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神様の名を騙る者-4

「っ?!」


突然頭の中に聞こえた言葉を反芻しながら、私は周囲を見回します。

…それをにゅいにゅいさんが少しだけ首を傾げてこちらを見つめますが…私は唯気にせずに周囲の人間を観察し始めました。


「…誰ですか」

「イルヴァって言えば分かるかな?新米シスターさん」


その言葉を聞いて、私は思わず歯噛みしてしまいました。

私が新米シスターであるという事は其処まで多くの方が知りません。私は新米にしてはかなり有名ですし、かなり上位の地位を貰っています。

更には子供の頃から教会に入り浸っていたので街の人も最近正式なシスターになったという事実を知らないでいます。

それなのにも関わらず、イルヴァは私が新米である事を知っていた…つまりは…


「…誰ですか」

「ふふ。彼女の名誉にかけて、それは教えてあげられないなぁ?」


私と仲良くしていた誰かが、イルヴァとの関係を持っていたという事に他なりません。

…そしてその情報を教えてまで私とコンタクトを取ったという事は、彼女が次に打つ一手は其処まで多く無いです。


「此処まで言えばもう気付きましたかね?」

「…さぁ?私には何の事か分かりませんね。教えて下さいませんか?」

「教会の地下にある盃」


その言葉と同時に、にゅいにゅいさんの眉が少しだけ顰められます。

その事に少しだけ首を傾げながらも…


「あら。とぼけたって無駄よ?」


先程まで頭の中で響いていた声が、私の背中から聞こえて思わず振り返りました。

…其処には昔からずっと絵で見た通りのイルヴァの姿があり…私は思わず目をぱちくりとしてしまいました。


「…どうして此処に?」

「貴女が教会の楔を断ち切らず、更には既に彼女達と契約を果たしたからね」

「……契約ですか?」

「えぇ。我を傷付けるべからず、我に嘘を吐くべからず、我の命令を背くべからず……此処まで言えば分かるかな?」


その言葉と同時に、にゅいにゅいさん達がどうして依頼を受け取ったのかが分かり…私はイルヴァを睨み付けました。

…それを見て嬉しそうに微笑んだイルヴァが、私の近くまで来てから…にゅいにゅいさんに命令を出します。


「暫くは彼女と一緒に居なさい。盃の場所を吐く前に死んだら厄介だから」

「えぇ。分かりました」

「…もう既に悪魔と契約を交わしていたんですね」


私の吐き捨てる様な一言を聞いて、イルヴァは思わずと言った表情でこちらに振り返りました。

其処には何を言っているかわからないといった様な表情の顔であり、それを見た私は小さく首を傾げました。


「ふふ。何を言っているの?」

「…違うんですか?」

「えぇ。全く違うわ!私が召喚したのはね?……神よ」


その言葉を聞いて、私は自分の持っている杖をイルヴァに振り下ろしました。

…しかしイルヴァは避ける事すらせず、私の杖はにゅいにゅいさんの手によって防がれます。


「ふふ。流石に怒ったかしら?」

「ふざけないで下さい。神様を召喚したのですか?」

「えぇ」

「嘘も大概にしなさい。神様は人の手でどうこう出来る者ではありません。ましては一人で召喚する事なんて、出来る筈ないでしょう」

「ぐふ…」


いきなりにゅいにゅいさんが息を吐きましたが、私は気にせずにイルヴァの方を見ます。

しかしイルヴァは余裕の表情を崩さず、私の言葉を聞いて唯々面白そうに笑っています。


「普通ならそうね。でも私、神様に愛されているから」

「愛されている?何を言っているんですか。神様が人を愛するなんてある訳無いでしょう」

「ぇ?…ぃゃぁ……」

「ふふ。其処まで言わなくてもいいじゃない。それとも…今まで貴女が神様の愛し子と言われてたから、嫉妬しているのかしら?」


その言葉と同時に、私は更に杖に力を籠め始めました。

…彼女は何も分かっていないと、私は唯々怒りに頭の中が支配され……このままじゃ駄目だと小さく深呼吸をし始めました。

……此処で怒って私が更に罪を重ねれば、それこそ彼女の思う壺です。

なればこそ、今私がやるべき事は怒りに身を任せて情報を流す事をせず…


「…えぇ。神様を人の手で堕とされたという事実に、少しばかり焦っていたようです」

「……」

「それでイルヴァさん。どの神様を堕としたのですか?」

「それを聞いてどうするのかしら?」


私の言葉を聞いて真剣な表情を浮かべたイルヴァさんを見ながら、私は小さく微笑みました。


「勿論、神様ご本人に聞くんです」

「…へぇ?聞いた所で神様から返事が返ってくると思っているの?」

「確かに忙しい時は返事はかなり少ないですが、人の世界に降りたという事は今はかなりお暇だと思いますからね。もし降りていたら一緒にお話をしながら…って思いまして」


その言葉を聞いてイルヴァさんの目が鋭くなり、私の方を睨み付けてきます。

…どうやら立場は逆転した様です。

と言ってもどうして立場が逆転したかは分かりませんが…どうしてそうなったんでしょうか?


「…ふん。神様と話せるなんて強がり、誰が信じると…」

「…?そういえば確か、聖女様も話したり出来るんですよね。どんなお話をしているんですか?」

「……」


私の一言を聞いて更にイルヴァさんの目が鋭くなり…私は思わず口を閉じました。

…つまりは赤の他人に話す様な内容ではなかったのでしょう。

一体どんな神様とどんな話をしているのかが気になったのですが…残念ですね。


「…ふん。もし情報を吐いたら生きて帰そうと思ったけど…止めるわ」

「……つまり、最初は生かす気だったんですか?」

「えぇ。でももうそれも終わりよ」


そう言いながらにゅいにゅいさんの方を見つめ、イルヴァさんが魔術を起動させて喋りだします。


「命令よ。貴女が思う拷問で彼女から情報を吐き出させなさい」

「…えぇ。了解しました」


その言葉を聞いてにゅいにゅいさんが嬉しそうに微笑みながらカーテシーを行います。

それを見て小さく私を哂いながら消えていくイルヴァさんを見ながら…私は小さく微笑みました。


「…何」

「いえ。また会いましょう?」

「もう会う事は無いわ。貴女は情報を引き出された後、彼女に殺されるんだから」


その言葉と同時に消えていったイルヴァさんを見ながら…私は小さく伸びをします。

…殺されるんだったら殺されるで良いんですが…流石ににゅいにゅいさんを巻き添えにする訳にはいきません。

せめて死ぬ時は祭壇を自分の血で濡らそうとか考えつつ、ゆっくりと私はにゅいにゅいさんの方を見つめ…


「それで、何処に行きますか?」

「そうですね。恐ろしい拷問をしなさいと言われましたし、一緒にご飯でも如何ですか?」

「それは恐ろしい拷も……へ?」


突然言われた一言を聞いて私の目が思わず点になります。

…それを見たにゅいにゅいさんが面白そうに私の頭を撫でた後に…


「ふふ、私の拷問は恐いですよ?」

「…ど、どんな風に怖いんでしょうか?」

「………ふふ。それはされてからのお楽しみです」


その言葉と同時に私の身体は浮き上がり…私が気付いた時にはもうにゅいにゅいさんによってお姫様だっこをされている状態でした。

…さっき怒ったのを見られたので其処まで恥ずかしくはないんですが…


「…その、重くありませんか?」

「えぇ…ぎゅっと捕まえなければ何処かに飛んでいきそうなくらい…貴女は軽いですね」

「其処まで軽いですか?」


私が疑問の声を上げるのと同時に、にゅいにゅいさんが小さく頷きました。

…そして無言のまま時間が進み…私は周囲を観察します。


「此処ご飯屋さんってありましたっけ?」

「ありませんよ?」

「ですよね……えっと、目的地って何処ですか?」

「ああ。リリーさんの家ですよ」


その言葉を聞いて、私は思わず苦笑しました。

どうして私の家で拷問をするのかは分かりませんが…確かに自分の家だと他殺してもわからないでしょう。

自分の家の前は人通りが少なく、比較的犯罪が起きやすい場所でしたし。


「…せめて殺す時は、神様に見守られながらが良かったんですけれどね…」

「それは心配しなくても大丈夫ですよ?」

「……ですよね」


小さくため息を吐きながら、私はゆっくりと家にたどり着き…鍵が開いていることに気付きました。

…そういえば鍵を閉めるのを忘れてましたね。なんて考えながら、私は扉を開けようとして…


「…?」

「ちょ、何で此処が…」


目の前に一人の少女が座っているのが分かり、私は思わず首を傾げました。

にゅいにゅいさんが小さく震えてるのを見るににゅいにゅいさんの顔見知りではあるんでしょうが…どうして私の家の前に居るんでしょう?


「落ちぶれましたね。先手で潰そうとして逆にコテンパンにやられるなんて……戦神の名が泣きますよ」

「…は、はは…いやそれ」

「言い訳は良いんです。これからどうするんです?」


その言葉を聞いてにゅいにゅいさんが小さく声を詰まらせます。

それを見て私はもう一度首を傾げますが…目の前の少女は私に微笑みかけた後に…


「愛しい彼女を求めて故郷から抜け出したんですから、せめてお土産話を持ってきて下さい。英雄譚見せようとしてギャグ漫画持ってきたら意味ないんですよ」

「ウグッ…」

「……まんが?」


私が首を傾げながらお二人の会話を聞いていると、少女が微笑んだまま私の方にやってきました。

そしてそのまま私の方に微笑みかけながら…


「魔術は万能であり、全能ではない」


小さく呟きました。

…確か魔術師が何故魔術師と呼ばれるかと言う説明だった筈です。


「魔術は万の道から一つの結果を生み出し、魔法は全ての道に通じ全ての結果を生み出す。

魔術が影を生み出せないのは、影が光を生み出せないから…確かこれが答えですよね?」

「えぇ、正解です……知識ある者はとても愛らしい」


そう言いながら私の頭を背伸びして優しく撫でてくれた少女を見ながら、私は少しだけ照れてしまいました。

…いや、愛らしいなんて言われる機会がありませんでしたし…少しくらい照れたって良いじゃないですか。


「…ニュイ…にゅい」

「は、はい!」

「彼女を頼みますよ。もし私達姉妹の愛し子を危険に晒したその時は…貴女を消します」

「…御意」


何時もより真面目に返事をしたにゅいにゅいさんを見ながら、私は少しだけ苦笑してしまいました。

そのにゅいにゅいさんに拷問されて殺されそうなんて…


「本当に、次失敗したら殺しますからね?」

「ごめんなさいごめんなさい。普通に油断したんです!」

「普通に油断して人間の魔術掛かるとか本当に考えられない。抜ける時に知恵まで抜け落ちたの?」

「仰る通りです…はい…」


この二人を見たら言えませんね。



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