不幸一杯のプロローグ-3
小さく息を吐きながら、私はゆっくりとにゅいにゅいさんを見つめます。
…さっきからにゅいにゅいさんがずっと此方を見ているのがずっと不思議なんですが…
「…どうしたんですか?」
「いえ、聞きたいのはこっちなんですが…どうしてずっと見ているんですか?」
「ふぇ?私ずっと見てましたか?」
「はい。かなり」
私の言葉を聞いてにゅいにゅいさんが視線を少しだけ逸らしました。
…それを見て私が苦笑するのと同時に、ゆっくりと立ち上がって微笑みます。
「それじゃあ私はこれくらいで上がりますね。これ以上は逆上せちゃいますので」
「あ、はい。私も上がりますね」
「…?もう少しゆっくりしてても大丈夫ですよ?」
「いえいえ……一人でお風呂に入ってても、詰まらないですし…」
にゅいにゅいさんが何かを呟くのを見て、私は小さく首を傾げますが…にゅいにゅいさんは気にしない様にと微笑んできました。
それを見て私が頷くのと同時に、周囲の精霊さん達が私の元に集まってから私の身体の水滴を蒸発させてくれます。
「…ふぅ。ありがとうございます」
『オヤスイゴヨウ!』
「……これ、マクスよりも慕われて……」
にゅいにゅいさんがもう一度呟きながら苦笑するのと同時に、私の周囲に沢山の精霊さん達が集まり…そしてゆっくりと加護を付与してくれました。
『イタイ?』
「いえ。大丈夫ですよ」
『カオノフヨ、シタラタイヘン。ゴメン』
「良いんです。してくれるだけでも本来ありがたい事なんですから」
『イタクナイ?』
「はい。大丈夫ですよ」
小さく微笑みながら言えば、傷口に優しくキスをした精霊さんが私の肩に止まってから上目遣いでこちらを見つめてきました。
それを見て小さく頷いた後に、私はお風呂から出た後に…
「…ぇ?」
「どうしました?」
ゆっくりと裸のまま、私は廊下の方に出ます。
それを見てカチーンと固まったにゅいにゅいさんを見て…私は小さく首を傾げました。
「ゃ…ぇ?その、服とか着て…」
「無いですよ?オフィリア様にも言われましたし…」
「あのエロ主神!」
にゅいにゅいさんが叫んだのを見て、私は思わず苦笑しました。
…まぁ、神様に言われた事なのでしっかりとやってはいるんですが…
「その、恥ずかしくないんですか…?」
「最初は恥ずかしかったですけど、今はもう恥ずかしくないですね」
「……えっと…わたしは…」
「どちらでも大丈夫ですよ。私はオフィリア様から言われたのでやっているだけですから」
小さく微笑みながらそういえば、にゅいにゅいさんが口を窄めながら……服を着ずにゆっくりと歩き始めました。
それを見て私は驚きますが…にゅいにゅいさんはそんな私の事に気付かずに…
「懺悔の為懺悔の為……」
何かを小さく呟きながら自分の大事な所を抑えてました。
…緑色の髪と、青金の色をした瞳。
図らずもニュイシス様と同じ色をしている事にほんの少しだけの嫉妬を含ませながらも、身体を少しだけ見て思わず息を呑んでしまいました。
「……ぅぅ」
恥ずかしがっているからか頬は少しだけ朱いですが、肌の色は雪の様に白い肌でした。
胸も私よりは大きいですし、身長も私より大きくて大人なお姉さんといった感じでしょうか。
でも恥ずかしがってる姿は、初めて温泉に来た様な少女そのもので……
「……ってっ!?貴女達何をしていらっしゃるんですの!?」
「これから祈祷部屋に入ります。神様に今日のご報告をしなければいけませんから」
「う、上から見るより……ふぁぁ…」
私の言葉を聞いて、一人の女性が驚いた後にせめて服を着なさいと言い…もう一人の少女が私の身体を見て恍惚の息を漏らしました。
…いえ、私とにゅいにゅいさんが重なっていましたので、普通ににゅいにゅいさんの身体を見て恍惚の息を漏らしただけでしょうけれども。
……良いじゃないですか、ツルペタ少女が夢を見たって。
一応手で包む程度の量はあるんですし…この程度で良いんです、えぇ!
「…それじゃあ何かあったら扉を四回ノックしてください。一応ご飯は精霊さん達が作ってくださいますので大丈夫だと思います」
「……マクスよりも慕わ…」
「それ以上はいけませんわ」
小さい少女が何かを呟くのと同時に、金髪の彼女が口を塞ぎます。
……このタイミングでしょうかね?
「それと、できれば名前を教えてくれませんか?にゅいにゅいさんは一応教えてくれまして…」
「にゅいにゅいって…貴女ね…」
「……本当にごめんなさい。思いつかなかったんです」
「…気持ちは分かる」
その言葉と同時に、二人は私の方に向き直って小さく微笑みました。
それと同時に、一人の金髪の彼女が前に出てきて…ゆっくりとお辞儀をしてから微笑みます。
彼女はどちらかと言うと何処かのご令嬢というべき人でしょうか?胸も大きいですし、服も豪華そうです。
唯肌の色は小麦の色…と言うんでしょうか?
「じゃあ最初は私から。私は魔眼と風の神のク……ぁ」
「クレアニーナ様を信仰しているんですか?」
「そ、そうですの!クレアニーナ様を信仰しているんですのよ!?」
「あの方も結構可愛らしい方で…」
「で、名前はクレアですわ!はい次!」
強制的に言葉を切ったクレアさんを見ながら、私はゆっくりと少女の方に目を向けます。
肌は健康そうな白さではなく、寧ろ不健康だからこその白さみたいな色で。
…私よりも身長が低く、その体は剣を持てなさそうなくらいか弱い少女の姿で……思わず庇護欲が掻き立てられました。
「えっと、私の名前はオリ……んっ…」
「おりん…?」
「オリ…ン……そう!オリンフィアって名前」
「オリンフィア……えっと、魔術の国での聖名が…」
「やばいどうしよう。リリーが博識」
「…私達が気を惹くために沢山お話しちゃったからだと思いますけどね…」
「いえ、まだ一般常識なので……えぇ…」
三人が何か喋っているのを見ながら、私は小さく首を傾げ…そして漸く思い出したい事が頭に浮かび上がりました。
「そうです!確かオリンフィアってオリジン様とスフィリア様から加護を貰った方が貰える名前でしたよね?」
「……人間が勝手に言ってるだけで、私が加護を与えるのはリリーだ……」
「はい。それは交信の時に言ってくださいな……というかスフィリアから何ちゃっかり力貰っているんですの」
「……だって、便利だったから」
二人が話しているのを見ながら、私達は祈祷部屋の扉を開けて…一礼をしてから部屋に入ります。
…それを見たにゅいにゅいさんも一礼をして入り……物珍しそうに部屋の中を見回っています。
「とても綺麗なんですね。ちゃんと隅々まで整備されていますし…」
「はい。一応素肌なので危険な物が無いように安全にしています」
「…そうでしたね。はい……っと、ニュイシス……様、がありますね」
「はい。他にも沢山の神様が居ますので、もし他に信仰してる神様が居たらお祈りしてくださいね」
そういいながら私は所定の位置に座り、神様一柱事にお話をし始めます。
…勿論忙しい時はあまり話しても返事は返ってきませんが、仕事が終わってる方々は結構話してくれますので結構楽しい時間です。
『オイノリバッカ、ダメ!ゴハン、タベル!』
「……んっ…ありがとうございますね」
基本的にお祈りをしている時は口を使わないんですが、それでもご飯を食べるくらいなら…と思ってしまいます。
精霊さん達は私達の宗教においては神様の使いの様な扱いをされています。
その身は清く、魂に穢れは貯まらず、そして人間に危機が訪れた時は真っ先に助けに来る……とまぁ、こんな感じだった筈です。
…勿論そんな筈もなく、精霊さんは嫌いな人が居たらその人に悪戯を仕掛けます。
「……」
【相も変わらず、精霊達に愛されている様ですね】
【いえ。精霊さん達から構って貰っているだけです。ニュイシス様…そういえば今日、勇者のパーティを抜ける事になってしまいました】
【ああ、あれですか。別に構いませんよ……どうせ時が来るまでの時間稼ぎの様な物ですし】
【…時間稼ぎですか?】
【いえ、なんでもないです。……所でそちらに“にゅいにゅい”という存在が来ていませんか?】
その言葉を聞いて、私は小さく頷きます。
一応心の中で相槌を打てば良いのですが、私はそもそも喋るよりも頷いたりする方が得意なので反射的にこちらをやってしまうんですよね。
【そうですか。彼女達は本当に良い人達…です】
【手放しでニュイシス様が褒めるなんて、相当なんですね】
【……ぇぇ…まぁ自分自身ですし…】
呟かれた言葉は聞こえませんでしたが、ニュイシス様も聞かせる心算はないのか小さくため息を吐きました。
そしてゆっくりと私の周囲に魔力を漂わせ……ニュイシス様からの信託が下ります。
【では信託を伝えます。暫くはにゅいにゅい達と一緒に暮らしなさい。彼女達と一緒にいれば安全が保障されるでしょう】
【ニュイシス様の御心のままに】
その言葉と同時に、私の身体を包んだ魔力が形を成していきます。
高密度の魔力を圧縮させたそれは、一本の糸となって私の身体に巻き付きます。
…そして気付けば私の身体はその糸達に完全に包まれており…そして完全に包んだその糸達は色を変えていきます。
「青金の金具と緑の修道服……これって…」
【何時も私達神の期待に応え、そして幾度の転生を繰り返しても神への信仰を忘れなかった御礼です】
「……っ…」
神様に認められた。
その言葉が私の心と頭を支配していき…歓喜で体が震え始めます。
震える声を出さない様にしながら、私は出来る限り普通の表情を浮かべながら…
【ありがとうございます。ニュイシス様】
【これからも励むように。これは私だけではなく…貴女が信仰する神全ての言葉と受け止めなさい】
【はい!】
私のその言葉と同時に、にゅいにゅいさんが立ち上がって目を開きます。
「……ふふ。やっぱり私の目に狂いはありませんでした。遠隔で精霊達にお世話させてる方が悪いんですよ。
彼女の信仰を一点に…それは愛情を受け取る事に他なりません」
何かを呟きながらやってきたにゅいにゅいさんを、私は首を傾げながら迎え入れます。
…最後の一柱であるニュイシス様の像にお辞儀をした後に、私は振り返り……
「…もう服着替えたんですか?」
服を着替え終わって微笑んでいるにゅいにゅいさんを見て、もう一度首を傾げながら質問をしました。
「はい。一応私、早着替え出来ますので」
「そうなんですね」
「それよりもその服綺麗ですね。誰かからの貰い物ですか?」
「あー……ぁ…ぇ、っと…」
まさかニュイシス様を信仰している人にニュイシス様からもらいましたとは言えず、私は口をまごつかせます。
それを見て何かを察したのか、にゅいにゅいさんは微笑みながら自分の得物を優しく叩いてから喋りました。
「大丈夫ですよ。私もニュイシス様から貰いましたから」
「…っ!」
その言葉を聞いて、何から話せばよいか迷っていた頭が晴れていきました。
とりあえずニュイシス様から貰った服の説明をしようとしていると…青金の金具が小さく私の周囲を取り囲み……そして一つの杖へと形を変えていきます。
「…あれ?」
「ふふ。私でもそんな物は貰ったことありません……」
「へ?いや、えっと…」
「貴女は特別なんですよ」
「そんな事はありません!私よりもきっと信仰深い人はいる筈ですから!私を特別扱いなんて……一応精霊達の様子を見に行きますね!」
私がそう言いながら急いで祈祷部屋を出ていくのと同時に…
「…残念。本心なんですけれどね」
小さくにゅいにゅいさんが呟いたのを、せっかちな私は何時も通り聞き逃してしまいました。