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魔術の国-2

「止まれ!この先が魔術の国と知っているのか!」

「えぇ。冒険者5人と積み荷一つ(・・・・・)。ああ、チップも必要かしら?」


…ん…寝ていたら何時の間にかついていたようですね。

流石は眠りと起源の神スーリス様…人間一人眠らせるなんてお手の物という訳ですね。


「…あ、おはようございます。いま検問中なので少し待っててくださいね」

「……はい。はい?魔術の国のですか…?」


確か国境が幾つかあった筈なんですけど…私そんなに永く眠ってましたっけ…。

此処から魔術の国まで転送ゲートを使わないでかかる距離は推定2か月。勿論魔物との戦闘や山賊達との遭遇・撤退戦を含めないで二ヶ月なので基本的に転送ゲートを使うはずです。

ですが…それだと可笑しい。

転送ゲートを使うなら馬車は降りないといけないので馬車を持ってこれる筈がありません。

そもそも転送ゲート使うならプリーストファクトリーの街や村に飛ばずそのまま魔術の国の主要都市に入る筈ですから…


「…ふふ、どうしました?」

「…辻褄が合いません。一体どんな魔法を?」

「神の様な偉業を」

「……?スーリス様が何かしたって事ですか?」

「私は今回手を貸してませんよ。唯暖かな日差しと…良い眠りをリリーに齎しただけです」


…一体どういうことでしょうか?

確かに眠りとこの暖かい空気だけでは何も出来なそうですけど…もしかして辿り着いたのも夢?実際はまだ馬車は進んでいて……えっと…


「ふふ、悩んでいる所も可愛らしいですが検問が終わったので馬車を降りますよ」

「…ん。此処からは私が案内する。スーリヤは宿屋捜して」

「えー。私もリリーと一緒が…」

「宿屋の解呪と祝福をお願い」

「…えぇ。分かりました」


そう言って去っていくスーリヤ様と…護衛?用にスーリヤ様に引き摺られていくにゅいにゅいさんを見て、私は思わず苦笑してしまいました。

…残ったクレア様は馬車を溶かして……ん?


「馬車が溶けた…?」

「へ?ああ…えぇ。風で作った馬車ですから全部風へ還っただけですわ」

「…そうなんですね。…クレアさんの魔術で作った物なんですか?」

「…あー…まぁ。そんな感じですわ。ね?オリンフィア」

「あんな魔術見た事無いけどね」

「ちょっと!?」


軽口を言い合いながらも二人共目線だけで警戒しているのを見て、私は首を傾げます。

……そしてそれと同時に理解しました(・・・・・・)。この魔術の国の仕来りが。

鳴りやまぬ爆発音、弾け飛ぶ建物の一階と残骸達。そして…一階が吹き飛んだのにも関わらず何故か高さを保っている天にも届きそうな建物達。


「これが…魔術の国」

「そう。破壊と魔術のオリジンと再生と元無(ゲンブ)の神クロニストルが作ったと勝手に人は言ってる神様の国」

「……周りに聞こえたら怒られますよ。宗教の考え方ですからね」

「あら。リリーはシスターなのにそういうのには寛大ですの?」

「私は別に……それよりも元無(ゲンブ)とはなんです?」


私の質問を聞いてオリンフィアさんが小さくふむ…と呟いているのを聞いて…小さく苦笑してしまいました。

…説明が難しい事なのでしょう。ちょっと聞くのを止めて置けば良かったかもしれません。

……あの時ふむと呟いたオリジン様との講義は長かったですからね。


「先ず初めにリリー。あるのにないと言ったら何を思いつく?」

「……あるのにない。ですか?……信仰とかでしょうか」


目には見えずとも心にはある。

あるいは無いのにあると言ったり言わせてしまう…あるのにないと呼ばれる代名詞ではないでしょうか?


「ん。じゃあ物質は?」

「…光と闇では不正解ですよね。光は目に見えるからこそそこにあると分かるし…」

「闇は目に見えないからこそ其処にある。うん。良い子」

「……?闇の説明とあるのにないという説明は一緒なのでは?どちらもあるのにないでしょう?」

「じゃあ人間は闇だけの空間を作れた?ダークマターを観測できた?」


その言葉にクレアさんが小さく俯いてしまいました。

…私も同じ間違いをしました…これからまた学べば良いんです。


「闇は確かに其処に存在している。でもソレを観測できないのが人間である…でしたっけ」

「そう。逆にクレアなんかはレア物の魔眼“も”持ってる。闇も観測できるし計測も出来る」

「…そうなんですね。凄いです」


本題から逸れた事を理解したオリンフィアさんは一度咳払いしてから微笑みます。

…その行動にオリジン様を思い出しながら、私は苦笑しつつ話を聞く体勢に戻ります。


「じゃああるのにない物とはなに?」

「講義はもうこりごりですわ…」

「……あるのにない物…空気、でもないですし…」


私の呟いた一言に小さくおっ、と呟いたオリンフィアさんが私の方に指を差して頬を緩めました。

撫でてくれた指がちょっと暖かいです。


「それが一番近い。でも違う」

「…真空って事ですか?」

「何処かの世界の言葉の絶対真空という奴ですの?」

「存在はしないらしいけど。それと同じ。“其処には無い”のに“其処にある”」

「チンプンカンプンですわね」


そう呟いたクレアさんを見て、私は噛み砕いた説明をするか考えてみる事にしました。

……其処にあって其処にない…


「お家。家とかどうですか?」

「家、ですの?」

「そです。先ずおっきなお家を思い浮かべて下さい」


私が呟くのと同時にクレアさんがイメージをし……そして風が逆立ち始める。

雲一つない快晴から荒れ狂う嵐になった事に多少の驚きを覚えつつも、私は続けた。


「先ずそのお家の中には何がありますか?」

「家具とかですわね」

「それを除くと?」

「壁とか……柱、鉄骨ですわ」

「柱と鉄骨を無くすとどうなります?」

「家が崩壊しますわ」

「あー…えーっと……じゃあ今は取り敢えず透明な魔力で柱を作って下さい。…その調子です。じゃあ入ってみましょう」


私の言葉を聞いてクレアさんが小さく頷いてから目を開けて私達と入ります。

そのまま扉を潜るのと同時にクレアさんが再び目を瞑りました。そうでもしないと家が崩れてしまうのか結構真剣な表情だったりしますね。


「…此処には何がありますか?」

「何もありませんわ。本来リリーが入ったら即死するくらいには」

「……じゃあ出ましょうか」

「…?別に大丈夫なのだけど…分かったわ」

「出たら見た目だけ見えない様にしてみてください。そうすれば多分…正解の筈です」


私とクレアさんが出るのと同時に、お家がそのまま透明になっていき…最後は見えなくなりました。

存在するか確認する為に一旦触ろうとしましたが触れられない事に小さく首を傾げると…オリンフィアさんが私の頭をぐりぐりと撫でながら正解と呟いた。


「そう。其処にあるのに何もない。それが元無(ゲンブ)という存在」

「あら。結局次元間総数合同理論に基づいた転移の話じゃないですの。真面目に聞いて損しましたわ」

「クレアのネームセンスは長すぎる。短く元無(ゲンブ)でいい」

元無(ゲンブ)なんて言葉じゃ名前を聞いて理解できませんわ。次元間総数合同理論に基づいた転移って聞いたら一発で分かるじゃないですの」


その言葉を聞いて私は思わず首を傾げ続けてしまいました。……あるのにない。それって透明なのでは?と思ったけど違ったらしいですね。

結局次元?がどうとか……ちょっとチンプンカンプンです。


「…えっと。結局どうい…」

「ちょっといいかな貴方達」


私が話しかけるのと同時に、私達の目の前に三人の男女が現れました。

…服装が統一されている。少女の生首を模した首飾りに赤いブレスレット…嫌な所が来ましたね。


「…だ」

「これはこれは魔術正統教会の皆様。申し訳ございません何の用でしょうか?」

「此処で教会、王城、役所の何れにも提出していない魔術の行使を確認した。危険な行いをしたとしてついてきてもらおう」

「……です。拒否権を行使するのは難しいですがやりますか?」

「手札は幾つありますか」


私は身体で手を隠しながら指を3本立てました。

それを見たクレア様はため息を吐いてから…指を鳴らし…


「……?失礼。此処ではなかったらしい。おいもうちょっと北だ急ぐぞ!」

「「ハッ」」


それと同時に三人が駆け出していきました。

…そういえば彼らは脳波を弄られて魔力の感知で動く人形に近い人何でしたっけ。

だから魔力を他に出して自らの魔力を出来る限り薄くすれば誤魔化せる…というのが良くある対処法でしたっけ。


「…ありがとうございます」

「リリーを守るのも私の役目で、そもそも私が蒔いた種ですわ」

「……リリー。リリーが目指す教会に行く前に二つ、寄り道良い?」


オリンフィアさんの真剣な声を聴いて、私達は振り向いて小さく言葉を待ちました。

…それでもオリンフィアさんはなるべく安心させるような表情で喋り始めました。


「先ず一つは私の家で…もう一つはね?」


魔術正統教会を潰してクロニストルを助けたいんだ。

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