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鉄砲玉ぴちゅん  作者: 鴨川京介
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05.一分足らずの鉄砲玉

「…で、いまさら何をしにここへ?」


「ですから、状況の説明と補償の話し合いに参りました。本日地球の衛星軌道上に待機して観察しておりましたが、どうやら、()()()()()()()()を感じられているようなので、今お話ししたようなご説明が必要と判断いたしました。」


 いや。うん。


 確かにきょう一日、おかしかったけど。それをずっと見てたんだね。あぁ、なんだろう。このもやもやとした感じ。思考がつながらず、ぶつ切りになっていく。


 あっ。そういえば今朝変な夢見た気がする。あれって現実だったの?

 俺は状況を思い浮かべると身体中に怖気が走り、キッチンに飛び込んで流しに吐いた。


「詳細を思い出していただけたようですね。」


 女はにこやかにそういった。


「ふざけんじゃねぇ。人をえらい目に合わせやがって。今生きてるのが不思議だよ。」


「そこはわが帝国の誇るクローン技術のたまもので…。」


「誰も褒めてねーよ。ったく。人の身体を()()()()()()()で使いやがって。」


「フフフ。うまいことおっしゃる。」


「うまくねぇよ。笑えねぇよ。どういう感覚してやがる。」


「それはやはり星間文化の相違…。」


「いいよ!わかったよ。もうそういうことで。」


 俺は蛇口をひねってコップに水をため、口をゆすいで吐き出し、少し水を飲んだ。

 錯乱しているが、その状態を維持したまま少し落ち着いた。

 うん。言ってることがおかしいのは自覚している。


「それでは、続きまして今回の事故における補償のお話をしたいと思います。」


「補償?」


「はい、補償です。不慮の事故とはいえ、第三者を巻き添えにして死ぼ…、仮死状態にまでしてしまったことは、エスペランダー帝国としても、看過できることではございません。ましてや、まだ星間航行技術も碌に確立されていない原始的な惑星の住民を巻き込んだとあっては帝国の沽券にかかわります。」


「お?おぅ。」


 今こいつ死亡って言おうとしてたよな。

 それに地球が遅れた惑星だってディスってる?

 それを指摘する間もなく畳みかけるように続けて話し出した。


「つきましては以下のものを補償いたします。」


 女はおもむろに液晶タブレットのようなものを取り出し、読み上げていった。


「1.魔王の細胞をその身体に取り込んだことにおける今後のケア、状況観察のために偵察宇宙戦艦1隻を無期限で貸し出す。貸出期間におけるメンテナンス及び備品の補充についても永久的に保障するものとする。」

「2.今回の事故の発端である艦載コンピューターの誤作動について、再発防止の為の原因追及を行うとともに、巻き込まれた柏木氏への補償として、金100tの補償を行うものとする。」

「3.現在、柏木氏と魔王との融合が進んでいる最中であり、今後地球時間で1週間ほどは不安定な状況が続くことと思われるが、安定した後、その能力を使いこなせるように、筋力及び格闘、戦闘術、魔力増大による魔法の操作技術の習得のため、メディカルポッドを無期限で貸与する。」

「4.本件はエスペランダー帝国議会にて可決されたものであり、公式文書として保管する。また、今後柏木氏に関する事柄はエスペランダー帝国がその身元保証を行い、帝国法によって守られ、権利を行使することを認める。場合によってはエスペランダー帝国と地球との国交樹立・通商条約締結などの権限を有する。

「5.これらの補償内容は柏木氏が死亡した場合、その権利を直系子孫にのみ相続を許可する。」


「以上が補償内容となります。何かご不明な点やご不満な点はございますでしょうか?」


 俺はこいつが何を言っているのかわからなくなってきた。

 いや、わからないのは元々だった。

 まともな返事さえ返した記憶がない。

 俺は暫しボーっとしてしまった。

 何を言っているのか言葉は理解できても納得しているわけじゃない。

 何言ってんだこいつ?


「御理解いただきましたら、こちらの書類にサインをいただけますか?」


 女はソファーから立ち上がり、キッチンにいる俺にその補償内容が書かれた紙を手渡してきた。

 改めて読んでみた。

 偵察宇宙戦艦…金100t…メディカルポッド…国交樹立の権限…直系相続…

 意味が分からない。

 わからないままに、促されるままに書類にサインしてしまった。

 サインした紙を女はすぐに自分のもとに引き寄せ、サインを確認したうえで満足げにほほ笑んだ。


「では、ご納得いただけましたのでこれで失礼いたします。今後の各機器の使い方や手続きについては、こちらのタブレットに載っておりますのでご一読ください。ナビゲーション機能も搭載しておりますので、何不自由なくお使いいただけると確信しております。それではこれで失礼いたします。」


 女は深々と頭を下げ、やがてうっすらと消えていった。


「え?え~~~~~~~!!!!」


 俺は大声で叫んでしまった。


 呆然としたまま俺はしばらく立ち尽くし、おもむろに冷蔵庫を開けてビールを取り出し、リングプルを引いた。

 冷たいビールを一口飲んだ後、少し冷静になって、さっきすでに別のビールの封を開けていたことに気づいた。


「何やってんだろ、俺。」


 二本のビールを見つめてから、ソファーの前のテーブルに置かれたタブレットを見やった。


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