Frozen heart-1
『ころんべあ』の件から少し日が経ち、私たちはいつものようにクエストをこなしつつ、戦いの経験値を積み上げていた。
そんなある日のこと。
私たちは、久しぶりに四人でクエストをこなし、ギルドへ報告しに行くと、ギルド内がやけに静まっていた。
普段はなかなか騒がしい場所なんだけど、それは楽しそうに賑わっているから、私は特に気にすることもなかった。
だけど、今日はみんな神妙な面持ちで、何やら会話をしているから、珍しいなと思った。
「あ!みなさん、お帰りなさい!」
そんな中でも、元気な雰囲気を崩さない人が私たちに声をかける。
「ただいま、ライカ。何だか今日はみんな静かだね。何かあったの?」
「実はですね。この国の王様が、全国に散らばっている王国騎士団と勇者に、召集をかけたんですよ」
「それと、今のギルド内の雰囲気と何か関係があるんですか?」
シルフがそう言って、私のお腹に両腕を回して抱きついてくる。
シルフはゴーレムのクエストの一件から、私に対するスキンシップが多くなった気がする。
それが私にとって嫌な気分にはならないので、気にしないようにしている。
そう、気にしないようにしているだけなの!
だって、シルフは自然にそういう行為をしてくるんだよ!?
私はいつも平然を装っているけど、本当は鼓動が早くなっているし、身体中熱くなってる。
でも、シルフは他の人が好きって言ってたから。
私が変な期待をしても、きっとお互いに良い思いをしないので、気にしないようにしている。
そして本日も、私は平常心を保つことに意識を集中させる。
「関係ありますよ。というか、国民全員が関係ありますね。というのも、国王が招集をかけるのは大きく分けて二つです。一つは、祭事。もう一つは、戦事です」
「雰囲気から見るに、今回は後者、ということか」
「はい。半月ほど前に、魔王四天王の一人、アスタロトが宣戦布告をしてきたそうです。そして、そろそろ攻め入ってくる頃合いだということで、みなさん緊張しているんですよ」
「そっか。あ!それで、キョーヤ君やシラユキが、この国に帰ってきてたんだね」
「それなら得心が生きますね。それでは、私たちも万が一に備えなくてはなりませんね」
「あの、カノンさん。仮に、仮にですよ。アスタロトが、本当にこの国に攻め込んだ時、戦ってくれますか?」
ライカは珍しく、いや初めて真剣な眼差しで私を見つめる。
そしてその目は、まるで私を試すかのような、そんな目をしている気がする。
正直、私はアルカの言うように、万が一に備え、生きてればそれでいいかなと思っていた。
確かにこの国にはお世話になっている。だけど、この国の人たちの命を守るために戦うなんて、私にはその覚悟は持ち合わせていない。それに、責任が重すぎる。
だから。
「うーん、私の目の前に魔王軍が現れたら、戦うかな。わざわざ、アスタロトの元までいて戦うことは、今のところ考えてないよ」
「……なるほど、そうですか。……まあ、普通そうですよね!私もわざわざ、勇者でもなかなか倒すことのできない敵に、首を突っ込むなんてしたくないですし!」
「う、うん。そうだね」
何故だろう、一瞬だけ、ライカが怖いと感じてしまった。
本当に一瞬だったから、私の勘違いかもしれない。
だけど、私はライカの問いに対する回答を間違えたような、そんな気がした。
「それでは、こちらが本日のクエストの報酬です!また、よろしくお願いしますね!」
「うん、こちらこそよろしくね」
私はライカから報酬を受け取って、ギルドの出入り口へと向かう。
そして、ギルドから出るまでの間、背に氷の槍でも突き刺さっているような、そんな錯覚に襲われていたが、気にしすぎだと思い込んだ。
私たちは家に帰り、食事の用意をしていた。
私は、ライカの態度が脳裏にこびり付いていて、なかなか払拭することができないでいた。
ぼーっとしながら、調理していると。
「あ、調味料使い切っちゃった。これじゃ薄味になりそう」
「買ってこようか?」
「ううん、私が買いに行くよ。申し訳ないんだけど、焦げないように見ててくれる?」
「ああ、分かった。気を付けて行ってくるんだぞ」
「うん、ありがとう。行ってきます」
私は、鍵とお金が入った黄色の巾着袋を、制服のポケットに入れて、外に出る。
空は日が沈み、街の方を見れば、月光と街灯が煌きを彩る、すでにそんな時刻になっていた。
私は、調味料を買いに階段を降り、商店街の方へ歩き出す。
いつもこの時間帯は、買い物に来た奥様方や、仕事帰りの人たちで賑わっているんだけど、今日は少し静かな感じがした。
やっぱり、国王の招集令とアスタロトとの戦いが近いことが、街の活気に影響しているんだろうな。
そんなことを考えながら、私は欲しかった調味料が置いてあるお店を見つけたので、そちらへ足を運ぶ。
そして、調味料に手を伸ばそうとした瞬間。
「あれ!?カノンちゃんじゃねえか!」
「ガンテツさん!お久しぶりです!」
「おう。久しぶりっつっても、ほんの数日前だけどな。いやー、それにしても、カノンちゃんに会えるとはな。たまには負けるのも悪くねえな」
「負ける?」
「シトリが調味料を使い切ったから、誰か買ってきてくれって言ったからよ。キョーヤとシラユキと俺で買い出しじゃんけんしたんだよ。勝率は高い方なんだが、今日は久しぶりに負けてよ、買い出しに来たんだよ」
いいなあ、楽しそうだな、じゃんけん。
私も、今度アルカたちと買い出しじゃんけんしてみようかな。
「そうだ、少しだけ時間はあるか?カノンちゃんに、聞いてほしいことがあるんだ」
「いいですけど、私でいいんですか?」
「ああ。カノンちゃんじゃないと、ダメなんだ」
ガンテツさんは、頬をポリポリと掻き、少しだけ悲しげな表情でそう言ってきた。
そんな顔をされたら、断れるはずもなく。まあそんな顔をされなくても、断らなかったけれど、私はガンテツさんに招かれるがまま、人気の少ない方へついていった。
「人の通りも少ないし、この辺ならいいだろ。実は、シラユキのことで聞いてほしいことがあるんだ」
「シラユキのこと?」
「ああ。だが、六年前の一件から、未だにシラユキをよく思っていない連中がいるもんで、ここへきたんだ」
六年前、というとその頃のシラユキは、十歳前後のだよね。
そんな子が一体何をすれば、今日まで嫌われるのだろうか。
「何から話したもんかな。……そうだな、シラユキの生い立ちから話そうか」
ガンテツさんは遠くの方を見つめて、懐かしそうに話し始めた。
シラユキは、キョーヤ君が生まれてから二年後に、生まれた。
生まれつき目が赤く、生えてきた髪の毛が白かったらしい。
つまるところ、彼女はアルビノ体質を持って生まれてきたのだ。
ガンテツさんとシトリさんの毛色や、目の色が似ていないのはそういうことらしい。
シラユキは、キョーヤ君と同じく高い魔力を保有していたため、アルクウェル王国の王から、生後間もないシラユキを勇者に任命したそうだ。
それから、歳を重ねるにつれ、シラユキは十歳になった。
当時は、今のシラユキからは想像もできないほど、明るくやんちゃな性格だったらしい。
それはもう、兄であるキョーヤ君を困らせるほどだったという。
ガンテツさんやシトリさんも手を焼くことが多かったが、笑顔の絶えない愛娘を大事に、大切に育てた。
そして、明るく元気なシラユキは、勇者と呼ばれるに相応しい才能を開花していった。
その才能とは、魔法の扱い方と剣術の二つ。
剣術ではキョーヤ君に劣るものの、魔力の高さと魔力操作では秀でていたシラユキ。
幼いながらも、上級魔法を使いこなし、魔王軍の兵を次々と倒すその姿から、王や王国騎士団からは一目置かれ、国民から絶大な人気を誇っていたという。
ある日、王からとある任務をシラユキと、十一番隊の隊長であるセレディアという女性に依頼した。
それは、とある襲撃にから生き残ったエルフ族の村が、魔王四天王の一人に襲われるかもしれないという情報が吐いたので、助けに行ってほしい、というものだった。
シラユキは、ついに四天王と戦える、勇者らしいことができると息巻いていたそう。
しかし、この任務を境に、シラユキの心を、自らの魔法よりも冷たい氷で、心を閉ざすことになった。
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