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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第4章 灼熱の勇者
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喜怒哀楽

「あの、何か、ごめんなさい」


 何に対してか分からないけれど、シラユキに怒られたので、私はとりあえず謝ってみた。


 だけど、シラユキの細く端麗な左右の眉頭の距離が未だに近い。

 どうやら、まだ許していないみたいだった。


「私、何かしちゃったかな?」

「したよ!」


 シラユキはそう言って、私の方をしっかりと掴んだと思ったら、次いで私の身体を何度も、大きく、揺らしてくる。


 何故だか分からないけれど、白雪姫はご乱心だ!

 頭がくらくらするよ~。


「シラユキ……。お願い、揺らすの、だめ……。私、怪我人」

「あ、ごめん。つい」


 そう言って、シラユキは私の身体をシェイクすることを止めてくれた。


 止めるのがもう少し遅かったら、きっとシラユキの洋服を、汚していたところだったよ。間に合ってよかった。


「それにしても、すごいね!一瞬で、部屋の中を氷漬けにするなんて!それに、綺麗」

「綺麗とか!そんなことはどうでもいいの!」

「えー。でも、騎士たちの下半身が見えるぐらい、氷が透き通ってて、シラユキみたいに美しいなって思ったんだけどな」

「……そんなこと、ない。お世辞なんかいらない」

「お世辞なんかじゃないよ」

「え?」


 シラユキは顰めていた眉根を解き、変わって顔を赤く染め上げる。

 外気との気温差で、赤くなったのかな?

 まあ、体調は悪くなさそうだし、続けよう。


「シラユキの可愛らしさと美しさは、そうだなー。私が出会った人たちの中で、上位に入るよ」

「ふーん。……一位じゃないんだ」

「へ?」

「何でもない!」


 そう言ってシラユキは頬を膨らませて、プイッとそっぽを向いてしまった。

 何なのこの人!本当に可愛い!


 こんなに可愛い子人が妹だなんて、キョーヤ君が羨ましい。


 それにしても、本来のシラユキは、意外と喜怒哀楽がはっきりしてる人なんだね。

 今のところ“怒”と“哀”しか見てないけど。


「そんなことより!私のことなんか放っておいて、逃げればよかったのに!どうして、こんなにボロボロになるまで戦ってるの!私、カノンさんに何かしてあげた覚えなんかないよ!どうして……」


 シラユキは声を荒げてはいるものの、私の口元に付いていた血を、細く長い指先で優しく拭ってくれた。


 その目は、今にも泣き出しそうで、怒っているというよりも、心配して声を荒げていたんだと思う。

 

 だから、私は拭ってくれたその手を、そっと包み込むように掴み、微笑みかける。


「シラユキのことを放って逃げるなんて、私にはできないよ。ある人と約束したからね」

「約束……?」

「そう、約束。シラユキを笑顔にするってね、約束したの。だから、シラユキを苦しめてる元凶たちに、謝ってもらおうと思ってたんだけど。気が付いたら、私がボロボロになっちゃった」


 私は苦笑してそう答えると、シラユキは堰き止めていた涙が、再び決壊したようで、ポロポロと零れ落ち始める。


「やっぱりカノンさん、ばかだよ。どうして、私なんかのためにそこまで……」

「私なんか、なんて言わないで。シラユキは、救われるべき人なんだよ。それなのに、この場所にいる大人たちは、誰も手を差し伸べてあげてない。だから、私がシラユキを必ず救って見せる。シラユキの笑顔が見たいから!だから、もう少しだけ、頑張るね」


 私は握っていたシラユキの手を放し、下半身が氷漬けにされているグレゴリの元へ向かう。


 グレゴリは氷からは抜け出せるはずがないのに、必死に身体を動かして這い出ようと試みている。


 そんなことをしても、意味がないのに。


 仮に抜け出したとしても、逃がさないけどね。


「さて、どうしたものかな」

「ちっ!餓鬼どもが調子づいてんじゃねえぞ!おい、氷絶の勇者!さっさと魔法を解け!でないと家族が、ぶへっ!?」


 私は、グレゴリの愚かな言葉の羅列を、これ以上シラユキに聞かせたくなかったので、頬をパンチする。


 パンチするって、手が痛い。


「グレゴリ、もういい加減にして。これ以上シラユキを傷つけないで。やりすぎだよ」

「うるせえ!色んなもんに恵まれてる奴に!俺の気持ちなんか分かるかよ!どんなに努力しても強くなれねえ奴が!騎士団長まで上り詰めるには、嘘を積み上げるしか、ぶへっ!?」

「人を傷つけてまで成り上がりたいっていう、貴方の気持ちなんか、分かんないよ!分かりたくもない!」

「くそ……二発も殴りやがって、ぶへっ!?まて、まだ何も言ってな……!ぶへ!?」

「グレゴリは、どうして騎士団長になりたかったの?」

「何でてめぇに言わなきゃ……っ!?待て!拳を構えるな!やめ……ぶへっ!?」


 私は素直に話そうとしないグレゴリに、拳を振るってから、胸倉を掴む。

 傍から見たら、私はかなり怒っているように見えるかもしれないけれど、実際はそうでもなくて、割と冷静にグレゴリに正義の鉄拳を振るっている。


 ただ、グレゴリにはかなり効いているようで、先ほどまでは、私に目を合わせよとしていなかったのに、今は視線が合っている。


 ……効きすぎて、掴んでいる胸倉から、身体が震えているのが伝わってくるのが分かる。


 私、何度もお腹を蹴ってきたグレゴリに比べれば、そんなに怖いことしてないよね?


 ……まあ、いいか。


「それで?」

「……はい。俺は、ガキの頃、年齢関係なく、色んな人にいじめられていました。ある日、たまたま通りかかった人が、俺をいじめから守ってくれたんです。あとで、その人が騎士団長だって知ったんです。それで、俺もあの人のように誰かを守れるようになりたい。そう思って、努力はしていたんですが、思うようにいかず」

「今に至ったと」


 なるほど。グレゴリが、騎士団長になりたいと思った背景は少しだけ分かった。。


「はい……。いて!?」


 私は、掴んでいた胸倉を放して、代わりにデコピンをした。


 グレゴリの背景が分かったからこそ、どうして道を踏み間違えてしまったのか。

 その原因はグレゴリ自身にもあるけれど、要員は別にもある。


 ただ、その要因は今言うべきじゃないので、来るべき時に言おう。


「グレゴリはさ、辛い経験をしてきたんだよね。だったら、人に傷つけられた心の痛みが、どれ程痛いか、分かってるはずだよ」

「……俺は、どうすればよかったんだ」


 グレゴリは俯き、そう呟く。自身が過去に負った傷と、シラユキとセレディアさんが負った傷を重ね合わせているのかな。すごく、後悔しているような顔をしている。

 

 だけど、罪を犯してしまったことを認めたところで、相手の傷が癒えることなんかない。

 シラユキやセレディアさんは、六年経った今でも苦しみ、そしてグレゴリが罪を認めたとしても、すぐには立ち直らない、と思う。


「『ヒール』」

「……っ!?何で、俺の傷を治したんだ?」

「うーん、知ってほしかったからかな。皮膚に負った傷って、この世界だったら簡単に治るけど、心の傷ってどの世界にいたとしても、すぐには直らないってことをね」


 グレゴリは癒えた頬を手で触れると、途端に歯を食いしばる。

 次第に、涙と鼻水で頬を濡らし始めた。


「……氷絶の勇者、セレディア。俺は、お前らに到底許されないことをした。だから……」

「許さない」

「何?」

「謝っても、許さない。……けど、反省してるなら、言葉じゃなくて行動で示して。今以上に人のために戦って」

「私も、シラユキと同じ気持ちだ。弱き者のために戦えば、貴殿はきっと、目指していた本当に自分に出会える」

「だってさ。こんなに優しい人たちを傷つけたんだから、ちゃんと反省するんだよ?」

「……ああ。すまねえ……。すまねえ……!!!」


 はあ、ようやくグレゴリが反省してくれてよかった。これで、シラユキとセレディアさんの負担が少しは減ったかな?

 グレゴリも、根っからの悪者じゃないことも分かったし、あとは当事者の問題だから、これ以上首を突っ込むのは止めてよう。


それにしても、たった数十分しか経っていないのに、すごく疲れた。

読者の皆様、いつも応援していただきありがとうございます。

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