神様の名を騙る者-6
「…どういう事ですか?」
小さく疑問の声を上げながら、私は小さく首を傾げます。
それを見て少しだけ面白そうに笑った魔王が、私に近づいてから…
「さっきの言葉通りだよ。後輩と呼ばれている少女は、お前と仲良くし過ぎたんだ」
その言葉を聞いて、私はまた首を傾げます。
私と仲良くしたからなんだって言うんでしょうか?
「ふふ、お前は自分に向けられる感情に無頓着だからな」
「…えぇ」
子供の頃から祈っていた私は、よく奇異の目で見られる事が多かったのです。
両親も特に信仰心が深くなかった事も理由の一つなんでしょうが…
「時間も人の流れも気にせず、子供の頃からずっと祈りを捧げている少女……願われた対象は、それを知っていたのだとしたら?」
「…殺したのは、神様だとでも言うのですか?」
私の一言に、魔王は小さく頷きました。
…何故それを知っているのか、そもそも現魔王は何者なのかと言う疑問を全て飲み込みます。
「ああ。お前に悪意を持ち、そして教会に害をなそうとしたから奴等は死んだんだ」
その言葉を聞いて…私は小さく息を吐きました。
…出来れば、どうして教会に害をなそうとしたか…知りたかったです。
それさえ知っていれば、私も…
「…悪神と交信すれば、大抵の人間はそうなるがな」
「……?今何か言いました?」
私のその一言に、魔王が笑い出しました。
…その事に少しだけ首を傾げますが魔王は気にせずに唯喋りだしました。
「いや。お前は人間としては規格外だなと言っただけだ」
「私は普通の人ですよ。斬れば死にますし大規模魔術を喰らえば死にます」
「こうやって魔王と一対一で話しているのにか?」
「おや。此処で魔術を起動するんですか?」
小さく視線を新しい影の方向に向ければ、魔王は小さく微笑みました。
…そしてゆっくりと影を消し、魔王が私を掴んでいた手を離します。
「いや、止めておこう。此処で事を荒げてはいらん奴に気付かれるからな」
「…?勇者の事ですか?」
「あいつは気付かないだろう。歴代の勇者であれば我が此処に来た時点で気付いていたぞ?」
その事に少しだけ苦笑しながらも、私は魔王と向かい合う様に身体を動かします。
…それと同時に、私の唇に優しく人差し指をくっつけた魔王が…
「さて、今から少しだけ黙って貰おうか?」
「…?……ん」
魔王の突然の言葉に少しだけ驚きつつも、私は小さく頷いて黙りました。
……そして二分が経過した頃でしょうか。
取り敢えず何時まで黙っていれば良いのか分からず、私は小さく喋ろうとして…
「…ただいま」
「っ!」
オリンフィアさんの声が聞こえ、私は小さく目を瞬きました。
…そういえばギルドで別れてから一切オリンフィアさんの声が聞こえませんでしたが…どうしたんでしょう?
「…?にゅいにゅいの話だと此処に居る筈だけど……あいつに攫われた?いや、盃を知りたいなら私達に任せる筈。…痺れを切らしたか?」
オリンフィアさんが何かを呟きながら私達の方に近づくのを見て、魔王が少しだけ嗤います。
…それを見て私が小さく首を傾げるのと同時に…
「…そろそろ出てきなよ。それとも私が怖いの?」
「そんな風に警戒しないでよオリンフィア。久々に箱庭に来たから必要以上に怖がっているの?」
「黙れ。万年仕事をしないで此処に居るお前に言われる筋合いはない。それとも可愛い信者に出会えてご満足なのか?」
お互いに罵倒から始まった挨拶を見て、私は思わず苦笑してしまいました。
…二人共お知り合いで、しかも仲良いんですね。
どうして魔王とオリンフィアさんが仲が良いか少しだけ考えながらも、私は二人の会話に耳を傾けます。
「…それで?何処まで知ってるんだ?」
「貴女達が裏で色々手を回している所まで」
「……じゃあ私達がして欲しい事まで知っている筈だ」
「えぇ。けれど私がそれをするメリットは?」
その言葉と同時に、オリンフィアさんが小さく私の方に視線を動かします。
…それを見て私は小さく首を傾げますが…オリンフィアさんは気にせずに淡々と喋り続けました。
「無事を保証する」
「そんなのは当たり前よ。寧ろ彼女を動かしている時点で間違っているんだから」
「……それは…」
「私達にとって彼女を守るのは最優先よ。それとも、若いからって甘えられると思ってた?」
「……それは、違う」
「違うなら私達の愛し子を守りなさい。まさか暴れたい為に此処に来たわけじゃないんでしょう?」
その言葉を聞いてオリンフィアさんの口が歪み…そして小さく俯きました。
…それを見て私は少しだけため息を吐いた後に…ゆっくりとオリンフィアさんの頭を撫でます。
「んっ……リリー?」
「もし何か間違えたのなら、それを挽回する為に頑張れば良いんです」
「…でも」
「でもも何もありません。私も頑張って手伝いますから」
「……それじゃ駄目なんだけどね」
魔王が小さく何かを呟いたのが分かり、私は思わず魔王の方を向きますが…魔王は苦笑したまま小さく首を振りました。
「オリンフィアさんの事はよく分かりませんが…この魔王についてはかなり知っています」
「…」
「勿論この人は冗談を言ったりしますが、嘘は言いません…だから…」
「大丈夫。分かってるから…」
私の一言を聞いて小さく頷いたオリンフィアさんを見て、私は安堵の息を吐きました。
…そりゃあ、魔王と仲良く話してるなら知っていますよね。
少しだけ頭が回ってなかった事に苦笑しながらも、私はゆっくりと魔王の方を見つめ…
「…はぁ。分かった…」
「……?」
諦めた様に小さくため息を吐いた魔王が、私の頭を優しく撫でてから私の周囲に魔法陣を展開させます。
…幾つもの魔法陣が浮かんでは消える…それを50程繰り返した後に…ゆっくりとオリンフィアさんの方を見てから首を傾げました。
「これでいい?」
「…ああ。助かった」
「後は盃の調整もお願いね。“姉妹”がやって来るにはあの門は小さすぎるから」
「……御意」
「待ってください。貴女達は何をする心算ですか?」
二人の言葉に私は緩めた力を戻して睨み付けます。
それを魔王は嬉しそうに、オリンフィアさんは少しだけ慌てた様にこちらを見てきますが…私は気にせずに唯問いかけます。
「ふふ。どうすると思う?」
「魔門の調整と言う言葉だけで、私は貴女達を敵と認定する事も出来るんですよ」
「…へぇ?じゃあしてみたらどうかしら?」
その言葉と同時に、魔王の身体に大量の鎖が絡まり…私を掴んでいた手が離れました。
…それを見て少しだけ驚いた様な表情でこちらを見てくる魔王を見て…私はオリンフィアさんを警戒しながら喋りだします。
「その鎖から抜け出せますか?」
「…今の私では無理ね。驚いた…何処でそんな力を?」
「私は回復が出来ないですからね。回復以外を出来る様に色々頑張ったんですよ」
「……へぇ」
その言葉と同時に、私の鎖は一瞬で影に切り裂かれました。
…成程、抜け出す事は無理でも壊す事は出来る…それなら次は拘束力よりも耐久性を上げるべきですか。
「…耐久の祝福。粛清の鎖」
小さく呟くのと同時に、今度はオリンフィアさんと魔王に対して大量の鎖が飛び交いました。
…オリンフィアさんが大量の魔法陣を展開して鎖を壊し、魔王は不敵に笑った後に全ての鎖を影に呑ませました。
「…どう?まだ戦う?」
「いえ。出来るなら此処で拘束して魔門への干渉を防ぎたいのですが…残念ながら難しそうですね」
「……そうだね」
「…一つだけ聴かせて下さい。貴女達は魔門を使って何をする心算ですか?」
私のその言葉を聞いて、オリンフィアさんが小さく微笑んだ後に…
「光の神を堕とす。私達二人はその為にやって来た」
そういって私の頭を優しく撫でてくれました。
その感覚に少しだけ身を委ねながらも、私は疑問に思った事を質問します。
「…にゅいにゅいさん達は違うのですか?」
「…?うん、にゅいにゅい達は他の目的で降りて来てる」
「……降りて?…そうですか」
降りてきたという言葉に少しだけ疑問を覚えながらも、私は小さく考えを纏めました。
…にゅいにゅいさんとオリンフィアさんの目的は違う…それなら…
「…そうですか」
少しだけ彼女達に反撃をする事が出来るかもしれない。
…そんな事を考えながら、私は小さく息を吐き…そしてとある提案をしました。
「それなら二人に、一回だけ協力しても良いですよ?」
その言葉を聞いて二人が小さく首を傾げたのを見て…私は小さく微笑みました。




