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不幸一杯のプロローグ-2

「へぇ。此処が貴女の家……」

「えぇ。他のシスターの家や教会の部屋よりは良い家ですよ」

「……という事は、貴女は他のシスターよりも位が高いの?」


少女達の疑問には苦笑する事によって返答しながらも、私は扉に合う鍵を探します。

一つ目の鍵、違う。二つ目の鍵、違う。三つ目の鍵、これも違う。

何時もやっている最早日課になりつつある鍵探しをやっていると、後ろの彼女達が呆れた様な表情で私に問いかけてきます。


「…何してるの?」

「いえ。職業柄鍵を貰う機会が多くて、これだけあると自分の鍵が見つからないんですよ」

「……盗賊でも其処まで鍵は持たないと思う」

「盗賊は自分で鍵を開けられると思いますよ……っと、これですね」

「というかシスターが沢山鍵を持つってどういう事なの?」

「さぁ?親睦会だとか何とかで、色々鍵を貰う機会が多いんです」

「……狙われてる、だけ」

「私を狙う物好きなんて人攫いくらいしか居ませんよ。それよりもどうぞお入り下さい」


狭いし余り良い所では御座いませんが、と付け加えておきつつ…私は扉を開けて少女達を招き入れます。

流石に四人は狭いと思いますが、彼女達は特に気にしたりしないらしいですね。

全員が入った後に鍵を掛けた後、小さくため息を吐きながら靴を脱ぎました。

取り敢えず入ってはいけない部屋を教えないと…なんて考えながらも、私はゆっくりと三人を居間に連れていきます。


「…おお。こんな風になっているんだ」

「はい。直進しますと祈祷部屋になります。一応身を清めない限り入る事は出来ない…と言う決まりにはなっていますが、危なくなったら気にせずに入って下さい」

「……良いの?」

「教会の御言葉よりも、周囲の人の安全です。仮に神様が怒ったとしても、私が謝りますから」

「いや、別に怒らないけど…」


果たして神様という単語に反応する彼女達は、本当に神様なんでしょうかね?

…いやまぁ、本当の神様だったら私の所にどうして来たんですかってお話にもなりますし。

という事で、名前を名乗れないから偽名として神様と名乗っているのだと私は考えました。

他に何か理由があっても私の頭では考えられませんしね!


「…えっと、此処が居間で向こうが祈祷部屋ね。リリー個人の部屋って何処にあるの?」

「私は基本的に祈祷部屋でお祈りをしてます」

「いやえっと、個人のお部屋…」

「ずっとお祈りしているので私のお部屋はありませんよ?一応、お客様用のお部屋はありますのでゆっくりしていって下さいね」


そう言いながら微笑めば、彼女達は何か悟った様な表情で小さく頷きました。

…良かった。何とか納得してもらえたらしいです。

始めてのお客様だと何故か余り納得してもらえない事もあるので、不安だったのですが……


「……ねぇ。私達と長時間話してた理由って……」

「…それ以上は駄目…」

「……?どうしました」

「いえいえ。それで清める為の部屋って何処にありますか?私達も神様……を信仰してる一人なので、出来れば祈祷部屋に行きたいんですけれど…」


その言葉を聞いて、私は思わず目を輝かせてしまいました。

盾役の方が神様を信仰してるのはかなり珍しい事で、基本的に誰も信仰してないという方が多いんです。


「そうなんですね!信仰してる神様とか言えます?!私は基本的にどんな神様でも大丈夫な人なので!」

「え、えっと……ニュ」

「ニュイシス様ですか!力と繁栄の神!盾役の中で最も多く信仰される神様なんですよね!私も良くお話をしますけど、実は可愛くて面白い方なんですよ!」

「か、かわ…!?…あ、あはは…そうなんですね…」

「はい!ニュイシス様は可愛くてですね?この前なんかけちゃっぷ?というのを服にこぼしちゃったらしくて」


その言葉を聞いて恥ずかしそうに微笑んだ彼女を見て、私は思わずと言った表情で自分の口を塞ぎました。

…あんまり神様と喋れる事を言っちゃいけませんとシスター達から言われたのですが、結局守れたことが殆どありませんでした。

だからこれ以上は話すのを止めようと思ったのですが…


「……えっと、他にはどんなお話をしたりするんですか?」


そんな事を言われてしまったら、私の勝手に動く口が止まる筈ありませんでした。

先程の思考なんて全部投げ出してしまい、どんな神様の事を話そうかという一点に思考が集中します。


「他の御方…そうですね、例えばオリジン様…って分かりますか?」

「え、えぇ……分かりますよ?魔術と破壊の神様ですよね?」

「そうですそうです!あの方何時も無口なんですけれどね?時々あっちから話しかけてくる事があるんです。どんな時だと思います?」

「うーん…魔術に失敗した時とかですかね?」


その言葉を聞いて、私は小さく首を横に振ります。

確かに魔術を失敗した時も少しだけ悲しいオーラを出しながら話したりはするんですが、でもそれよりももっと凄い事があったんですよね。


「実はですね?怖くて眠れない時にこっそりと話しかけてくれるんです」

「ちょ、貴女そんな事してましたの…!?」

「……寝れないのは、仕方ないから」

「態々リリーに話しかけて良い理由にはならないじゃないでしょう!?」


後ろの方で御二人が話していますが、私達には聞こえず思わず首を傾げてしまいました。

それを見た目の前の少女……あ、そういえば…


「…偽名でも良いので、呼べる名前を教えて貰えませんか?」


いい加減偽名でもよいので、他人に紹介するときの名前が欲しいんですよね。

流石に彼女達を説明するのに、『自分を神様と名乗っている一般冒険者』とは言えませんし。


「呼べる名前…?…えっと、私の名前はニュイ……」

「ニュイ?」


名前もニュイシス様に似ているんですね…少しだけ羨ましいです。

私はリリーという名前なのですが、どの神様の名前とも似ていなくて少しだけ寂しいんですよね。


「…えっと、にゅ、にゅいにゅいです」

「にゅいにゅいさん?」

「は、はい……」

「……凄いですね!盾役になるべくしてなった方なんですね!」


小さく微笑みながらそういえば、にゅいにゅいさんは何かを諦めた様に頷きました。

その事に少しだけ小さく首を傾げながらも、奥の二人を見て小さく問いかけました。


「じゃあ残りの御二人の名前って…」

「え、っと……」


小さく何かを考える様に視線を動かしながら、何かもごもごと言った後に…


「えっと、後で御二人に聴いて下さい」

「そうですね。私も後で自己紹介しないといけませんし……取り敢えず清めの部屋に行きましょうか」


その言葉を聞いて小さく頷いたにゅいにゅいさんを見てから、私はにゅいにゅいさんの手を掴んで左の部屋に進みます。

そして辿り着いた部屋に一礼してから入り…服を脱ぎ始めます。


「えちょ?!」

「…?どうしました?」

「い、いえ……これが普通なんですか?」

「はい。清めの部屋と言っても実際はお風呂に入るだけなんです。驚きました?」

「…いや、そうじゃ……そう、ですね…」

「ふふ。一応お湯とかも用意しているので安心してくださいね」


そう言いながら私が服を洗濯籠に入れると、籠が浮き上がって部屋から出ていきます。

…他にも籠がありますので大丈夫なんですが、一つ入れるとすぐ移動しちゃうのをどうにかなりませんかね?


「……?脱がないんですか?」

「その、恥ずかしくは…」

「恥ずかしかったら教会にいけませんよ?教会だと皆一緒にお風呂入ったりするんですから」

「…いや……ぅぅ…」


小さく呻きながら何かを言っているにゅいにゅいさんを見つつ、私は先に行きますねと言ってから扉を開けます。

…それと同時に浮き上がった家具達が指定の位置に移動し、私はそれを見てもう一つと指で指示を出します。

それと同時に空中からお湯が降りだし、私の全身を濡らしていき……私は思わず息を吐きました。


「…ふぅ。やっぱり自分の家のお風呂が一番ですね」

「……えっと、これはどういう原理で…」


私はゆっくりと息を吐くのと同時に、後ろからにゅいにゅいさんの声が聞こえてきました。

私は小さく微笑みながら優しく手招きをしながら、私はこのシャワーの原理の説明を始めます。


「精霊さんにお願いしてお湯を作って貰ってるんですよ」

「…えぇ…マクスが偶に困ってるのって、それだったんですね……」

「ふふ。その反応は毎回されているので……って、マクス様がどうしたんですか?」

「いや、何でもないです…わっ…」


にゅいにゅいさんが椅子に座るのと同時に、空中から再びお湯が降り始めました。

最初は恐る恐る私の方を見ていましたが、次第に慣れたのかもう少し熱めにと温度の調整をしていました。

…それと同時に私達の身体と髪の毛に白いふわふわが降りかかり、私は小さく目を瞑りました。

最初はこういう奴は無かったんですが、精霊さんに聞いてみると飼い主?創り主?様が権能を渡してくれたらしいです。

……これをすると身体が更に綺麗になるとの事なので、私は好きにしているんですが…


「んっ……へぇ。シャンプーとかあるんですね」

「…しゃんぷー?」

「あ、いえ。なんでもないですよ」

「……いえ。名前を知らなかっただけなんです。精霊さんからやって貰ってる事だったので」


しっかり覚えておこうと思いつつ、お湯を掛けて貰った後に小さく微笑みました。


「ありがとうございます精霊さん。お陰で今日も神様にお目通りが叶います」

『…キレイ。ダヨ。キョウモ』

「ふふ。そういっていただけると嬉しいです」

『オユ、ハイル?』


その言葉に小さく頷くと、私の身体を優しい炎で包んでくれました。

身体を温めてくれるそれを優しく手で包みながら、私は立ち上がって湯舟に向かって歩きます。


「…っと、湯舟の方は自由ですのでもし嫌だったら…」

「い、いや!?全然嫌じゃ……あっつ!?」

『キタナイココロ!ダメ!』

「汚くないです!」

『ウソツキ!』


精霊さんと戯れているのを見ながら、私は苦笑しつつ湯舟に浸かりました。

…今日はどんな話をしようかなとも思いつつ、頭の中で報告する事を纏めながら息を吐きました。

今日は本当に色々あったし、明日からどうしようか…なんて思いながらも…


「…まぁ、神の御神託に従うまで…でしょうね」


小さく自嘲した笑みを浮かべながら、私はゆっくりと手を伸ばしました。

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