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鉄砲玉ぴちゅん  作者: 鴨川京介
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09.そっか、無職なんだった

 翌朝、いつものように目覚ましで目が覚めると朝の6時だった。

 布団を跳ね除け顔を洗ったところで、昨日で退社したことを思い出した。


「そっか。俺って今無職なんだな。」


「いえ、マスター。正確には今月末まで会社に席はございます。したがってまだ無職ではございません。」


 愛ちゃんが腕時計からそう答えてくれた。

 寝てる時もこの腕時計はめてたっけ?

 あまりにもはめてる感覚がないというか…。

 それと、腕時計からも愛ちゃんが話せるんだね。


「はい、マスター。音声会話も思念会話もこの腕時計型端末を介して行っております。ちなみに元からの時刻表示、タイマー、ストップウォッチ機能はもちろんですが、様々な帝国の先端技術で改造されております。これらの機能についてはその都度お知らせいたします。マスターはお気になさらず、今まで通りご使用くださればいいと思います。」


 俺は昨夜かなり飲んだにもかかわらず、二日酔いが残ることもなくすっきりした心地のまま、リビングのソファーに腰を掛けた。

 タブレットを取り出し、画面に表示されている様々な情報を見ていった。

 腕時計の項目もあったので、読んでみるとかなりいろんなことができるんだね。

 音声認識をしてからの判断が愛ちゃん任せになってるから、あれをやりたい、これをやりたいと口に出すだけで大概のことができるようだ。

 もちろんお金がかかるようならストックしてある換金した日本円で支払われるようになってる。え?ユーロやドルにも換金してるの?


「マスター、ご許可いただければ資産を増やすことも可能ですが、いかがいたしましょう?」


「え?今以上に金を増やすの?そんな大金使えないよ。もう金の換金止めておいてね。市場が混乱しそうだから。」


「現在まだ1t程度ですので、この程度でしたら、市場の混乱はないと思われます。しかし、今後地球上に拠点を確保するためにはどうしても資金が必要になると思われ、資産運用の許可をいただきたいのですが、いかがでしょうか。」


「そんなにお金がいるの?何に使うの?」


「宇宙船『地球号』を地球に着陸するためのドックが必要になります。メンテナンスも含めて宇宙空間で行うことは可能ですが、やはり宇宙船ドックを地上に建設して、そこでメンテナンスする方がより完璧に行えますので。」


「なるほど。で、地球号の大きさは、と……。え?」


「はい、マスター。今ご覧になられている画面にも表示されておりますが、地球号の大きさは縦2㎞横幅700m、高さ700mのいわゆる葉巻型の宇宙船となっております。」


「いやいやいや。そんな大きいのどこに着陸させるの?もうそれだけで地球上パニックが起こるよ!」


「心配には及びません、マスター。地球号は帝国の最新技術によるステルスシステムが搭載されておりますので、地球の技術では把握することは不可能と思われます。ドックの候補地としては、リストで画面に表示いたします。」


 そう言うと、画面上にずらっと候補地が並んでいった。

 どんどんスクロールしていって止まらない。


「え~っと、こんなに候補見せられても困るな。とりあえず日本国内で首都圏は避けて表示を変えてみて。」


 するとまた、スクロールしながら多くの候補が上がっていった。


「マスター。もう少し候補の条件を絞っていただけませんか?おおざっぱではありますが、敷地面積として3㎞四方ほどあれば十分にドック及び付帯施設の建設は可能です。」


「え~っと、愛ちゃんや。どっかの星を攻めに行くわけでもないのに補給や付帯設備って必要なの?」


「はい、マスター。今後マスターの配偶者、後継者並びに協力者などが集まれる施設が必要だと愚考しております。」


 と、愛ちゃんはさも当たり前のように返してきた。

 協力者ね…。

 俺って何がやりたいんだろ…。


「マスターにご指示いただければ、いつでも地球をその傘下に入れることが可能です。また、随時必要に応じて帝国から追加艦隊及び戦闘アンドロイドの増員も…」


「いや、ちょっちょっと待ってくれ。俺は地球征服なんか考えてないしそんな増員はいらない。俺を魔王かなんかと勘違いしてるんじゃないのか?」


「いえ、マスター。マスターは間違いなく魔王でございます。」


 あ…そうだった。

 俺って魔王の細胞を取り込んでるんだった。


「いやいや、だからといってほかの人を従わせたいとか、征服したいとかってないからね。勝手にやるのもだめだからね。」


「え……それは、日本でいう「押すな押すな」ってやつ…」


「じゃないから。絶対やらないでね。」


「はい…………わかりました、マスター。」


 愛ちゃんはえらくがっかりした声で同意してくれた。

 まったく。一体俺を何だと


「ですから魔王様です。」


「俺を魔王と呼ぶの禁止ね。」


「………はい、了解いたしました。」


 …なんだろう。ものすごく疲れたんだが。


『それではマスター。退職されてプー太郎になったことですが、今後どのようなことをされるご予定で?』


 …こいつ、何気に毒吐きやがる。

 魔王呼びをそれほどしたかったのか?

 ……いや、ひょっとして帝国の方が魔王と人間のハイブリッドを観察したがってるのか…。

 これって下手に俺が魔王化すると、帝国から討伐部隊が出てきたりして……。

 おっと。すごくありうる可能性だぞ、これって。

 だから、宇宙戦闘艦なんて物騒なものを地球に置いていってるのか…。

 俺の監視と、いざという時の拠点にするために。


「マスター。その思考は半分正解で半分不正解です。前代未聞の人間と魔王のハイブリッドの監視は当然のこととして必要と帝国は考えています。むしろどうなるのかをみるためだけにマスターは蘇生されたといっても過言ではありません。いわば良いサンプルなのです。魔王になる可能性があるものに宇宙戦闘艦という武器を与え、多額の金銭を渡すことで、魔王化するのかどうか。現時点で魔王化する方の賭けが多くなっております。」


「賭けって、人の人生を面白おかしく賭けてんじゃねぇ。まったく…。でも、そうだよな。たかが鉄砲玉をわざわざ再生したってこともよく考えたらおかしな話だもんな。」


「よくお気づきになりましたね、マスター。その通りです。帝国は技術、文化ともに進みすぎて新しい娯楽に飢えているのです。しかし、帝国に地球を統括する意思はございません。よしんば魔王化して地球を征服しても、帝国の勢力圏内に影響が出るのははるか先の話になるでしょう。むしろ、魔王を作った製造者責任としての監視であろうと思われます。あまりにおかしなことが起きそうならすぐにピチュンとされることでしょう。」


「ぴ…ピチュン?」


「はい、ピチュンです、マスター。」


 つまり…娯楽、気まぐれで俺って生かされてるんだろうな…。

 やたら破格の補償だったもんな…。


「いえ、マスター。帝国の資本力、その影響力からすると宇宙船1艦に、金100tぐらいは、全然影響御座いません。むしろ1艦だけとはいえ、撤収費用が掛からなかった分、プラスになっているのではないでしょうか。」


 うっぷ。そこまでなのか…。

 どうりで、俺を操作してもさっさとサインさせて、撤収していったはずだ。

 下手にごねられたり、受け取りや補償を拒否されたりすれば、帝国から怒られるってところまでありそうだな、あの外交官。


「はい、マスター。ちなみにアリーシャは魔王化に今回の星間戦争による儲けをフルベットしております。」


 …あの野郎…。いや、女か。

 …まあ、条件がどうあれ俺にあの時ノーという返事はないな…。

 何が何やらわからない状態で、俺の不利がひとつもないんだからな。

 せいぜい魔王化せずに悔しがらせてやろう。

 俺はそんな腹いせぐらいしかできそうにないことに落ち込んだ。


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