神様の名を騙る者-完
振り向いた時には男とイルヴァ、そして何人かのシスター達が居て、私は思わず首を傾げました。
…それを見たオリンフィアさん達が私を庇う様に移動しますが、私は気にせずに彼らに喋りかけます。
「誰ですか?」
「俺は新しき神。その古き神の遺産を滅ぼし、新たな時代に導く者だ」
「神様に年代は関係ありませんよ?」
小さく呟くのと同時に、後ろにいたシスター達が私の方を睨み付けました。
「…それで?恩恵も名乗らない新しき神が何の用だ?」
「ふん。俺の恩恵は強大だからな。聞けばどんな神も震える程の…」
「神が震えた所で何も意味は無い。人に授け導かせるのが神の恩恵。それすらも知らないで神を名乗ろうなんて…笑える」
新しき神様相手に二人が煽り始めるのを見て、私は思わず苦笑してしまいました。
…いえ、確かに言っている事は正しいんですけれど…一応相手は神様を名乗っているんですから…
「お前らが何を言おうとも変わらん。この教会の惨状を見ただろう?」
「…これは、貴方がした事だと?」
「そうだよ新米シスターさん。この神様の逆鱗に触れた結果、ここの教会は滅んだの」
「そうだ。此処の奴らは俺を認めなかったからな。よって滅ぼした」
その言葉を聞いて、私は思わず口を歪めてしまいました。
…確かにこの惨状は神様がやった事だと聞いていますが…逆鱗に触れたから?そんな理由で彼女達は殺されたんですか?
私が勇者パーティーを抜けさせられたから、そういう理由で巻き添えを食らった訳では無く…
「唯当たり前の事をしただけなのに殺されたと…?」
その事実に辿り着いた結果、私は背中の杖を取り出しました。
それを見たシスター達が警戒をする様にこちらを睨み付けますが、私は気にせずに杖を構えます。
「…リリー」
「…最期に一つ聞かせて下さい…貴方は人間を、なんだと思っているんですか?」
せめて、これだけは正しき回答であってほしい。
そんな事を考えながら、私は最後の質問を新しき神様に投げかけ…
「私が生きる為の糧。それ以外にないだろう?」
その言葉を聞くのと同時に、私は彼の正面に一つの魔法陣を描きました。
…其処から黄金の炎を放たれ、彼を焼き尽くさんとばかりに襲い掛かります。
それを見たオリンフィアさんが少しだけ驚いた様な表情でこちらを見つめますが、私はそれに気付かずに次の手を考えていました。
「守れ、イルヴァ」
彼が言葉を放つのと同時に、私の炎はイルヴァの魔術によって弾かれました。
…それを見ながら私は新しく魔法を放とうとしますが…魔王の手によって止められました。
「…なんの心算ですか?」
「いやなに、此処で暴れられても迷惑だからな。奴らは私の手で殺してやる」
「……」
「不満か?」
その言葉に対して、私は小さく首を横に振りました。
…それを見た魔王が嬉しそうに私の頭を撫でるのと同時に…
「…ふん。お前みたいなひよっこが俺に勝てると思ったのか?」
「ひよっこはこっちの台詞なんだがな」
大量に飛んできた武器や氷、炎を魔王が影を使って消し去りました。
…それを見て驚いた様な表情を浮かべた彼を見て、魔王が小さくため息を吐きます。
「…」
それと同時に、イルヴァの首が吹き飛び一瞬で塵へと変わりました。
…それを見て私は思わずオリンフィアさんの方を見ますが…オリンフィアさんは手を小さく握ってから微笑みました。
「…ん。馬鹿は一人殺した」
「……仲間じゃ?」
「仲間?全然違うよ?」
その一言を聞いて私は漸く思い違いをしていた事に気付きました。
…という事はにゅいにゅいさん対魔王対イルヴァ…と言うのが真実だったのでしょう。
「…貴様等何も…」
「悪魔程度が叶う相手じゃないとだけ言っておこうか?」
「……っ!?何故それを!」
「本来神であれば受けない筈の攻撃を守れと命令していたからだ」
魔王がそういうのと同時に、私に温かい魔力を分け与え始めました。
…それを瞳に集中させるのと同時に…奥にいたシスター達の姿が変わり始めました。
今まで人間として見えていた人達の姿が、どんどん変わっていき…
「……そう、だったんですね」
それと同時に、私は漸く理解をしました。
…彼女達が元々着ていた服からして、魔術の国の神殿はかなり汚染されているとみても良いでしょう。
「…オリンフィアさん」
「どうしたの?」
「……オリンフィアさんは、大丈夫なんですよね?あんな風には、なりませんよね?」
私のその言葉を聞いて、オリンフィアさんは小さく微笑みました。
それを見て私は小さく首を傾げますが…オリンフィアさんは気にせずにゆっくりと私の身体を抱きしめてから…
「大丈夫だよ。絶対、裏切らない」
そう言って呟くのと同時に…“魔門”から光が吹き荒れました。
…それを見て魔王が小さく微笑むのと同時に、私の身体を魔門のすぐ横に移動させました。
それを見た彼が小さく首を傾げるのと同時に…
「…ふぁぁ…あ、あ、あ」
透き通った綺麗な声が聞こえ…私は思わず目をぱちくりとさせました。
…それを見てオリンフィアさんが悪戯が成功した様に微笑むのと同時に…
「…新しい神様が貴女に喧嘩を売りに来たんだってさ。相手してあげてよ」
「……うーん。やる気起きないですね……オリジ…」
「リリーと一緒に旅する権利が与えられたとしても?」
オリンフィアさんが声の持ち主の言葉と被せる様にいうのと同時に…私のすぐそばで温かい風が吹き荒れました。
思わず目を瞑ると、私の頭に優しく手を置かれ…そのまま優しく撫でられた後に…
「その言葉、忘れませんからね」
「…分かったからさっさと倒してきて。神の名を騙ろうとしている奴を」
「貴様、何者だ?」
彼の言葉を聞いて、私はゆっくりと目を開けると…其処には一人の少女が居ました。
…綺麗な紫色のワンピースに黒い髪、雪の様な白い肌と青と緑のオッドアイ。
過去に神様から聞いた通りの姿で現れた彼女を見て…私は声を震わせながら呟きました。
「……眠りと起源の神…様」
私の言葉に小さく微笑んだ少女が、奥のシスター達を睨み付けます。
…それだけで、シスター達の姿が一瞬で消え去り…其処には何も残りませんでした。
「流石。過去に見たまんまの強さだ」
「……魔王は見た事あったんですか?」
「まぁ…一度だけな」
その言葉を呟くのと同時に、悪魔の男はその姿を塵へと変えました。
「…神の名を騙るならまだしも、神の名声を下げる…それは許されない」
その言葉と同時に、悪魔の男の塵が魔門へと吸い込まれていき…その門は閉じてしまいました。
…それを見て小さく微笑んだ少女が、私の方にゆっくりと歩いてきます。
私は急いで祈りのポーズをしようとしますが、それを少女が止めてゆっくりと私を抱きしめました。
「大丈夫ですよ。貴女は私の特別ですから」
「…とく、べつ…」
「えぇ。私の姿を初めて見た人間ですし…ね?リリー」
「そう…ですね。聖典でも姿が違いましたし……」
小さく目をぱちくりとさせながらそういえば、少女は嬉しそうに微笑んだ後…
「…さて、自己紹介しましょうか。私は眠りと起源の神スーリス…気軽にスーリスと呼んでくださいね?」
そう言って微笑み、私の身体をもう一度優しく抱きしめました。
…それを見た魔王が嬉しそうに微笑んだ後に…
「…さて、私は冥府であのゴミ共を捕まえるか」
小さく何かを呟くのと同時に、影へと消えていきました。
それを見たオリンフィアさんが何かを言いたそうにこちらを見つめますが…結局何も言わずに私の近くに寄ってから…
「…今回の事は悪魔を気付けなかった勇者が悪い事になったから…リリーは気にしないでね」
私の耳元で囁きました。
その事に少しだけ首を傾げつつも、ゆっくりと頷いたのを見て…オリンフィアさんが嬉しそうに微笑みました。