閑話
「それで今回は何をするお心算ですか?」
「…えっと、一応言い訳をするとですね?私はこれから悪さをしに行く訳じゃないんですよ?」
「えー?一緒に悪戯しに行きましょうよ」
「リリーはプリーストですよ?スーリスの考えている規模をやったら神殿から資格を剥奪されるでしょうに」
私のその一言を聞いてスーリス様が少しだけ詰まらなさそうにするのを、にゅいにゅいさんが小さく窘めます。
それを見て私は慌ててにゅいにゅいさんの方を見ましたが、にゅいにゅいさんは私の方を見て少しだけ微笑み…そんな姿を見てスーリス様がにゅいにゅいさんを睨み付けました。
……此処に居る人達はスーリス様が神様って事を知らないんでしょうか…?
自分でも言わないって事はそういう事なんでしょうけれど…でもオリンフィアさんは知っていますよね?
「……」
そんな事を考えながら視線をオリンフィアさんの方を見つめると、オリンフィアさんは既に本を読み始めていました。
題名を盗み見ると其処には魔術の国の観光ガイドと書いており、それを時々何か考えながら読み進めます。
「ほらほら、魔術の国のガイドはオリンフィアに任せて私達は魔術の国に着いたらどうするかを話さないとですよ?」
スーリス様がそう言って私の身体を揺すり始め、私は隣のスーリスさんの方に視線を移動させました。
それを見て嬉しそうに微笑んだスーリス様が私を抱きしめた後に…
「それに今のオリンフィアは、かなり大変な事になっていますしね?」
私の耳元で囁きました。
それを聞いて私は思わず視線をオリンフィアさんの方に向けようとしますが、それをスーリス様が両手で抑えつけます。
そしてそのままゆっくりとスーリス様の顔が離れ……
「良いんですよ。無理して降りてきた罰なんですから」
そう言って少しだけ怒った様な表情でオリンフィアさんの方を見つめました。
…少しだけ焦っている事からオリンフィアさんも聞こえては居るんでしょうね。
「……降りてきた?」
「ふふ、オリンフィア……の外側の身体……はかなり高位の魔術師なんですよ」
オリンフィアさんの名前の後にボソッと何かを呟いたのを聞いて、私は小さく首を傾げますがにゅいにゅいさんは堪え切れずに笑っていました。
…それを見たオリンフィアさんがにゅいにゅいさんを睨み付けますが、にゅいにゅいさんは気にせずに笑い続けます。
「高位の魔術師……それでオリンフィアさん?」
「そうです。聖名としてオリンフィアと名乗る人間もいますが……彼女はオリンフィアとしか名乗らないですよね?」
「…そういえば」
私がそういってオリンフィアさんを見つめると、オリンフィアさんも少しだけはにかみながら手を振ってくれました。
…ひょっとして、かなり凄いお方なんでしょうか?
「なので基本的に常識はありませんし人間関係もありません」
「……?そうなんですか?」
「そう。元々もそんな感じで……いい機会だったからにゅいにゅいと一緒に旅に出たの」
「そうですね。魔法使いに一番近い者…と街では専らの評判でしたから。……まぁ、まさかこうなるとは思いませんでしたけどね」
「しょうがない。リリーと会うにはこれぐらいしか方法が無かった。……にゅいにゅいもそうでしょ?」
二人が小さく呟くのと同時に、お互いがお互いを睨み付けました。
それを見たスーリス様は面白そうに微笑んだ後に…私の耳元にゆっくりと近づいて…
「…ふー」
「っっ?!」
優しく息を吹きかけてきました。
その事に吃驚して思わずスーリス様を見つめると…スーリス様は何かを愛おしそうな目で見つめていました。
「……?…。ふふっ」
その後、私の耳では“聞き取れない”声で喋ったスーリス様を見て…私は思わず首を傾げてしまいました。
それを見たスーリス様が面白そうに微笑んだ後…優しく私の頭を膝に落とします。
「…すーりすさま?」
「少しだけ眠ったらどうですか?私は眠りの神様ですからね…最高の眠りをお届け出来ますよ?」
「……でも、日課のお祈りもまだ…」
「私から説明しておきますよ。……と言うか、私は魔門に閉じ込められて他の神は勝手に声を聞けてたとか本当許せませんし」
…スーリス様が何かを呟くのと同時に、にゅいにゅいさん達が小さく苦笑してから私の方を見て頷きました。
…どうやら今日は本当に寝るしかないようです。
少しだけ諦めた様な表情で私が目を閉じるのと同時に…
「おやすみなさい。愛しの少女」
スーリス様が嬉しそうに何かを呟いた気がしました。
 




