ひまわり畑と花
花のお葬式はあいつの性格を反映したかのように眩しすぎない晴天のもとで行われた。
高校生のお葬式としては破格な人数が訪れた。
花らしいな、と思った。
お葬式が終わって、おれはすぐに帰った。
もう、何もしたくなかった。
「…?」
電話が鳴って、おれは携帯へと手を伸ばした。
一昨日のお葬式の後、おれは何も食べず、誰とも喋らず、部屋でひたすら宙を見つめていた。
一度意識を失うように眠りに落ちたが、物語のように花が夢に現れることはなかった。
「…はい」
『舜くん? 真美です。ちょっと今から来られる?』
見苦しくない程度に服装を整えて、おれは外に出た。
薄暗い空気を見つめていた目に、太陽が眩しい。
習慣でバスに乗ろうとした自分を嘲りながら、おれは徒歩で花の家へ向かった。
「ごめんね、また呼び立てて…」
真美さんが謝りつつ、緑茶を淹れてくれる。
「いえ…。ありがとうございます」
有り難く頂くと久しぶりの水分が身体に染み渡った。
「わざわざ来てもらったのはね、渡したいものがあるからなの」
「遺書とかですか?」
それぐらいは予想していた。
おれが尋ねると、真美さんは、しかし、優しく微笑んで首を横に振った。
「違うのよ」
これ、と渡されたのは小ぶりのスケッチブックだった。
「スケッチブック…?」
伺うように真美さんを見ると、微笑んだまま、
「いいから開けてみて?」
と、言った。
ぱら、と一枚目をめくると、花の写真が写っていた。
おれが初めて買った花束を抱えて笑っている写真だった。
次のページをめくると、コスモスと一緒に笑っている写真が出てきた。
その次は、竜胆。
その次もその次も、おれが持っていった花を抱えて笑っている写真だった。
最後のページは、おれとひまわり畑が写ったiPadを顔の横に掲げて、満面の笑みを浮かべている写真だった。
そこに、一言だけ、文字があった。
『幸せ』
一瞬で視界がぼやけた。
自分が泣いているとわかるまで、しばらくかかった。
おれは写真が濡れないようにと慌ててアルバムを机の上に置いた。
声を押し殺して、おれは泣き続けた。
花は、幸せでいてくれただろうか。
おれは、その手伝いを出来ただろうか。
おれの方が、きっともらっているものは多かった。
でも、それでも、何かしてあげられたのだろうか。
真美さんが鼻をすする音が聞こえる。
しばらく、おれたちはそうやって泣いていた。
「また、来て頂戴」
玄関のところで、真美さんにそう言われた。
「きっと花も喜ぶ」
おれは微かに笑ってうなずいた。
「はい、お邪魔させていただきます」
ありがとうございました、と頭を下げて、おれは花の家を出た。
手に持ったアルバムから、温もりが伝わってきた気がした。