ひまわりと花
「ねぇ見てみて!」
花は舜の袖を引っ張った。
携帯に写っているのは一面のひまわり畑だ。
「こんなところ行ってみたいなぁ…」
目をキラキラさせて画像を食い入るように見る花。
それをどこか辛そうに見ながら舜は鼻を鳴らした。
「退院したらそこでもどこでも好きなところに連れて行ってやるよ」
わぁ、ほんと! とはしゃぐ花の細い腕には点滴が繋がっている。
体育大会で突然倒れてから約1ヶ月。花は不規則に突然意識を失うようになっていた。まだ原因はわからず、退院の目処もたっていない。
「にしてもおまえひまわりとか好きだっけ?」
尋ねると花は満面の笑みでうなずいた。
「うん!! あたし名前がこんなだし花全般的に好きだけど…ひまわりは1番好き!」
「へぇ」
気のないように相槌を打ちながらも舜は心のメモにしっかり書いておく。
「じゃあおれ、もう帰らねえと」
時刻はもう6時。今から帰らねば7時の夕食に遅れてしまう。
「わかった!」
普通を心がけているのだろうが抑えきれない悲しみが花の表情から溢れ出ている。
それを見るたびに舜の胸はうずく。
(ごめんな…。でもおれも泊まるわけにいかねぇし…)
「明日も来るからな」
頭を、ぽんぽんと撫でて立とうとすると、服の袖がきゅっと引っ張られた。
涙が溜まった目で上目遣いをされる。
それだけで頭がくらくらしそうになる。
「もうちょっとだけ…」
「…っ!」
(何この可愛い生物無理だめ抑えられない!)
思わず口を押さえた舜は、ふう、と深呼吸をする。
「…明日来るって言ってるだろ」
「でも…」
「待っとけって」
と言って開こうとした花の口を唇でふさいだ。
絶句する花を残して病室を出る。
バレないようにしていたが、この心臓の音は花に聞こえなかっただろうか。
******
花が倒れたのは先月。
おれは目の前でそれを見ていた。
えいえいおー!と全員で円陣を組み、みんなが列に並ぼうとした時だった。
女子の方へ行こうとしていた花の身体がぐらっと傾いた…と思った瞬間、おれは手を伸ばしていた。
しかしその手は届かず…花は地面に倒れ込んだ。
すぐ駆け寄って名前を呼んだけど、あいつは何も反応しなかった。
いつもならすぐ、なぁに、と笑ってくれるのに…。
あの時の…花がいなくなるのかもしれない…という恐怖は忘れられない。
そこから先はあまり覚えてない。
取り敢えず周りの大人が何を言おうとも花にしがみついて、手を離さなかった。
あまりの迫力に先生や救急隊員の人達もおれがついていくのを認めたぐらいだ。
花の家族にも挨拶していたのが良かったのだろう、入院した後、花のお母さんがおれにも説明してくれた。
しばらく経って検査結果が揃うまでなんとも言えないが、今のところ可能性があるのはどれも難病で、完治は難しいこと。
根気よく入院、通院することになること。
花のことを見捨てても怒らないから好きにしてくれとも言われた。
おれはもちろん自分が1番したいことを選んだ。
花のそばにいるということを。
花がかかっている可能性がある病気は、まず検査から時間がかかる。
どれだか特定するのにも1ヶ月ぐらいかかるはずだが、そろそろ出るかもしれないな…。
そんなことを思いながら階段がある方へ廊下を曲がる。
もう少し行くとソファや雑誌なんかが置いてあって、入院患者がコミュニケーションを取れるようになっていた。
しかし今はもう夕方の6時。
そこには1人しか人はいなかった。
そして、その1人は花のお母さんだった。
「あ、花ですか? 今…」
「舜くん…」
話しかけようとした瞬間、重く暗い声に遮られた。
嫌な予感がする。
それは眉間にシワを寄せた。
夕陽が差し込むロビーで、薄暗い影を纏いながらゆっくり花のお母さんが立ち上がった。
「ちょっといいかしら。…花のことなんだけど」