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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第4章 灼熱の勇者
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アルカの本当の姿

 あまりの出来事に、セレディアさんは目を大きく開き、動揺しているように見える。

 また、緊張しているのか、頬から汗を垂らしている。


 リゼってばちゃっかり、私のカノン、なんて言ってたけどさ。

 

 凛々しい顔でそんなことを言われたら、惚れちゃいそうになるよ!

 お姫様を守る守護騎士みたいで、格好良いし!


「アルクウェル王、と言ったか。カノンを傷つけようとするのであれば、王であろうと容赦はしないが……」

「……くっくっく。あっはっはっは!悪ぃな、試すようなことをしてよ!」

「何?」

「セレディアは悪くねえからよ、物騒な刀を納めちゃくれねえか」

「……分かった」


 そう言ってリゼは、ハバキリをネックレスの形状に戻す。

 

 牽制から解かれたセレディアさんは、よほど緊張し浅い呼吸を繰り返していたのか、何度か大きく深呼吸をする。


「さてと?これで、カノンちゃんたちがアドラメレクを倒したって情報が、濃厚になったな」

「どういうことですか?」

「セレディアの抜刀術はよ、この国随一で早いんだよ。油断していたとはいえ、それを凌ぐなんて、並大抵の奴じゃできねえ真似事だ」

「そういうことです。試すようなことをして、申し訳ありません」

「……それで、私たちがアドラメレクを倒したとして、王様は私たちをどうしたいんですか?」


「そんなことは決まってる。カノンちゃん、王国騎士団にならないか?」


「ならないです」


「……どうして?」


「私には、やるべき使命があるんです。その使命は事情があって言えませんが、私はそれを果たすために、王国騎士団には入団しません」

「そうかい。そんじゃあ、取引をしようか」

「取引、ですか?」

「ああ。実はな、この国に、諜報員がいるらしくてよ。お前らにその疑いが掛かってる」

「証拠は、あるの?」

「証拠は……」

「あるぜぇ!」


 アルクウェル王が言い切る前に、大声でタ啖呵を切ったのは、先ほど私を睨みつけていたヤンキー騎士だ。


 そのヤンキー騎士は、どこに隠し持ていたのか、顔の大きさぐらいの鏡を持って、私たちの正面に立つ。

 その表情は、口角を上げ、舌なめずりをし、悪意に満ちた、そういった顔だ。


 間違いなく、何かを企んでいる。


「この鏡はよぉ、変化の魔法を解く、特別な鏡なんだよ。一回しか使えねぇ代物だが、十分だろ」

「グレゴリ、止めないか」

「はっ!王様もこいつらが諜報員かどうか、証拠が欲しいんだろぉ?なら、俺に任せといてくださいよぉ」


 グレゴリはアルクウェル王の制止を無視して、鏡を私、ではなくアルカに向ける。


 瞬間、鏡が眩い光を放つとともに、アルカの身体も光り輝き始めた。


「アルカっ!?」

「くぅ!?」

「くははは!もう調べは付いてんだぜ?俺の仲間に、変化の魔法を見破れる奴がいてよぉ。てめぇが、その魔法を使ってることが分かってんだよ!まぁ、普通の魔法とは違うって言ってたが、この際ど~でもいい。さあ、正体を現せよ!」


 グレゴリはアルカの苦しむ様を嘲笑うかのように見つめ、盛大に笑う。


 私は急いでアルカの元へ駆け寄る。

アルカは地に身体を這わせ、息も絶え絶えで、心臓のあたりをぎゅっと握っている。

とても、辛そうだ。辛そうなのに。

 

 ……私は、何もできない。


 大切な人が、こんなに苦しんでいるのに、何をしてあげればいいか分からなかった。


 怪我をしているなら、『ヒール』で治せる。

 毒や火傷だったら、最近覚えた『クリア』で状態異常を除去できる。


 でも、今回はどちらにも属していない!


 どうすればいいの!?


 思考と焦りが糸のように絡まって、最適解を導き出すことができない。

 そもそも、ここへ来たことが間違いだったの?


「花音……」

「アルカ!?私、何をしてあげればいい!?」

「そう……ですね……。では、手を握って、くださいますか?……大丈夫、魔法が解けるだけです。死ぬわけでは、ありません」

「でも!」

「大丈夫、です、から……!?ぐっ!?」


 痛みが一層増したのか、話すことすら辛そうにしている。


 私は、アルカの望み通り、小さい手をそっと握る。

 その手から伝わる体温は、およそ生物が発してはいけない熱さを感じた。

 

 私が手を握ってから数秒後、アルカの身体から蒸気のような煙を発し、アルカの周りを覆いつくす。


 そして、その煙が霧散すると、そこにいたのは妖精の姿ではなく、成人の女性だった。


 王の間のシャンデリアの光に照らされ神々しく輝く、ハーフアップされた白銀の髪。

右目は妖精だったアルカの面影を思わせる、サファイアの如く煌く瞳。

そして、白銀の髪によく映える金色の左目。


お洋服は……破れてる!?


 それはそうだよね!妖精の時に来ていたお洋服が、都合よく大きくなるわけないもんね!


 私はすかさず制服のブレザーを、裸の女性に着させる。

 さらに、キョーヤ君がその女性の元へ駆け寄り、マントを脱ぎ、目を瞑りながら渡す。


 紳士だ。


 少し離れた所から、グレゴリが「これがあいつの正体だ!」とか何とか言ってるけど、取り敢えず無視する。


「アルカ、その姿!?元の戻ったのですか!?」

「え、元の姿?」

「そうみたいですね。以前、カミーユの姿は仮の姿だと、申しましたよね。実はカミーユが特殊な魔法で、段階的に元の姿と魔力が戻れるように、施してくれていたのです」

「段階的に?」

「カミーユと元の姿の私では、体格や魔力回路に大きく差があります。そこで、何重にも変化の魔法をかけることで、少しずつ元の姿に戻れるようにしてくれたのです」

「……俄かに信じられんな。姿ならまだしも、魔力回路まで変えるなど……。カミーユとはいったい何者なんだ?」

「彼女は自身のことを……」


 アルカは言い終える前に、苦しそうな法上で額に手を当てる。


「すみません。無理やり変化の魔法が、解かれたので、身体に、かなり、負担が、かかっているようで……して……」

「アルカ!?」


 私は慌てて、握っていた手から零れ落ちそうになったアルカの手を、しっかりと握りしめる。

リゼがアルカの胸元に顔近づけて、左耳を胸に当てる。


「大丈夫、脈は止まっていない。気を失っているだけだろう。だが……」


 リゼはキッと、アルカを無理やり元に戻したグレゴリに向けて睨みつけ、次いでその後ろにいるアルクウェル王に視線を向ける。


「一つ聞きたいのだが、アルクウェル王。これも、貴方の言う試しの一つなのか?」

「……そうだと、言ったらどうする」

「そんなもの、決まっている!私の大切な仲間を傷つけたんだ!相手が王であろうと、この国を守る騎士であろうと!!!命は無いと思え!!!!!」

「待って、リゼ」

 

 私は、リゼのこれからやろうとしていることを、制止するように言う。


「悪いが、カノンの頼みでも、断れ……ない、ぞ……」

「……お願い。止めて」


 リゼは私の顔を見て何か察してくれたのか、怒りの矛を収めてくれたみたい。


 私だって、怒ってるんだよ。

 もしこれが王の試練だとしても、やっていいことと悪いことがある。

 王とグレゴリは、私たちにとって、やってはいけないことをした。


 私たちのことを、何の根拠もなく諜報員だなんだと、難癖を言ってくる王に、腹が立っている。


 それはもう、涙が止まらないぐらい、だよ。


 だけど。


「今は、ここで争ってる場合じゃない。早く、アルカの身体が休める場所まで、連れて行ってあげよう」

「……そうだな。すまない、血が上ってしまっていた」

「謝らないで。私も、怒りが爆発しそうだし。王様」

「何だ?」

「一旦、お家に帰ります。よろしいですか?」

「おおっと、犯罪者を見逃すかよぉ!てめぇら!こいつらを包囲しろ!」

「グレゴリ!何を勝手なことをしている!」

「おいおい、勝手って、そりゃあねぇだろ。俺は騎士としての責務を全うしようとしてるだけだぜ。……とそろそろか」


 グレゴリは、指をパチンと鳴らす。

 その音に呼応したかのように、私とシルフ、リゼ、それからセレディアさんとグレゴリの騎士以外の人たちはその場で倒れ始める。


「やっと、睡眠薬が効いたみたいだな」

「貴様、何を……!?」

「おっとぉ、真面目な騎士サマはそこで大人しく見ていな。これから、罪人を処刑するところをよぉ!」


 グレゴリがそう言うと、いつの間にセレディアさんの背後にいたのか、一人の騎士が槍の剣先を首元に当てている。


「くっ、ここまで外道だとは思わなかったぞ!」


 セレディアさんは、怒りに満ちた表情でグレゴリを睨みつける。

 しかし、グレゴリはそんな視線など意を返さない様子で、ケラケラと笑う。


「おー怖い怖い。けどよぉ、俺は成り上がれればなんだってする、そういう男だぜ?くははは!さぁて、誰の首から跳ねちゃおうかな?」


 グレゴリは剣を引き抜き、剣先を私たちの方へ向けてくる。


 だけど、そんな簡単に、殺させはしない。


「シルフ」

「はい!」

「アルカを抱えて、リゼと一緒に逃げて」

「はい!……え?カノンはどうするのですか!?」

「私はここで足止めするよ」

「この人数を一人で相手にするのか!強化魔法も無しに一人で相手するのは無茶だ!」

「……分かってる。でも、個人的にグレゴリには用があるからさ。一言お説教したいんだよね。お願い、私のわがままに付き合ってくれる?」

「……そのわがままは、誰のためになる」

「私と関わってくれた人、それから、これからお友達になる人のため、かな」


 私がそう答えると、シルフとリゼは大きくため息をつく。

 そして、シルフは丁寧に気を失っているアルカを抱え、リゼは出入り口の方へ身体を向ける。


「カノン、一つだけ約束してくれ」

「何?」

「相手を思いやれるのはカノンの良い所だ。だが、無茶をし過ぎても、相手を辛くさせるだけだ。だから」

「分かってる。気を失ってたら、起きるまでビンタの刑でいいよ」

「いや、金輪際口を聞かない」

「えー、ビンタより厳しいなぁ」

「だから、ちゃんと帰ってくるんだぞ」

「うん!」

「アルカをお家に連れて行ったら、すぐに戻ってきますので!ご武運を!」

「了解!」


 私はわがままを聞いてくれるシルフとリゼに感謝し、グレゴリを見据える。


 この男は、絶対に許さない。

読者の皆様、いつも応援していただきありがとうございます。

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とても嬉しく思いますし励みにもなっています。

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