不幸一杯のプロローグ-1
パーティーメンバーと別れた後、私はリーダーに待機命令を出され残っていました。
…最初は何か考えていた様ですが、考えが纏まった瞬間とても良い笑顔で嗤いながら…
「今日でお前は首だ。今すぐ出ていけ」
「……はぁ…」
私に対して首を宣告してきました。
どうやら今日、私はパーティーを追い出されるらしいです。
「何時まで経っても回復魔法は増えねぇし、それだったら適当なプリースト連れて行った方がましだわ」
「…えっと…」
まぁ、正しい選択ではあるんでしょうねと…私は小さく自答します。
プリーストとしての私は確かに使えないですし、回復魔法も生まれてから一つしか使えません。
「…分かりました」
「……あ?」
「大人しく出ていきます」
プリーストとして活躍出来ないなら、出ていくしかありません。
他にパーティーが見つからないなら教会に戻って毎日お祈りをする日々に戻るだけですしね。
寧ろ旅をしているとお祈りをする暇がありませんでしたし…折角ですから報告序でに教会に泊まっても…
「待てよ」
そんな事を考えていた時、目の前のパーティーリーダーから静止の声が掛けられました。
その言葉を聞いて私は首を傾げながら振り向くが…彼は少しだけ怒った様な表情でこちらを見つめてきます。
「…?何か御用ですか?」
「何で俺に詫びない?」
…?本格的に分からなくなってしまいました。
此処で詫びろと言われても何に詫びれば良いのか分かりません。
「…?」
「使えない分際でパーティーに入っててすみませんと、これからは無償で荷物持ちになりますって言葉が何故出ない!」
「…心からそう思ってないからですが」
何を言ってるんでしょうか?別に私は荷物持ちになりたい訳ではありません。
寧ろこれからちゃんと教会に戻ってしっかりと神様に仕えるシスターになろうと思ってましたし。
「…は?」
「という訳で、私はこれくらいで失礼しますね。これからも冒険頑張って下さ…」
そういって帰ろうとした瞬間、私の後頭部に鋭い痛みが走り出しました。
…身体が宙に浮いていて、何時の間にか私の身体が横になっていて……
「…ぇ?」
あっ、身体が浮いている。
そんな事を考えながらも、私は目をぱちくりとさせながら頭を机に打ちました。
……思ったよりも痛くなかった事に少しだけ驚きながら、私はゆっくりと立ち上がって彼を見つめました。
「……お前が悪いんだ」
「…」
「今まで逆らってこなかったのに、いきなり逆らってきたお前が悪いんだ!」
…何でしょうか。
少しだけ可哀想な人だなぁと思いつつも、もしかしたら私が自己主張をしなかったからこうなってしまったのだろうかという後悔が混ざってしまい…今の私はとても難しい感情になってしまいました。
けれど彼にとっては、私が唯呆然と見続けているだけでも気が立ってしまったのでしょう。
「っ!」
私の頬に、薄く切り傷が付きました。
…それを見た彼は満足そうに嗤った後に、ゆっくりと喋りだします。
「は、はは……顔に傷付けたし、もう教会に戻った所でシスターになんかなれはしないよなぁ?!」
「…」
「もし謝るんだったら、元の顔に免じて許してやっても良いぞ?精々考えろよ!」
そう言いながら走り去っていく彼を見ながら、私は小さくため息を吐きました。
…評判が悪いパーティーに入った末路としては、これが妥当何でしょうね。
これくらいの傷なら友達のシスターでも治して貰えますし、そもそも傷があったらシスターになれないなんて決まりはありません。
「というかシスターになる気は無いんですけれどね」
毎日適当なお祈りをした後に聖歌を歌ってお悩み相談をするだけの毎日は御免です。
私は一日中お祈りをしたいんです。
そんな事を考えながら、私は教会の方に足を運ぼうとして…
「…さて、今日はどんな報告を……?」
…後ろから強烈な違和感を感じ、振り向いてしまいました。
其処には三人の少女達が冒険者になりに来ている所であり、早速先程のリーダーが勧誘をしている所です。
……と言うか私を追い出してから何も決めてなかったんですか。
自分の評判が悪いから新米の冒険者を狙っているんでしょうね。…大変そうです。
「……」
「…」
此処からでは分かりませんが、どうやら険悪なムードが漂っていますね。
…彼女達から絶対に関わりたくないオーラが出ているのが分かりますし、元リーダーは全然気付いてないようです。
そもそも三人居て残りの空き枠はプリースト、元リーダーは盾役で被りでしょう。
「…私達は人を探しているの。いい加減退いて下さる?」
「……邪魔」
「そんな事言わずにさ?俺結構強いんだぜ?」
「…貴方じゃなくてパーティメンバーが強いだけですよね」
最後の一言を聞いて、私は思わず固まってしまいました。
…まぁ彼が弱いとは言いませんが、確かに強いとも言えないんですよね。
何時も私が援護をして、魔術師の火力を上げながら戦っていましたし。
勿論そんな事彼は知らないので、全部自分の実力って思っているでしょう。
「…不作の勇者、なんて呼び方。あんまり好きじゃなかったんですけれどね」
小さくため息を吐きながら、私は受付に対して鍵を返しに歩いていきます。
…何人かが私の頬の傷を見て元リーダーの事を睨んでいますが、私は気にしない様に微笑みながらゆっくりと受付さんの下まで辿り着きました。
「…こんばんは」
「ちょ!リリーちゃん何があったの!?」
「…ちょっとドジって仕舞いまして……」
「ドジ踏んでそんな所に傷作らないでしょ!またあの出来損ないのゴブリンにやられたの?!」
「…あの人は人間で、尚且つ誇り高き勇者ですよ。そんな風に言わないで上げて下さい」
「評判が地に落ちて、何なら喋る魔物の方が役に立つ程度の奴なんてどうでも良いのよ」
そんな風に言葉を吐き捨てながら、受付さんは近くの職員に命令をして外に行かせました。
…その事に小さくお辞儀をするのと同時に…視線を右に動かしてから受付さんに質問をします。
「…あの人達、どうするんですか?」
あの人達とは、リーダーを説き伏せてそのまま椅子に座っている少女達の事です。
…と言うか普通に撃沈してるんですね。
いや、勿論勝てる要素は無かったんで当たり前なんですけれども。
「うーん……本当ならちゃんとしたプリーストを送りたいんだけどね…」
「何か問題があるんですか?」
「…彼女達が強すぎて、釣り合うプリーストが居ないのよ」
その言葉を聞いて、私は思わず驚いてしまいました。
此処はプリーストの総本山、別名プリーストファクトリーと呼ばれるくらいにはプリーストの質と量が高い街です。
それなのにも関わらず、あの少女達に釣り合うプリーストが居ないって事は…
「…聖女の手配ですか?」
「それも考えて、何ならしようと思ったんだけど…どうやら人を探しているらしいのよね」
「……人、ですか」
「そう。毎日朝と夜にお祈りをして、暇さえあれば一日中お祈りをする12歳の少女を探しているらしいけど…」
その言葉を聞いて、私は思わず首を捻りました。
…そんな人聞いた事も見た事もありません、12歳って事は私と同級生なんでしょうけれども…
「……私の方では分かりませんね。後でシスター・ミィに聞いてみましょうか?」
「…シスター・ミィと顔馴染みなの?」
「はい。同学年でお話をする機会がありまして…その時に友達になったんですよ」
そう言いながら微笑めば、受付さんは小さくため息を吐いてから…惜しむらくは才能かと呟いていました。
「…私は別に、才能が無くても……」
私が返事を返そうとした瞬間、私の後ろから高純度の光の様な物が見えました。
…それを横目で見た私は急いで振り向こうとしますが…その前に一人の少女によって私の身体の動きは止まってしまいました。
「……最後のメンバー居た」
「…その傷、さっきの男から喰らった傷ですか?……やっぱり殺すべきでしたか」
「急いで教会に…いや、私が治せば何とか……」
先程の少女達が、私を取り囲んで紙を提出していました。
…其処には何故か、私の字で書かれた紙と私の指のマーク。
確か指紋と呼ばれる紋章だったかな?なんて、私は現実逃避をしながらも考えを纏めていました。
「……その、一体何なんです?」
「ふふ。やっと会えましたね。本当は上司に後三年待てとか言われてましたけど…」
「…我慢なんて、出来る筈がない」
「私達が来たからには、もう安心安全ですわっ!」
「何が目的なんでしょうか?というか、貴女方は一体誰なんでしょうか?」
「神」
会話が通じませんでした。
…いえ、私達は神ですという回答であれば会話は通じているんでしょうけれども…流石にそれは無いでしょう。
最近はあんまり神様と会話できていませんでしたし、他のシスター達の中には私よりも信心深い人はもっと居た気がします。
「えっと……うーんと…」
取り敢えず神様を騙っていると思われる人達を教会に連れていくのは駄目でしょう。
…それなら自分の家に連れていくしかないとため息を吐き……
「あ、宿ってとってた…」
「未来予知で貴女が家に連れて行ってくれると出ているわ」
「…そ、そうですか…」
確認のための質問は、知ってたという様な答えで封殺されました。
そんな風に言われてしまっては、私が泊めなかったら大変な事になる事間違いなしじゃないですか。
…連れていかないと宿が無い事は間違いないでしょう。
「……分かりました。私の家に連れていきますね」
「えっ…ギルドに貸し部屋が…」
「催眠」
三人の内の一人が何かを小さく呟いた後に、受付さんの目が虚ろになっていき……そして自分の持っていた名簿を見て……小さく首を傾げていました。
「貸し部屋がどうしたの?」
「…すみません。今日はもう空きが無いので…」
「ああ。大丈夫ですよ…ね?」
そう言いながら少女達が微笑んだのを見て、私は小さく頷く事しか出来ませんでした。
…一瞬見た紙には、三人が個室を取れる程度には空いている事が分かります。
けれど、受付さんは何故かそれを見て首を傾げ……そして空きが無いと言っていたのです。
「……知らぬが…って奴ですかね」
小さくため息を吐きながら、今日が私の命日なんでしょうかと微笑みました。
せめて死ぬなら、私の死体が神様達に届く様にと…
「……おお、神よ」
空を見て、唯一点で光り続ける月を見ながら…私は歩きながらでも出来るお祈りを始めました。