魔術の国-1
魔門が仕舞われていた地下から教会跡に戻り、私はゆっくりと伸びをします。
…それを見たスーリスさんが嬉しそうに微笑んだのを見て思わず首を傾げますが…スーリスさんは特に気にせずにゆっくりと私の頭を撫でてから私の家の方角に向かって歩いていきました。
「…何かもう全部終わった気がします…」
「……一応これからなんだけどね」
「それは分かっているんですけれども……」
小さくため息を吐いてからオリンフィアさんを見れば、オリンフィアさんも少しだけ困った様な表情でこちらを見つめてきました。
「と言うよりスーリス様は場所を分かってるのかな?」
「私の家の方角に迷いなく向かっていったので大丈夫だとは思いますが……鍵掛けたまんまでしたね」
「ああ…まぁ鍵は其処まで気にしないでしょ。そもそも透過して壁貫通出来るし」
プライベートも何もありませんねと小さく苦笑すると、オリンフィアさんも少しだけ困った様な表情でこちらを見つめました。
それを見て私は小さく首を傾げますが…それよりもにゅいにゅいさんが何処に行ったのか気になって思わず周囲を眺めました。
「…あ」
「っと、大丈夫でしたかリリー?!私が一瞬で目を離した時に捕まるとは思いませんでした!」
「……?にゅいにゅいさんはオリンフィアさんに情報を伝えたんじゃないんですか?」
「へ?……成程?オリンフィア、後で話があるから来なさい」
「いや私は…」
その言葉よりも先に笑顔になったにゅいにゅいさんの顔を見て、オリンフィアさんの表情が絶望に代わりました。
それを見て私も助けに入ろうとしますが…
「ふふ、大丈夫ですよリリー。私は優しいので少しだけお灸を据えてあげるだけですから」
「いえ、一応今回は私も悪い訳ですし」
「そんな事はありませんよ?寧ろあいつとオリンフィア相手に魔術を使ってキャンセルされなかった位ですから」
「…キャンセル?」
始めて聞いたその言葉に思わず首を傾げると、にゅいにゅいさんは冷たい表情を浮かべながらオリンフィアさんの方を向きました。
それを見たオリンフィアさんが慌てて私に説明をし始めます。
「え、えっと。かなり強い魔術師は弱い魔術師の魔術をキャンセルする事が出来るんだ」
「…つまり、今回私はかなり遊ばれていたという事ですか?」
「それは違う」
私の小さな疑問は、真剣なオリンフィアさんの言葉によって否定されました。
…でも私より強い魔術師なんて沢山居たでしょうでしょうし、もしキャンセルと言う技術があるならされても可笑しくは……
「…私の魔術がかなり異常で、うまく消せなかった…?」
一つだけ思い浮かんだ可能性をポツリと呟き、そして小さな納得感が生まれました。
それを見たオリンフィアさんが小さく首を傾げるのを見ながらも、私は考えを纏めていきます。
「確かオリジン様も私の魔術を見た時に……それならさっきの件と合わせて……」
「…リリー?どうしたんですか?」
にゅいにゅいさんが私に問いかけるのを見て、私は小さく頷きました。
それを見たにゅいにゅいさんが小さく首を傾げますが…私は気にせずに真剣な表情を浮かべました。
「…魔術の国に行くべきですか」
「……どうして?」
「大きな理由としては、私が今までいた教会が滅んでしまったからですね」
その言葉を聞いてオリンフィアさんが小さく目を逸らすのを見て、私は思わず苦笑しました。
…責任を感じているんでしょうかね?
「一応此処はプリーストの総本山ですが、各神様の大神殿は各地に散らばっているんです」
「そうだね。此処は確か…」
「魔術と破壊の神オリジン様ですね。此方の神殿に一時期身を置いていたのですが……今はもうなくなってしまいましたからね」
「…そっか。大神殿は魔術の国だったから」
その言葉を聞いて、私は小さく頷きました。
本来なら此処に沢山の大神殿を集めたかったらしいのですが、流石に此処に沢山の大神殿を集めると簡単に腐敗してしまう……と言った理由で拒否されたらしいです。
なので一つの大神殿を除いて此処の神殿は主神殿と名前を変えておき、“書類上”階級を下げる必要がありました。
「そうですね。それに大神殿よりも主神殿は階級が下なので、無くなったら報告しないといけないんです」
「…成程。それなら私達もついて…」
「いえ。今回は私一人で行った方が良いと思いまして」
私の言葉を聞いたオリンフィアさんが目をぱちくりとさせて動きを停止しました。
それを見て私は小さく首を傾げますが……オリンフィアさんが復活した瞬間に私の身体を掴んで揺すり始めます。
「な、なんで!?」
「ふぇ?!いえだって皆さんパーティを組んでいますよね?冒険者ギルドから依頼を受けないといけないんじゃないんですか?」
「……あ、その事なんですけれども」
その言葉と同時ににゅいにゅいさんが私の目の前にカードを一つ見せました。
…私はそれをちらりと見て……思わず目を疑いました。
「…嘘、ですよね?初依頼受けてないのにどうしてカードがそんなに豪華なんですか?」
「今回の事を報告したら沢山の報酬と…ね?」
そう言いながら嬉しそうに微笑んだにゅいにゅいさんを見て…私は思わず目を逸らしました。
…今回の件、私は教会に握り潰されると思っていました。
教会の最大戦力である聖女を失い、更には聖女が聖女殺しをするという状況…それを解決したとしても教会の最高戦力を向けられ一方的に殺される可能性も……
「……あ」
「どうしたんですか?」
クレアさんは、何処に行ったんでしょうか?
私達がずっと地下に居る時、それを見てたとしたら場所は動いてない筈です。
それに私をずっと見続けてたとしたら、伏兵なんて気付かない……
「クレアさんは何処に行きました?!」
「…クレア?どうしていきなりそんな話に…」
「もしかしたら兵を向けられる可能性もあるんです!もし連絡出来るなら急いでしてください!」
私の言葉を聞いてオリンフィアさんが魔法陣を描くのを見てから、私は急いで自宅に行きます。
……教会が持っている戦力を向けられる前に早めに逃げないと、にゅいにゅいさん達が殺される可能性があります。
「…きゅ、急にどうしたんですか?」
「今回の一件、悪魔が関わっていて…更には聖女自身が悪魔を召喚してたんですよね?」
「え、えぇ……其処までは分かりませんが…」
「とすると今回の事件は教会ぐるみで起こされた可能性が高いんです。今回の一件、は、唯の悪魔だけで終わる可能性が低……」
走りながらにゅいにゅいさん達に説明をしていると、にゅいにゅいさんが私の身体を抱きしめてから小さく微笑みました。
…それを見て私は変な事をやっている訳では無いと思わず睨み付けそうになりますが…にゅいにゅいさんが指を差した方向を見ると……
「…スーリス様?」
「えぇ。全員無事ですから、私達は何もせずに魔術の国に向かいましょう?」
「確かにスーリス様は無事かもしれませんが、クレアさんが無事かどうか……」
私のその一言を聞いて少しだけ困った様な表情を浮かべたにゅいにゅいさんを見て…私は思わず首を傾げました。
それを見て小さく微笑んだスーリス様を見るのと同時に…
「…ふふ。取り敢えず馬車に乗りましょうか」
「馬車…ですか?」
「えぇ。とても便利な馬車ですよ」
その言葉と同時に私達の目の前に馬車が現れ……馬の上には嬉しそうに微笑んだクレアさんが居ました。
…後ろの部分には既にスーリス様達が乗っていて、私の為に扉を開けていました。
「ふふ、私達と一緒にのんびり旅をしませんか?」
「……えっと…クレアさんは大丈夫なんですか?」
「…?何がですの?」
「その、服が血だらけだったので…」
私のその一言を聞いて、ああと小さくクレアさんが微笑んでから…
「馬鹿をあしらった時に付いた血ですわ。気にせずにのんびりして下さって?」
私の頭を撫でてから、私を馬車に入れて笑いました。




