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幸せと花  作者: 豆乳プリン
3/12

喧嘩と花

花はそれから、色々な薬を試されることになった。

 本人も別にいい、と言ったしご両親も承諾していた。

 おれも、万一の望みがあるならもちろん、異論などなかった。


「おはよう」


 今日の花はコスモスだ。

 毎日花を持ってきていると病室はどんどん花で埋まっていく。

 白い無機質な空間が、それだけで明るくなる、ということを知った。

 だから女の子は花が好きなのかもしれない。


「わぁ、コスモスだー! ありがとう!」


 どんな花だろうと花は目を輝かせてお礼を言う。

 今日もそうだったが、両手で受け取った後、だけど、と少し顔を曇らせた。


「こんなに毎日買ってたらお金…大変なんじゃないの?」


 おれは苦笑して椅子に座った。

 そんなこと。


「大丈夫だって。おれ他にお金使うタイミングねぇし、旬の花ならそんな高くねぇし」


 正直、一回一回は大した金額でなくとも重なればかなりの額になる。

 何しろ毎日買っているのだから。

 けど、他にお金を使うタイミングがないというのも本当だ。

 もともとデートかプレゼントぐらいにしか使わなかったが、デートはこの状況では行けない。

 プレゼントは年に記念日とクリスマスと誕生日ぐらいだからそう大した負担ではない。

 

 …何より。

 今のおれに出来ることはこれぐらいしかないから。


 それでも花は不安そうだった。


「でも…毎日じゃなくていいんだよ?

そりゃ嬉しいけど枯れちゃったら、とかでいいのに…」


 そんな花をおれは無理矢理安心させるように軽く笑った。


「おれが持ってきたいんだよ。花があると部屋、なんか明るいじゃん?」


 それはなんか知らんが、花の心の琴線に触れたんだろう、花はぱっと顔を明るくした。


「そっか! 良かった! ね、明るくなるよね!」


 その顔を見て、こいつに「花」という名前を付けたご両親は慧眼だったな、とふと思った。







 そのままお昼時になるまでおれらはだらだら喋り続けた。

 学校がある日はどうしても数時間しか一緒にいられない。

 休日は同じ空間に入れるだけで幸せだった。


「失礼しまーす」


 看護師さんがワゴンを押しながら入ってきた。

 お昼ご飯だ。


「おれ、どうしよっかな…」


 ちょっと悩んで売店でパンを買うことにする。

 どうせ親は仕事で昼はコンビニだから変わらない。

 花と一緒に食べれる分だけ良いというものだ。


「あら、舜くん。お昼ご飯?」


 売店に行くと声をかけられた。

 おれが振り向くといつも彼女の世話をしてくれる看護師さん達が数人、おれと同じようにパンを選んでいた。


「あ、はい」


「いい彼氏してるわねぇ」


 軽く突っつかれておれは苦笑した。

 おれ達のことはこの病院で軽く噂になっているようで、たまにこうしてからかわれる。


「まあ明日花ちゃん脊髄検査だし今日はいっぱい横にいてあげないとねっ」


 笑いながら言われた言葉におれは固まった。


「え? 脊髄検査?」


 花が入院することになって、一通り受けるかもしれない検査のことは調べたからわかる。

 背骨に針を刺して脊髄を取り出す、かなり痛い検査のはずだ。

 それを、明日、花が受ける?


「え、聞いてない? 花ちゃんの脊髄検査、明日に決まったのよ」


 ちょっと戸惑った風情の看護師さんがそのまま詳しく教えてくれる。


「花ちゃんの場合全身麻酔になるから明日は舜くんと会えないわね、って言ってたんだけど…。聞いてなかった?」


 それを聞くやいなや、おれはだっと駆け出した。


「ちょっ、舜くん!?」


 慌てる看護師さんを置いてきぼりに、花の病院へと戻る。


「花!」


 おれが来るまで待っていたのだろう、手がついてない昼食の前で花が振り向いた。


「どうしたのしゅ…」


「明日骨髄検査って聞いたけど」


 押し殺した声で尋ねる。

 花は気まずそうに目を逸らした。


「なんでおれに言ってくれなかったの」


 花を睨む。

 それでも花は唇をかみしめたまま、何も言わなかった。

 俯いたまま、黙っている。


「教えてくれないんだな?」


 念押ししても、何も言わなかった。


 おれはふう、っと一息ついて少し目線をずらす。


「…なら、もいい」


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