夏と花
〈舜〜〜着いた〜〜?〉
バスから降りて携帯を開くと、花からLINEが来ていた。
〈今着いたよ〉
LINEしてから電話をかける。
すぐに花が出た。
『やっほー、舜! どうですか? オーストラリアは!』
そう、おれは今、オーストラリアにいる。
あの後、おれははなから「お母さんを出来るだけ泣かせたくないからあたしが死ぬってわかってるのは秘密にして」とお願いされた。
つまり二重スパイ(?)をすることになったのである。
でも、花が己の死期を悟っていようがいまいが、ひまわり畑に行くことは厳しい。
花のことだから駄々をこねて無理矢理行こうとするかと思ったが、そんなことはなかった。
「あたしが行けないのはわかってる。だから行かせてなんて言わないよ」
オーストラリアは日本と季節が逆なので今、絶賛真夏なのである。
よくよく考えたら夏に日本で行けばいいのに今オーストラリアに行くというのは不自然だ。
ということで、夏は投薬であまり電子機器が使えなくなるという嘘をついたという嘘を真美さんについた(非常にややこしい)。
真美さんは動揺と先入観であまり気づかなかったようだが。
我が子の最後の願いだから、ということでお金は花のご両親が出してくれることになった。
申し訳ないが、おれにはそこまでのお金は残っていなかったのでありがたかった。
「まあ暑いな。日本で言う夏だから仕方ないけど」
ビデオ通話しながら歩を進める。
独り言をしているようでやや恥ずかしいが花のことを思えば仕方なかった。
ひまわり畑が視界に入る。
花に声をかけようとした矢先に花が歓声をあげた。
『わー! 見えるじゃん!』
やはりひまわり畑には女性が多い。
当たり前だが外国の方ばかりの中に入って行くのは恥ずかしかった。
でも、日本であれば知り合いがいる可能性もあるので、それを思うとまだマシかもしれなかった。
「…でけぇな」
ひまわりを前にして、思わず声が漏れた。
『わぁ…』
花もため息のようにそう言ったまま、黙りこくっている。
流石におれの身長を超えるとは言わないが、花としては信じられないぐらいのサイズだ。
『中に入って入って!』
花からの指令で中へと進む。
どんどん真ん中へ進むと見渡す限りひまわり一面の場所へ出た。
カメラを360度、一回転させる。
『すごい…!』
花の目が食い入るように画像を見つめている様子が伝わってくる。
つい笑ってしまった。
いつもなら突っかかってくるだろうが、しかし、花は何も言わなかった。
『しゃがんで!』
「しゃがむ…?」
『いいから!』
謎に強く言われておれは渋々しゃがんだ。
『それで上向いて!』
言われるがままに上を向くと、
「わぁ…お…」
ひまわりがおれの視界一面を埋め尽くしていた。
花弁が太陽の光でうっすら透けている。
みなぎる生命力と、同時に儚さを感じさせる風景だった。
おれと花は、同じ視界を共有して、感嘆のため息をついた。
しばらく下から見上げるひまわり畑を堪能し、その後は花に言われるまま写真や動画を撮りまくった。
電話している携帯とは別に、古い機種の携帯を持ってきていたから、好きなように撮れる。
『もっと右! うーわぁー、綺麗だ〜!』
花がはしゃいでいる様子が伝わってくる。
正直に言えばここまでくる過程はなかなか神経を削られるものだったが、この笑顔を見れたならいいや、と思えた。
夕陽が沈む頃まで粘っていろんな景色を見せた。
やっぱり日本とはどこか違う夕陽が、ひまわり畑に最後の光を投げて、消えていくのは息を飲むほど美しかった。
『…ねぇ』
夕陽から視線を外さずにおれは応えた。
「ん?」
『大好き』
「…おれもだよ」