えぇ。摘み取るのは私の役目ですから」

「……私の命を弄ぶ様に?」

「そちらは神の命もありますが…まぁ、どれ程堕落させようとも堕落しない貴女を…」


少女が喋ろうとする瞬間、少女の背後から大量の魔法陣が現れます。

…それを見ておっ?という表情を浮かべる少女を見ながらも…私は小さく息を吸って…


「ニュイシス様、弱き私に力をお与え下さい」


その言葉と同時に、私の目の前に紋章が浮かび上がりました。

それはニュイシス教を表す紋章、私はそれを迷わず迎え入れ……そのまま服の金具が私の手に集い…それは杖の形になりました。


「…ふふ……アハハハ!」

「貴女だけじゃなく、私だって一応神の祝福を与えられたんです。これで良い勝負になると思いますけど?」

「良いですね良いですね!口調は傲慢でありながら一切の油断が無い!それでこその聖女!」

「だから私は聖女じゃ…」

「でもやっぱり、貴女は攻撃をする事が出来ないんですよね?」


そう言いながら少女がゆっくりと近づいてきます。

…何をする気だろうと、私は小さく息を呑み……そして油断なく杖を構えます。


「人間の姿であるなら、貴女は危害を加える事が出来ない……いえ。『悪』で無い限り、貴女は私達を襲う事は出来ない」


次の瞬間、鋭い痛みと同時に私の身体は浮き上がり…気付けば顔と地面の距離は零になっていました。

なんて事はありません、唯私の反応速度よりも先に少女が殴ってきただけです。

そしてそのまま私の髪を掴みつつ、ゆっくりと微笑みながら少女が喋りかけてきます。


「ほら、殴って下さいよー?手足は自由なんですよー?」

「…っ」

「殴れないですよねぇ?だって私、人間を誑かした事が無いですからねぇ!」


その言葉と同時に、もう一度私の身体が浮き上がって地面に叩き付けられました。

それと同時に、私の耳元で硝子の割れる様な音が聞こえ…思わず胸を抑えつけてしまいました。


「悪魔であるなら『悪』に違いない?それは人間が思う思い込みの力です。けれど私はそれを利用しました」

「……」

「少女の姿であるのも、子供の時に傷付いた姿で現れたのも、全部全部この時の為だったんですよ?」

「…がう。貴女は確かに助けを…」

「……認めて下さい。私は貴女に助けを求めた訳ではありません」


その言葉と同時に、私の身体は自由になりました。

…そして一気に杖を振り下ろそうとしても…その杖は少女の顔の目の前で止まります。

少女が動いた訳では無く、唯私の身体が止まっただけです。


「……っ…」


それを見て、少女の顔が悲痛に歪み始めます。

…どうしてでしょう。何故一撃も喰らってない少女が、痛みに耐える顔をしているのでしょう。

悪魔がそんな表情をしているのに、どうして…


「……何、泣いてるんですか。悪魔にとっての好感情を見せて、貴女は何がしたいんですか」

「何で…でしょうね。私が間違えたからでしょうか…」

「…それは、何に対して?」

「貴女を、還せなかった事に対してです」


…少女との出会いは、私にとって新鮮な出来事でした。

そして、少女との別れも…私にとって新鮮な出来事でしかありません。

お互いに離れる事が出来なかった、だから一緒にいて…そして別れる結果となってしまった。


「…魔王」

「何ですか。聖女代表」

「聖女じゃないんです」

「私だって別に魔王を認めた訳じゃありません。国が勝手に指名手配をしただけですから」

「ノリノリで魔王城を作ったのにですか?」


私の言葉を聞いて、少女が苦笑しながら目を伏せました。

…それが合図となり、先程まであった大量の魔法陣が全て割れていきます。

それを見届けながらも…私達は少しだけ物寂しい感情を捨てる事が出来ませんでした。


「…転移の門が壊された。作戦は失敗したし、私も帰ります」

「……」

「貴女はどうするんですかシスター。私は魔王である前に悪魔です、相性は良い筈ですよ?」


その言葉を聞いて、私は小さく息を呑みます。

……そして、思考を数巡させ…


「聖書にはこう書かれていました。悪魔は滅するべきであると」

「…うん」

「けれど、神様に聞いたら別に好きにしなさいと言われました。本物の悪を手放すなら兎も角、子供の悪魔を放置した所で変わりないと」

「……」


私は別に、聖書を読みたいから読んでいるだけです。

従うかどうかは神様に聞きますし、もし駄目なら怒られるだけでしょう。


「私が攻撃できないなら、きっと罪は犯していないのでしょう。なら此処に居るのは…一人の友達です」

「…それは、隣人の愛?」


その言葉を聞いて、私は小さく首を横に振りました。

それを見て少女が首を傾げますが…私は小さく微笑みながら…


「悪神でも善神でも、同じ様に神様を信仰しているんです。それなら私達は…」

「……」

「同じ趣味を持った友達なんじゃないんでしょうか?」


私の言葉と同時に、少女が優しく私の頭を撫でます。

…さっきまでは精霊さんの加護があったから殴られましたが、心優しい悪魔さんは…人を傷付ける事が出来ません。


「…バーカ。それで通用するなら勇者なんて要らないでしょ」

「だから私が勇者パーティーに入っていたんですよ。友達は助けないと…ですよね?」

「今日抜けた癖に」

「……皆私が勇者パーティーから抜けた事知りすぎじゃありませんか?」

「だって神様が笑ってたんだもん。部下に適当に理由付けて此処に来ちゃった」

「…心配掛けました?」

「どっちも掛けたよ。悪神様にもお祈りしてね?」


表立って約束できない約束を取り付けられつつ、私は小さく苦笑しました。

…そして、表情と口調が昔の様に柔らかくなっている少女を見ながら……


「でも正直、リリーと戦ったり出来ないなら魔王したくないんだよなぁ…」

「…へ?」


いきなりそんな話をされ、私は思わず返事を返してしまいました。

…少女は悪戯が成功した様な笑みを浮かべつつ、小さく指を動かしながら…


「成程。そうすれば私は魔王にならない……ありがとう神様!」

「ちょっといきなり神様とお話しないでください!あ、そうだ悪神様方この前は楽しいお話ありがとうございます!」

「…うーん。人間の身で悪神様達とお話して無事の方が凄いと思うんだけどなぁ…?」


小さく少女が呟きながら、ゆっくりと魔法陣を起動させて姿を消していきます。

…それを見て私の表情が思わず凍り付きそうになりますが…


「大丈夫だよリリー。へまは踏まないから」

「…何に誓いますか?」

「リリーの服に掛けて、ニュイシス様にでも誓う?」


何時もの軽口を聞きつつも、私の表情は明るくなりました。

それを見て少女も嬉しそうに微笑み…


「またねリリー」

「はい。また今度は友として会う事を祈っていますよ」

「…名前」

「リウム」


私の言葉を聞いて、更に嬉しそうに笑ったリウムの姿が消えて……私は上を向きました。

…結果としては最善だったかもしれないですが、これは紛れも無く私の罪です。

神様に懺悔しても拭えず、幾ら後悔しようとも現実に突き付けられてしまう…


「…どうしてあんな事言ったんでしょうかね…」


子供の頃、あんな事を言わなければ良かったと後悔を滲ませて…私は過去を思い出しながら街に向かって歩き始めます。

…思い出す過去は、後悔だらけの三十秒。


-「もし私と契約するなら、悪魔として願いを叶えてあげましょう!」

-「…なんでも良いんですか?」

-「もっちろんです!どんな願いでも言ってください!」

-「……じゃあ…」


嬉しそうに微笑んだ過去の私は…


-「私と結婚して下さい」

-「…ふぇっ!?」


悪魔と友達になれたら面白そうと思った私は、何時も友達からと言われるこの言葉を言ってしまったんです。

…そこからどうしてあの悪魔が魔王になったのかは……


「あれ?にゅいにゅいさん?」

「お帰り。地震大丈夫でした?」


私と神のみぞ知るといった話になり、絶対ににゅいにゅいさんの足元の地面に突き刺さっている勇者は知らないだろうな…なんて、思わず苦笑してしまいました。

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