神様の名を騙る者-5
少女と別れた後に、私達は部屋の中に入って小さくため息を吐きました。
…にゅいにゅいさんとしても会いたくなかった人らしく、家の中の物をゆっくりと見続け…
「…どうやら此処には誰も居ない様ですね…」
小さく呟いてからゆっくりと椅子に座りました。
それを見て私は小さく首を傾げますが…にゅいにゅいさんから気にしないで下さいとの一言を聞いて私は小さく頷きました。
…いえ、私の家に誰かいたら怖いんですけどね。
「…じゃなかった。それで私に拷問ってどうするんですか?」
「そうですね。…その前に情報を教えてくれませんか?教会の地下には何があるんです?」
「……それを聞き出す為の拷問だと思ったんですけど」
「…ちっ。流石に誤魔化されてくれませんか」
「私の事馬鹿にしてます?」
私が少しだけにゅいにゅいさんを睨み付けると、にゅいにゅいさんが慌てた表情でこちらの方にやってくるので思わず笑ってしまいました。
「…まぁ、良いんですけどね。教会の地下の秘密ですよね?」
「……へ?教えてくれるんですか?」
「えぇ。私としても痛いのは嫌ですし、其処まで大きな秘密はありませんので」
私がそう言いながらゆっくりと微笑むと、にゅいにゅいさんは少しだけ目をぱちくりとさせた後に…小さく口に指を当てて考え込みました。
…それを見て私は小さく首を傾げますが、取り敢えず先に情報だけ渡しておこうと思って口を開きます。
「先ず前提条件として、盃と言うのは一つの隠語と考えて下さい」
「…隠語?」
「はい。そしてこの盃の正式名称は“魔門”と言いまして…」
「……成程。言いたい事と犯人が分かりました。……イルヴァもあっち側でしたか」
私が説明する前に全てを悟ったにゅいにゅいさんを見て、私は驚きました。
…その前にどうして教会にそんな危険な物があるのかとか質問して欲しかったんですが…そこら辺は特に興味がない感じなのでしょうか?
そんな事を考えながらにゅいにゅいさんを見ていると…
「…一つ聞きたい事があります。この質問に噓偽りなく答えなさい」
いきなり神様の神託と同じ様な重圧を感じ、私は思わず目を瞬かせながら俯きました。
…今のにゅいにゅいさん、真面目な命令をするニュイシス様そっくりですね。
「はい」
「貴女が見た限り、決壊は何時か答えなさい」
「…私の目で見た限りは、明後日が限界だと思います。なので明日には私が封印を施そうとしたのですが…」
「それでこの惨状…確かにフィネルス様の言った通り、私が下手打ったと考えて良いでしょう」
にゅいにゅいさんの言葉の一部がノイズで消され、私は小さく首を傾げました。
…一応にゅいにゅいさんも聞かせようとは思ってなかった様で、特に気にせずに話をし続けます。
「……封印方法に指定はありましたか?」
「そうですね。教会から幾つかの指定がありました。上に五つ周囲に四つですね」
「…駄目ですね」
にゅいにゅいさんからの否定の言葉を聞いて、私は小さく目を瞬かされました。
…駄目とは一体どういう事でしょうか?
「封印方法が昔と比べてかなり精度が低い。最近の魔物の発生は其処ら辺から…いや違う。それだったら私達が駆り出される筈だから……上はまだそれを知らない?
…違う。もし知っていてそれを放置していた可能性があるなら、今回の真犯人は…」
「……にゅいにゅいさん?」
何かを呟きながらにゅいにゅいさんが私の方を見つめ、ゆっくりと目を細めます。
そしてその後に何か一言二言呟いた後、もう一度私の瞳を見つめ…
「…?」
少しだけ頬を赤らめたにゅいにゅいさんが目を逸らしました。
…何か怒る要素ありましたかね?
「…えっと…それで“魔門”の封印は今からでも出来るんですか?」
「はい。唯最近は後輩がやっている様ですけどね」
「…リリーの後輩がやっているんですか?リリー本人がやっている訳じゃなくて?」
「…?えぇ。勇者と一緒に旅してた時は全く出来ませんでしたし」
「……?魔術師が転移の魔術を使えば何とかなったのでは?」
その言葉を聞いて私は小さく息を吐きました。
…確かに転移の魔術は使えたりしましたし、他にも色々便利な魔術があったんですが…
「…その、勇者がアレでしてね」
「……本当にあの勇者……」
一応言葉を濁しては見ましたが、にゅいにゅいさんは分かってしまったらしいです。
その事に少しだけ苦笑しながら、私はゆっくりとため息を吐きました。
「…まぁ、それでどうしようも無かったので私から教会に連絡をして後輩を育て始めた…と言う感じですね」
「成程…所で最近魔物が多くなったという話は何時からですか?」
「確か私達が旅に出てからだったので…二ヶ月前でしたかね?」
頭の中で計算をしながら喋っていると、にゅいにゅいさんが少しだけ何かを考えながら家の外に出ていきました。
…拷問の話はどうなったのでしょうか?
「……一応大人しく待っておきますか。これで私が逃げて周囲の人に迷惑を掛けてもしょうがないですし」
「それが良い」
その言葉と同時に、私は急いで振り返ります。
…けれど一歩遅く、私の身体は既に周囲の影に取り押さえられていました。
「…“魔王”」
「ほう?こっちの事情にも精通している様だな?」
「えぇ。……起動」
その言葉と同時に、私の家の壁の至る所に大量の魔法陣が展開されました。
…それを見て魔王が少しだけ嗤った後に、周囲の魔法陣が全て壊されていきます。
「…流石の規格外ですね」
「ああ。だからこそ今回の勇者には期待していたのだが……期待外れだったな」
「……良いのですか?そんな事を私に伝えて」
「別にこの程度を伝えた所で変わらないだろう?…それともなんだ?お前ら人類はあの勇者に我を討伐するという期待を込めているのか?」
その質問には答えず、私は唯杖を握って魔術を行使し始めようとします。
…今の私に出来る事は殆ど無い。“本物の魔王”の視線を一瞬でも私に向けさせる事だけ。
けれど…その間に後輩が“魔門”の封印を修復すれば…
「そうだった。“魔門”の封印はもうすぐ解けるぞ」
「…何を根拠に?」
「今はイルヴァと言う人類の裏切り者が居るんだろう?教会はその対処に追われているらしいじゃないか」
「…一応“魔門”の修復をする人間はまだ残って…」
「死んだぞ?あいつら」
その言葉を聞いて、私は魔力を籠めていた魔術を行使しました。
今までとは違う神々しい一撃を喰らったのにも関わらず、魔王は気にもせずに私の身体を掴みました。
…どうやら影は全て消えたらしいですが、魔王自体にはかすり傷一つも喰らっていないらしいですね。
「…誰がやったんですか」
「ほう?赤の他人の為にお前は怒るのか?」
「…私の大事な後輩なんです。怒るのは当たり前でしょう」
「……ふぅん?では聞くが…その後輩が殺された理由、知っているのか?」
私はその質問に首を横に振ります。
もし理由を知っていたら私は犯人を絞り込めている筈です。
「…そうか。では教えてやろう」
「対価を必要としないのですか?」
「我は悪魔ではないからな」
「……では理由を教えて下さい」
「簡単だよ。お前に近づき過ぎたからだ」
その言葉を聞いて、私は思わず首を傾げてしまいました。
…私に近づいたから殺されたというのは…一体どういう事なんでしょうか?