同志なら友達も同然です!
睡眠をとってから、どれくらい経ったのかな。私は眠気眼を擦り、小さくあくびをする。それにしても美少女に膝枕されながら、美人なお姉さんに手を握ってもらって寝るのは、すごく心地が良かった。
まだ怪我したところが痛むけど、精神的にはかなり休まったし、そろそろお暇しよう。いつまでも王の間でこんなことをしてたら、流石に邪魔だろうし。それに、アルカの様態が心配だ。
よし起き上がろう。そう思っていたら出入口の方から突然、「ドゴォン」と何かが爆発したような大きな音が聞こえてきた。
その音が聞こえてから、王の間にいる人たちがざわつき始める。セレディアさんもただ事じゃないと思ったのか、握っていた手をすぐさま放す。そして音源の方へ向かって行ったのか、足音が次第に遠くなっていく。
私はというと身体中が痛むので、顔だけ音の発生源の方へ顔を向ける。最初は土埃で何も見えていなかったけど、やがて人影が二つ姿を見せる。
その二人は見知った人たちだった。一人はエメラルドグリーンの髪が印象的な女性、もう一人は軍服のような服装を身に纏ったエルフの女性――つまりシルフと、リゼが戻ってきた。
「カノン、無事かっ!」
「助けに来ましたよー!って、あれ?この部屋って、生きた人間を氷漬けにしているお部屋でしたっけ?」
もともとそんなお部屋だったら、アルクウェル王国は倫理観をもう一度見つめ直さないとだね。いや、そんなことを言っている場合じゃない。二人がここへ来たということは、アルカは無事にお家まで送り届けてくれたということだよね。そこは素直に安心してる。
ただ、この状況を見られているのは私にとって好ましくない。だって、ややこしいことになることが想像に難くなかったから。
「そんなことはないはずだ。これは誰かの魔法によるものだろう。それにしてもカノンはどこに?」
「うーん、あっ!いましたよ……っ!?カノン、何してるんですか!?」
「見ての通り膝枕してもらってるんだよー」
私は上体を起こすのも億劫だったので、片手を上げてユラユラと揺らしてシルフの問いに答える。
リゼは、私が気を失っていないことに安堵しているのか、大きく息を吐く。アルカは気を失っちゃうし、私はここに残るってわがまま言って、すごく心配させちゃったよね。ごめんね。でも、信頼してくれてありがとう。
シルフにいたっては、わなわなと身体を震わせている。もしかして、心配のあまり泣かせちゃったのかな。そうだとしたら申し訳ない。そう思っていたら。
「ひ、ひひひ膝、膝枕、って!?私だってまだ数えるくらいしか、してあげていないのに!?」
どうやら私の勘違いみたいだった。嗚呼、これからややこしいことが始まる。どうやって穏便に済まそうかな。
「シルフさん、だっけ?見ての通り、私とカノンさん。ううん、お姉様とはこういう関係になったの。ね、お姉様」
「お、おおおお姉様!?」
「シ、シラユキ?私、貴女のお姉ちゃんになるって、言った覚えはないんだけど……」
「じゃあ、私のことを救ってくれた勇者様って呼ぶ」
「じゃあってどういうこと!?え、もしかしてその二択しかないの!?名前で普通に呼んでほしいんだけどな~」
「だめ。私にとってお姉様は、何年もの苦しみから解放してくれた勇者なんだよ。だから、他の人たちのように“普通”に呼びたくないの」
「うっ……」
そこまで言われると断りづらいよ。もし街中で勇者様って呼ばれたら勘違いされるよね。でも、『ころんべあ』でお姉様なんて言われた暁には、ガンテツさんに何て言われるか分からないし。
ただ、シラユキは私のことをどうしても特別に呼びたいんだよね。うーん、どうしたものかな。特別、特別かー。
「じゃあ、“しーちゃん”か“かのちゃん”はどうかな。あ、しーちゃんの由来は、私のフルネームが白河花音だから、そこからとったの。この二つならまだ誰にも呼ばれたことないし、どうかな?」
シラユキは私の提案に悩んでいる様子だった。そして、少ししてから答えが出たようで。
「カノちゃんお姉様」
「お願い、お姉様はやめて」
「むぅ。……カノちゃん」
「シラユキ」
「カノちゃん!」
「シラユキ!」
「二人して、いーつまでイチャコラしてるんですか!?いい加減にしてください!」
うわ、やってしまった。穏便に事を済まそうと考えていたのに、私が火に油を注ぐようなことをしてしまった。流石のシルフでも怒っちゃうよね。
「私もそのイチャイチャに混ぜてください!」
そっちだったか。
「いいけど……。シルフさんもカノちゃんのこと好きなの?」
「当たり前です!誰よりも愛している自信があります!」
シルフはふふんと得意気に言って見せている。それよりも。
「誰よりもって、前に相談してくれた時に話してた子はいいの?」
「前にですか?……ああ!あの時は気恥ずかしくて言えなかったのですが、“あの子”はカノンのことですよ」
「ほー」
これまでにシルフが話していた“あの子”が、まさかの“私”のことでしたか。それなら今までのスキンシップも納得がいくね。……ほー。
「そうなんだ。じゃあ私とシルフさんはライバルだね」
「そうなりますね」
そうなるんですか。二人から好意を向けられるのは嬉しいけど、私が原因でもし喧嘩にでも発展したら嫌だな。
私がそう考えていると、シルフはゆっくりとシラユキに近づく。何か一悶着でも起こすのかと思って、私はしんどい身体を起こして立ち上がる。固唾を飲んで見守っていると、シルフは優しく微笑んでシラユキに手を差し伸べる。
「私たちはライバルであり、カノンを愛する同志です。共に手を取り合って、カノンを愛そうではありませんか」
「シルフさん……」
「さん付けは不要ですよ。言ったでしょう、私たちは同志です。同志であるならばお友達も同然です。ですから私のことは、シルフとお呼びください」
「友達……。うん、分かったこれからもよろしく、シルフ」
シラユキはシルフの手に自身の手を乗せる。そして、シルフは満面の笑みでぎゅっと手を握り返し、シラユキを引っ張って立たせる。
「はい!シラユキ!あ、もちろんリゼも同志になりますよね?」
「ああ、そうだな。では、私とも友達になってくれるか、シラユキ」
「うん……!うん!」
リゼはいつの間にかシラユキの近くまで来ていて、爽やかな笑みを浮かべてシルフとは反対の手を握る。
「ならば、私も加わってもいいか。私もカノンのことを愛しているし、何より……歳は離れているが、シラユキと良き友になりたい。いいだろうか」
「うん!……ぐすっ。……こんなに、幸せな日が来るなんて、夢みたい」
シラユキはそう言って、何度目かの涙をこぼす。だけど今流している、涙は悲しみよるものじゃないことは分かる。幸せそうな彼女の顔を見れば誰だって分かるよね。
嬉しくて泣いているんだってことを。
「シラユキ」
「カノちゃん……?」
「これは夢でも何でもないよ。現実だよ。夢だったら一度っきりだけど、これは現実だから明日も明後日も、この先もずっとシラユキとお友達だからね」
まあ私とシラユキの関係は、お友達の一線を越えてるような気がしなくもない。だけどそれを言うのは野暮だよね。
ふふ、シラユキにお友達ができてよかった。一時は生命の危機を感じたけど、頑張った甲斐があったかな。
それにしてもシルフは自身でも嫉妬深いって言ってたから、てっきりシラユキと喧嘩でもするのかと思ったけど杞憂みたいだったね。疑っちゃってごめんねシルフ。
「さてと。クライマックスに移ろうか」
「クライマックスですか?」
「うん。シラユキ、取り敢えずグレゴリたちを解放してあげて」
「分かった」
シラユキは指をパチンと鳴らす。すると、さっきまで王の間の一面を覆っていた氷を一瞬で消した。格好いいな。
「あと先に謝っておくんだけど、もしお尋ね者になっちゃったらごめんね」
「何をする気だ、カノン?」
「今から眠っている王様を起こして、言いたいことを言う、かな。『クリア』」
私はあえて王様だけ起こさなかったので、たった今状態異常の回復魔法を使って王様を起こす。そして。
「んが……っ!?どうなってんだこりゃ!?」
「どうもこうもないよ!これ全部、王様の監督不行き届きが起こした結果だよ!」
「何、だと?」
何だと、じゃないよ。アルカのことといい、頭の悪い諜報員疑惑といい、グレゴリの件といい、言いたいことを全部言わせてもらうんだから!
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