不幸一杯のプロローグ-4
お祈りをし終わった後、クレアさんとオリンフィアさんに姿を見せた途端…怖い顔をされてしまいました。
私は悪くないと言われたんですが、それでも怖い物は怖いのです。
私が現れた瞬間ににゅいにゅいさんの名前を叫びながら扉をノックし続ける二人は、もはや狂気に身を侵されたと言っても過言ではないでしょう。
「……一体何なんでしょうか?…いえ、杖になったって事は金具が武器?みたいな扱いになっているのは分かるんですけど…」
小さく首を傾げながら、私は服にくっついた金具達を見つめます。
…青金の金具達は重量を無視した様な軽さで、けれど叩けばちゃんと中に詰まっている感覚。
空洞でありながら空洞でない、空気を固めて詰めた様な金属だと考えていると…
「あ…」
「シスター・リリー」
いつの間にか家の外に出てしまったのか、他のシスターと出会ってしまいました。
…確か彼女は何かと私と話してくれる方だった気がしますね。
楽しい話ではなかったり、身の上話とかもありますが…それでも見ていて飽きない方だったりするんですよ?
「貴女勇者パーティーを追放されたらしいわね」
「はい。私の力及ばず…と言った理由だと伺っています」
「そう。それで貴女ご自慢の信託とやらは下ったの?それとも天罰でも受けた?」
「…?いえ、ご自慢ではないですが…」
というか天罰なんて受けるんですかね?
いやまぁ、確かに神様の御心から背けば…ってなっちゃいますけど。
自分から神様の手のひらの上から出る気はありませんので、多分天罰は……あんまり受けない…んですかね?
「いいのよ。さっさと言いなさい」
「ああはい。一応にゅいにゅいさんという方とパーティーを組みなさい…とは言われました」
「…にゅいにゅい?……聞いた事がないわね。その信託騙されてない?」
「神様が騙しても何も意味がないと思いますよ?」
「ただ言っただけで本心じゃないから安心なさい」
そういいながら私の頭を優しく叩いた彼女を見ながら、私は小さく微笑みました。
…それを見て彼女が少しだけ困った様な表情を浮かべつつも、私の手を握りながら耳元で囁きます。
「…兎に角無事で良かった。頬に傷があるって聞いてびっくりしたけど…」
それを言われて私は傷があった頬を触ってみますが…特に傷がついていたという感触がありませんでした。
それと同時に、何処か神聖な雰囲気が漂っているのを感じ…私は思わず目をぱちくりとさせてしまいました。
「……神様とお話しした時に治して貰えたんでしょうかね?」
「本当、貴女って規格外ね」
「シスター・ミィの方が凄いですよ」
「神様から信託を貰ってないのに?」
「魔法の腕はピカイチですよ。本来ならシスター…」
私が喋ろうとするのと同時に、シスター・ミィが私の口を塞ぎました。
…それと同時に、手を引っ張られる様な力を感じ……首を傾げながらも私はその手に従って走り始めました。
「……来て」
「どうしたんですか?」
「今一瞬だけ、貴女の家に向かう勇者の姿が見えたの」
「あー…そういえば私の家ににゅいにゅいさんが来てましたからね」
「……今度そのふざけた偽名を考え直して貰える?」
「私が付けた偽名じゃないので……」
そういいながら苦笑するのと同時に、シスター・ミィが小さくため息を吐きました。
…それを見て私はもう一度首を傾げますが…
「…いい加減人を疑って」
一番聞き飽きた言葉を言われ、私は思わず微笑んでしまいました。
シスター・ミィにとっては重要な事なんでしょうが、私にとっては別に騙されたって良いんです。
「別に善行を積む為に人助けしてる訳ではありませんから」
「…じゃあ、その所為で本当に困っている人を助けられなくても?」
「その時はその時です。身銭を切ってでも助けるので大丈夫ですよ」
「……真冬に家賃払えなくて追い出された人が言うと、説得力があるね」
その言葉を聞いて苦笑してしまうのと同時に…シスター・ミィが扉を魔法で開いてから家に入りました。
私の家が鍵を使った普通の家なら、シスター・ミィの家は…
「久しぶりに入りました」
「…?来たければ何時でも来ればいいじゃない」
「……いえ、行く時は心構えが必要ですから。毎回変わっていくミィの家は心臓に悪いですし」
「そう?…あ、これ自動化して作った魔法の杖。一応確かめてみて」
最新鋭で超小型の工場というべき家でした。
…そもそもシスター・ミィはお金稼ぎをしたいから魔法を覚え、お金稼ぎをしたいからシスターになり、最終的に大金持ちになりたいので色んな物を作っているんです。
彼女の信念はお金になるかならないかの二択でしかありません。そして事それに関しては、私の予想の範疇をスキップで超えていってしまいます。
「……本当に、この質を…?」
杖から伝わる感触と、魔力の籠められ方を指で感じながら…私はシスター・ミィを見つめてしまいます。
彼女は悪戯が成功した子供の様な表情で私を見つめ返し…そして嬉しそうに杖を私の手から離しながら試作品と書かれた箱の中に入れました。
「うん。かなり苦戦したけど……これで何とかなるでしょう?」
「…確かに何とかはなるかもしれませんが……値段の方が不味いんじゃないんですか?」
「なんとお値段銀貨12枚」
「お安い」
思わず出てしまった言葉を聞いて、シスター・ミィが少しだけ嬉しそうな表情で私の方を見つめました。
…シスター・ミィがやっている事は単純で、シスターじゃなくても回復を行える杖の開発です。
勿論シスター・ミィがいきなり善行に励みだした訳ではなく、回復代として払われるお金を自分のものにしたいという邪な思いもあります。
けれどお金を稼ぐ事は大事ですし、そもそも信仰心が無いならこういう風に回復を使っても怒る神様が居ないでしょう。
「…リリー」
「どうしました?」
「……売れるかな?」
「寧ろ需要過多で生産が追い付かないと思いますよ。因みに使用回数はどれくらいですか?」
「えっと、使用回数は約30回程で…一応私の所に来て貰えれば貯蓄も可能……って売り文句にする」
「回復するという役目を奪われたプリースト達についてはどうする心算ですか?」
その言葉を聞いて、シスター・ミィが待ってましたと言わんばかりの表情でこちらを見つめました。
それを見て私は思わず首を傾げますが…奥に案内されるのと同時に、小さく納得しました。
お金稼ぎの為に全力と言いながらも、何処か憎めないのは…そう言った心遣いが出来るからなんでしょうね。
「…成程、下位の回復魔法と…中位上位の解病魔法……の劣化版ですか」
下位であれば切り傷や刺し傷程度、中位であれば軽い病気の完治、上位はそれを含めて重い病状の緩和…と言った所ですね。
「そう。だから病気も少ししか治せないし、結局傷はあまり治す事が許されなかった」
「…許されなかったという事は、出来はするんですね」
「うん」
「なるほど……私はとても良いと思いますよ」
つまりそれは、シスター達が病気を治した時にうつるリスクを出来得る限り抑えられるという完全に教会側から感謝されるメリットが生まれた訳です。
勿論新しい病気が発生すれば治らない可能性はありますが、それはシスター達の回復魔法でも同じです。
「後、何処かの馬鹿に回復魔法が使えないからって追い出される。可哀想なシスターが居るって聞いたから」
「それは私の事ですよね?」
「……だから」
そういって私の手には一本の魔法の杖が手渡されました。
…それをみて私が思わず首を傾げると……シスター・ミィが小さく何かを呟きながら…
「……その杖に入ってる魔法は“ワンドオブアスクレピオス”」
「また新しい魔法を開発したんですか?」
「…別にこれくらい誰でも出来る。……唯貴女に合わせたから貴女しか使えなくなっただけ。売れないから上げるし、もし使い切ったら貯蓄もしてあげる」
そう言いながらも、少しだけシスター・ミィの頬が赤く染まっていきました。
その事に少しだけ可愛いと思いつつも、もしかしたら風邪化もしれないと思い…私は小さく杖を見て使うかどうか考えました。
「…因みに効果は…」
「聞きたい?」
「……まぁ、少しだけ不安ですが…」
「エリクシルの二倍って言えば理解できる?」
その言葉を聞いて、私は思わず息を呑みました。
……エリクシルというのは、今教会で使える人間が殆どいない…所謂聖女の為の魔法と言っても過言ではありません。
しかも効果も折り紙付きで、現状でも最も高い効果を持つ治療魔法として有名な存在でした。
「…それの二倍って事は……現状で存在するどの傷や病気も治せますよ?!」
「うん。と言っても普段使いは出来ないし、現状で使えるのはリリーだけ」
「……どう言う事ですか?」
私が首を傾げるのと同時に、シスター・ミィの手には一つの注射器が握られていました。
「…前にリリーに輸血って言って血をとったでしょ?」
「はい。輸血する血が無いってお話でしたもんね」
「あれ嘘。実験の為に血を取りたかっただけ」
「……いえ別に怒りはしませんが……どうしてそんな事したんですか?」
その言葉を聞いて、シスター・ミィの顔が俯き始めました。
…別に怒ってる訳では無いんですが……私の血を使って研究すると、どんなお金稼ぎが出来るか気になってしまったんですよね。
「もしリリーの血から何か取っ掛かりが出来れば……」
「…?」
「……なんでもない。それでリリーが使ってる強化魔法の件だけど、そっちも研究が進まなかった。ごめんなさい」
切り替えられた話を聞いて、そういえばそんな話もありましたねと微笑みました。
…私の使っている強化魔法は、例えば魔術師に使えば威力の増加が見込め…盾職の人に使えば固くなるといった…どこか不思議な魔法になっています。
なのでそれを解明すれば死亡率も減ると思ったんですが…どうやら上手くはいかなかった様です。
でもこれに関しては最終的にお金はあまり増えなさそうですけど、良いんですかね?
「そうですか…大丈夫ですよ」
「…ありがとう」
「いえいえ。今日は良い杖も貰えましたからね」
そういいながら小さく微笑むのと同時に、小さく大地が震動し始めました。
……最初は唯の地震かと思っていましたが、その震動の奥に潜む黒い気配を感じ取り……私は小さく息を呑んでから…
「ごめんなさいミィ」
「…ぁ、シスター外してくれ…」
「今の地震でもしかしたら家の銅像とかが落ちたかもしれないので確認に行ってきます!」
「え?…ぁ……うん…」
返事を聞いてから私は走り始め、地面から伝わる気配を感じ取りながら一直線に元凶の所まで走り始めました。
「……。偶には頼ってよ…リリーのアホ、バカ……お人好し」