1.全ての始まり(1)
何となく始めました。
作者のオナヌーみたいなものなので、適当です。
一応、脳内では完結しているので、モチベが続く限り書いて行こうと思います。
--雨がしとしと振りそそぐ中、馬の蹄鉄が擦れる音と馬車のきしむ音が耳に残る。
地面は獣道というか人が多く歩き渡って自然に出来たような砂利道で、所々に水が浮かんでいて入る度にちゃぷんという。
薄暗く小汚い緑色のフードを被った男は、馬から伸びる手綱を掴みぼーっとしていた。
とは言ったものの何も考えていない訳ではなく、今後の進路を含め馬車に積んだ荷物の売り先を考えているのである。
男が操縦する馬車の荷台には次の町で売るための商売品が積められており、中身は主に戦場で使われた装備品や少しの鉱石類と、残りはガラクタと呼べるようなものである。
彼は、戦場の跡地で倒れた兵士や残された兵器から、まだ使えそうな物を拾って売り物にしているのだ。
ガラクタに関しては、直せば使える物もあったり、部品取りで活用が出来るものもあるので、お金や資源の乏しい村々に格安にして提供している。
なので、彼が行き来する村の人たちは彼が訪れると歓迎し、食料を分けてくれたり寝床も用意してくれるので、しがない商人には大変ありがたい事だった。
日が暮れ始めてからさほど経たないうち、周りにあった木々はなくなっており、前方には5mほどの高さで作られた石のバリケードが見えていた。
外敵から身を守るのに充分な外壁の上には、鎧を着けた兵士が何人か散らばって見張っている。
外壁の中央には街の中と外を繋ぐための鉄の門があり、2人ほどの兵士が門の脇にある門番室で退屈そうに寛いでいた。
近づくと、最初は訝しげな表情を見せていたが、男が誰であるか察すると「おお」と軽く手をあげて挨拶する。
男は、そこの門番に向かって話をする。顔見知りの仲のようで、簡単な雑談をしてあっさり門を抜けて行く。
「予定より少し遅いくらいかな」そう小さく呟き、街頭の照らす街並みをガラガラと石畳の上で鳴らしながら数分ばかり進むと、年季のある小綺麗な宿屋に着いた。
馬車を宿の脇の空いているスペースに停め、馬を厩舎に置いてさっさと宿に入ると、男の見知った顔の店主が歓迎した。
「......おや、あんたかい。今日はいったいどこで物をくすねてきたんだい?」
そう言って受付カウンターの椅子に座っていた宿屋の店主は、読んでいた本を閉じて男に対し姿勢を向ける。
30歳くらいの見た目のおばさんは、茶髪の後ろ髪を真っ直ぐにまとめており、それでいて凛として白く綺麗な顔立ちだ。
ただ、身体は男顔負けの筋肉量で、線は細いが肩幅がある。
「やあ、アンナさん。んーとね、ほら、今回はチェンバレン領の北方の町で暴動が起きたって言うからさ、行ってみたんだけども、あれは凄まじかった。まず近くのグリーンステッドに向かったんだけど既に焼け野原でね。住民は幾らか居たけど、村長は吊るし首にされていたよ」
「くすねている事は否定しないのね。......で、そう、それは惨いわね。チェンバレンの領主が居なくなってからは酷いことばかりだし、この前は南側でも反乱が起きたでしょう?もうチェンバリンもお終いかね」
「そんな気がするね。国王は相変わらず無関心だし、恐らくじきに領土争いに熱心な領主様の食い物にされるだろうね」
「いやねぇ、生まれ育った町が火の海に包まれるなんて」
男は同情するように苦い顔をする。
「悪いことは言わないから、早くここから出て移住した方がいい」
しかし、アンナは首を横に振る。
「んー......生憎だけど、私はここで生まれて骨を埋めるつもりよ。お気遣いありがとうね。嬉しいけど、ここを離れるのは考えられないわ」
「そっか、残念です」
男はとても残念そうな顔をする。
「でもさ、皮肉だけど、あんたはこの状況の方が動きやすいんじゃない?」
「そうだねぇ。俺にとってはうまい話なんだけどね、でも平和な方がいいよ」
「そうかい。まあ普通そうよね」
アンナが頷くように首を縦にふった時、受付の隣にある階段から木の軋む音が聞こえてきた。
男が目線を移すと、そこにはボディビルダー並の体躯をした黒髪短髪野郎が降りて来ていた。
服もタンクトップなので、筋肉が隆々として傷だらけであったのは明らかだった。
「あら、レナードさんお目覚めかい?」
日の落ちた時間帯にお目覚め、という事は屈強な男は昼寝をしていたのか。
証拠として髪は寝癖がついていたから、本当なのだろう。
「おう、気づいたら真っ暗だったぜ。ガハハハ!」
いかにもな声で笑うレナードは、横目でちらりと
もう1人の男を認識し、笑うのを止める。
「ああ、そいつはただの盗っ人さね。それを高値で騙して売りさばく汚い男だよ」
それはあんまりだろうと、すかさず訂正に入る。
「おいおい、騙してないし格安なのがうちの取り柄だぜ。頼むから変なこと言わないでくれ」
「盗みは否定しないのか。面白い奴だ、ガハハハ!」
特徴的な笑い声で何故か関心したかのように男へ視線を向けるレナード。
「まあ、他人が使ってた物を再利用してるだけっすからね。時代はエコっすよ」
「あ?エコ?なんだそりゃ」
レナードには聞き慣れない単語だったらしい。
顔が間抜け面である。
「地球に優しいって意味っすよ、旦那」
「はっ!行商人ってのは、知らん用語やら知識が無駄に多くて敵わん!」
「はは、それがうちらの強みですからね」
レナードの言葉に同意するように頷くアンナ。
「間違いないわね。あたしなんか、学がないからいつも騙されて買わされているものね」
アンナの冗談まじりの攻撃が続く。
もうこうなってはと、男は開き直ったようで合わせることにした。
「アンナさん、ついに分かりましたか。なら次回からはバレないように高価な物を安く買い取りますよ」
「あら、珍しく調子いい事言うじゃないのさ」
「きっと、お二人の陽気さにあてられたんでしょう」
ハハハと3人の笑い声が一階に響く。
その後も雑談は続き、どういう訳かレナードと男は意気投合し、酒場に行こうと言う事になったらしい。
外出の準備を整えた2人はアンナに別れを告げ、目的地へ向かう。
聞くところ、レナードはここ最近から街に留まったらしく、街にさほど詳しくなかったので滞在歴の長い緑のローブを着た男がいきつけの場所に案内する形となった。
酒場へ入るなり、顔見知りの店主に挨拶して適当な空いた席に座る。
「おう、そういやあんちゃん、名前聞いてなかったな」
椅子に腰を掛けると早々、レナードはそう切り出した。
レナードと男は道中にも会話をしているうち、敬語もなしでラフに話す流れにまとまったらしい。
その方が気楽で、2人の性格に合っているのだ。
「俺はジュンと呼ばれている。本名はジュンペイって言うんだが、聞き慣れないだろうからジュンでいい」
「確かに聞いた事ない名前だな。その容姿からして、東洋人か?」
最初会ったときもジュンは目線の先が容姿であったことは薄々感じ取っていたらしい。
レナードも気を遣ってすぐに目線を逸らしたので大して気にした様子でもなかったのだが。
「恐らくはな。生まれたときの記憶は一切ないから詳しくは分からん。両親も知らないし、本物の東洋人に会ったこともないしな」
それを聞き、また気を遣うように目線を逸らすレナード。
「そうか...。ああ、俺の方もだな。名はレナード・カークってんだ。レナードでいい」
「わかった。レナードは何しにここへ来てたんだ?ここの状況は知っているだろうから、もしかして志願兵か?」
レナードの見た目で判断した容易な予想だった。まさか観光目的ではないだろう。
身体の傷からしても、多くの戦場を戦い抜いたように思える。
ちなみに志願兵とは、チェンバレン領内で暴動が起きてる現状を何とかしようと、チェンバレン公爵の兵団が義勇兵を募っているものである。
つまり、現在は兵団だけでは対処出来ない戦況にあり、それだけ追い込まれているのだ。
そんな中でも志願するということは、それだけの理由があるということで、彼も重く頷く。
「ああ、そんなところだな」
「なら武器類が必要なら俺に言ってくれよな。俺は武器を主に扱っているし、良い物は少ないかもしれないが、格安だし加工や修理の素材にはうってつけだ。小物の方はものが良いから、きっと助けになる」
「そうだな、たとえ騙されても安いなら後悔もないしな」
宿でのやり取りのせいで、未だこの言われようだ。
しょうがないので、付き合うしかない。
「そう、そこがうちの良いところさ。騙されたと思って買ってみてくれ」
レナードは再び関心する。
満足するように笑顔だ。
「お前、やっぱ面白れぇな。気に入った、今回はお前のとこから買ってやるよ」
「ありがとう。マジな話、俺は期待を裏切らせない男だぜ」
「ガハハハ!ま、なんかあったら、魔獣のエサにしてやるまでだな!」
「それは手厳しいですねぇ」
軽口を言い終えたところで、店の女の子がビールとつまみの枝豆らしき冷えた豆を持ってきていた。
それをテーブルにおくと、「ごゆっくり」とだけ言い残して女の子は去っていった。
レナードがすぐにビールの入った樽コップを持って乾杯の言葉を述べる。
ジュンもすかさず、遅れないように反応した。
「よし、今日の出会いを祝して、乾杯!」
「乾杯!」
樽同士が音を立ててお互い最初の一口を飲もうとした瞬間だった。
「おい!魔物が、アンデットが大群で押し寄せてきた!逃げろ、みんな!」
バン!と勢いよく扉が開けられ、知らない男が血相を変えて叫ぶ。
周りの人間は何が起こったか理解もできず、「あ?」「は?」「え?」「なに?」などと、腑抜けた反応を示すばかり。
すると、血相を変えてやってきた男の後ろに何かが近寄り、気づいたときには彼は身体を掴まれて首を噛みちぎられていた。
「う、わ、わあああああああああああ!!!」
血しぶきと悲鳴が酒場へと降りかかる。
それを見ていた人々の顔はどんどん青くなり、一歩も動けなくなっていた。
「おい、これは...」
「ああ...」
とてつもなくヤバい状況になったと理解しながらも、ジュンは飲まないでいるのも勿体ないと思い酒を手に取るのであった。