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閑話-プリーストファクトリーにて

「では本日のご依頼“も”失敗と言う事ですね。次回のご依頼のランクはCからスタートになります」


無表情で淡々と言われたその一言を聞いて、一人の男性は苛つきながら受付を睨み付ける。

それを見た周囲の人間が彼を冷ややかに笑い、それを聞いた男性が更に苛ついて周囲を睨み付け…それを見て更に周囲の人間が面白そうに酒の肴にする。

その男性はかつて人類の最終兵器と呼ばれた勇者であり、現在は不作の勇者と言う不名誉な称号をつけられた一人の男性であった。


「おい何でだよ!俺は勇者だぞ!?」

「何度も申し上げておりますが、高ランクのご依頼を失敗するという事は適正なランクと言う事ではありません。

よって適正なランクで経験を積んでから…」

「前までは出来ていただろ?!それならこれからも依頼を受けても良いじゃねぇか!と言うか大体依頼内容が悪いんだよ!もっと簡単にクリア出来る依頼を受けさせろ!」

「……これが一番簡単な依頼だったんですけどね」

「あぁ!?」


勇者と受付が睨み合いながら…勇者だけが…大きな声で騒ぎ立てるのを、周りの冒険者は嘲笑しながら見ているだけだった。

それは別に彼らが薄情なのではなく、あの勇者程度酒が入っていても倒せるという慢心からの行動であり……それは実際問題正しい。

リリーの抜けた穴が漸く埋まり、更には今受けられる最高ランクの中の最低レベルの依頼という限りなく恵まれた条件。

それなのにも関わらず失敗をしたという事は、そのランクの依頼を受ける実力がないと判断されても文句は言えない。

けれど今まで…数ヶ月だけとはいえ…じっと勇者と持て囃された彼にそれを受け入れろと言われても、難しいだろう。


「可笑しいだろ!もっと簡単で手軽な依頼を寄越せ!それかさっさとあいつを連れてこいよ!」

「あいつ?」

「お前なら知ってるだろ!あの最弱回復魔法しか使えない顔だけプリーストをよ!昨日みたら何故かあいつの居た教会は更地になっているしよ……」


その言葉を聞いて、受付の眉が小さく歪んだ。

何故教会が更地になったかは、それは一応冒険者の間では噂になっている。

龍が突然現れて更地にしたとか、魔王が現れて“真の聖女”を殺しに来たとか大悪魔が現れて調子に乗っていた教会を滅ぼしたとか。

様々な憶測や噂が建てられた後には、全て不作の勇者の弱さや嘆きが混ざっている。


「おいおい。教会が滅んだ瞬間を見てねぇのか?昨日来た冒険者はもう解決したらしいのによ!」

「……は?」

「それすら知らなかったの?勇者と呼ばれてる癖に?」


周囲の冒険者からの煽りを聞いて、勇者が剣を抜こうとするがそれを寸での所で自分で抑える。

…それを見て少しだけため息を吐いた勇者のパーティの一人が扉から去っていくのも気付かず、勇者は受付を睨み付けながらも、頭の中の疑問をそのまま口にする。


「…おい。それは本当なのか?」


リリーからの話題からそちらにズレた事に、受付を含め何人かが安堵の息を吐く。

それに気付かない勇者は馬鹿にされたと思ったのか剣を抜こうをするが…


「えぇ。街の探索依頼を出したらどうやら其処から解決してくれたようですね。今回の事件の顛末を細かく書いてくれましたよ」

「それを証明する方法はあんのか?俺みたいな勇者だったらそうだろうが、昨日来たばっかりの冒険者の証言なんか…」

「いえ。その時“偶々”リリーさんが現れて、“偶々”関わっていたらしくてそれが正しいと“本人が”証明してくれたらしいですよ?」

「……は?あいつ生きているのか?」


勇者からの質問を聞いて、冒険者の何人かが耳を傾ける。

今回の事件の“後片付け”をしないといけなくて居ない人の分、自分が聞かないとと考えている人達だ。

しかしその解答を答えたのは受付ではなく…


「えぇ。リリー様はプリーストの中でもかなり高位の存在ですからね。かなり大きな家を持っている筈ですよ」


勇者の後ろからゆっくりと歩いていた一人のプリーストだった。

プリーストの言葉を聞いて小さく首を傾げた勇者だが、プリーストはお構いなしに続ける。


「リリー様を扱いきれないからパーティから外したらしいですが、今回の依頼はどうでしたか?」

「んだと?」

「リリー様がいた時よりも身体は重くありませんでしたか?あの魔術師は気付いている様でしたが、貴方ともう一人の方は気付いていなかった様ですね」


その言葉と同時にブチ切れた勇者がプリーストに剣を振るう。

リリーにした様に頬を狙う……のではなく、首を狙って確実に殺す一撃だ。

それを見た受付が小さく息を呑むが…


「それでは私はこれで。どうやら私は勇者パーティには不適合ですから」


その剣を利き手と逆の手で抑え付けたプリーストが、小さく微笑みながら去っていった。

…それを見て更に勇者が嘲笑され、勇者がそれを収めようとするべく暴れる。

それを周囲の冒険者達がてんやわんやになりながら抑えつつも、話題の中心は先程の少女だった。


「…あのプリースト、一体何者なんだ?」

「分からんな。唯リリーちゃんが小さい頃からずっと会っている人らしいぞ?」

「へぇ。しかしプリースト如きに剣を抑えられるって…こいつ本当に勇者かよ」

「そんなこと言ったら、この勇者を全力で抑えないと暴れられる俺達も負けてるんじゃないか?」

「違いねぇ。俺らも頑張らないとな」


そう言いながら勇者を気絶させて適当な仮屋に放り込んだ後、各自の冒険者達が受付に依頼を持っていったりお酒を飲んだりしている裏で……


「……全く。リリーも変な奴に好かれるんだから…」

『それが良い所だろう?』

「…分かっていますけど。それよりも良いんですか?こんな風に私が暗躍しても」


路地裏で、先程勇者と別れたプリーストが誰かと喋っていた。


『ああ。大事な愛し子だからな。親馬鹿くらいが丁度良いのさ』

「…全く。この世界を騒がせる悪神が一人の少女を愛でているなんて知ったら、大変な騒ぎですよ?」

『違いない』


その言葉と同時に、黒い翼を生やした少女が空高く飛んでいく。

勇者が気絶している今、悪魔が此処を飛んだとしても悪く言われるのは勇者だろう。


「今は魔術の国だったっけ。あそこは通るの面倒なんだよなぁ」

『あの神達はどうやって通る心算だろうな』

「無難に催眠(ヒプノシス)だと思いますよ」


その言葉と同時に自分の顔を優しく触るのと同時に少女の顔が変わっていく。

…自分の顔になった事を分かった少女が微笑むのと同時に…


「…待っててね。リリー」

『行くのか?リウム』

「当たり前でしょ?私はリリーのお嫁さんだからね」

『そうか。気を付けろよ』


その言葉に小さく頷くのと同時に、リウムは魔術の国へ一直線へと向かっていった。

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