触覚魔人と女狐と白雪姫と
このお話で遂に...
第四章の半分まで終わりました!
読者様方の応援のおかげで、ここまで執筆することができました!
ありがとうございます!
後半もぜひお読みいただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。
「このお店って、勇者以外は入れない仕掛けになってるんだっけ?」
「ああ。先代が残してくれた、特殊な魔法防壁が張ってあるだが。カノンちゃんは本当に勇者じゃないんだよな?」
「うん。まぁ、そもそも勇者の基準が分からないんだけどね」
「勇者の基準は、この国の王様が決めるんだよ。基本的に、異世界召喚者が勇者になるね」「未だに解明されていないけど、異世界から来た人たちって、桁外れに魔力が高いのよ。それで、王様が火、水、風、土の四属性に光属性を足した五属性に各一人ずつ、勇者を決めてるらしいわ」
「そうなのですか。そこまでは私も知りませんでした」
「魔力の素質があるのであれば、魔王を討伐する時だけ、勇者とやらを何人も召喚すればよいのではないか?」
リゼは何げなくそう言うと、キョーヤ君は首を横に振る。
リゼの言う通り、勇者を何人もこの世界に連れてくれば、すぐに終わりそうな気がするんだけど。
「召喚技術はとても複雑で、大量の魔力を消費するから、高い頻度で召喚できないらしいんだ。だから、数年に一を召喚するのが精いっぱいらしい」
「ちなみに、キョーヤと姉御は異世界召喚者じゃないよ。二人とも、元勇者の子供だけはあって、生まれた頃から魔力が高くて、ちっちゃい頃から素質があったから、王様に選ばれたんだよ」
「あと、俺と同い年で熱血馬鹿の岩砕の勇者・ギルバートも、この世界の人間だよ」
「そして、王様認められた人は、各属性の色にちなんだイヤリングが貰えるのよ」
クレールの言葉に合わせて、キョーヤ君とシラユキが、右耳につけているイヤリングを見せてくれた。
キョーヤ君は金、シラユキは水色の宝石が埋め込まれている。
いいな、思ってたよりも綺麗だし、私も欲しいなと思ってしまった。
「では、残りの二名は異世界召喚者なのですね」
「ああ。俺の兄貴分である疾風の勇者・ヒューズさんと、最近召喚された灼熱の勇者だな」
「む」
キョーヤ君が灼熱の勇者、そう口にした瞬間、シラユキがむすっとした顔になる。
それを見ていたベロニカは、困ったような顔をし、リゼの元からシラユキの方へ向かう。
「姉御、昨日のことまだ気にしてるの?」
「別に、気にしてない」
シラユキはそういうものの、明らかに気にしているのが私の目からも分かる。
一悶着でも起こしたのかな?
「実は昨日、王様から命を受けて仕事しに行ったんだけどさ。どうやら灼熱の勇者にも同じ依頼をしてたみたいで、あたしらが現場に着いたときには、ちょうど終わってたんだよね」
「む~」
「そういうことはよくあるの?」
「いや、昨日だけだよ。その勇者がこの世界に来たのは、確か十日ぐらい前だからね。ただ、ねえ?」
ベロニカは思うところがあるのか、口元を比引きつらせている。
それにつられてか。キョーヤ君やライナたちも同じ顔をしている。
みんな、一体どんなことをされたのかな。
少しだけ静まった中、先に口を開いたのはキョーヤ君だった。
「ただ癖が強いんだよ。まず、パーティーを絶対憎まない。そして、何というか、色々な意味で躊躇わないんだよ、彼女」
「躊躇わない?」
「ああ。まず魔王軍の魔物には容赦なく斬ったり、魔法で燃やすんだ。それだけならまだ納得できるんだけど」
「あの勇者、自分の命を顧みない戦闘をするのよね!敵の懐に迷わず突っ込むし!」
「ええ、見ていてとても怖かったわ。それに、戦闘が終わった後の彼女は、酷く痛々しいのよね」
「あー、分かる!それにさ、こんなこと言ってなかった?こんなことをしてもあの子は帰ってこない、って」
「そう言えばそんなことを言ってたな。どういう意味なんだろう」
「さあ。興味ない」
「姉御はご機嫌斜めだね~」
「別に、機嫌悪くない」
「あはは……」
灼熱の勇者。か。
みんながその人のことを彼女、と呼んでいるから、女性なのは確かなんだろうな。
それにしても、自分の命を顧みない戦い方、か。
少し前まで、私も同じことしてたな。
もうしないって決めたけど。
「ただ、癖はあるんだけど、灼熱の勇者は歴代最強の勇者とも呼ばれているんだ」
「歴代最強、ですか?」
「そうよ。なんでも、以前に異世界召喚を二回経験していて、二回とも魔王を倒した実績があるそうよ。その後、転生もしてるらしいから、見た目の年齢よりも、多くのことを経験してることになるわね。何でもありかって感じよね。ため息しか出ないわ」
ライナはそう言って、本当にため息をする。
「ライナってずいぶんと勇者事情に詳しいね。勇者のこと好きなの?」
私は思っていたことを口にすると、カウンターの方を向いていたライナは首をぐるりと回して私の方を睨んできた。
何故だか、顔を真っ赤にしている。
「なっ、だ、誰がキョーヤのこと好きだって!?ばっかじゃないの!?」
「いや、私、キョーヤ君のことだなんて、一言も言ってないんだけど。勇者全般が好きなのかなって……」
「!!!!!」
私は言いかけて、言葉を発することを止める。
理由は、ライナが茹でダコのごとく顔を真っ赤にし、声無き叫び声をあげたから。
「ばっ、ばーか!カノンのばーか!もう、ばーか!」
ライナは怒らせてしまったらしく、わなわなと身体を震わせていた。
私、そんなに怒らせること言ったかな。
それに、そこまで馬鹿って言わなくてもいいのに。
「ご、ごめんね。怒らせちゃって」
と、私が謝罪をすれば。
「べ、別に怒ってないし!大体!キョーヤのことなんて、これっっっっっぽっちも、好きじゃ!ないんだからね!」
「俺、そんなに好かれてないのかよ……」
「えっ!?あ、ごめん!う、うそ!嘘だから!てか何泣いてんのよ!?」
私のせい、ではないと思うけれど、キョーヤ君へ飛び火してしまったみたいだ。
キョーヤ君、ごめんよ。
心の中で謝罪をしていると、涙目のキョーヤの元へ、クレールが近づく。
慰めに言ったのかと思えば、クレールがそっと、キョーヤ君の腕にしがみつく。
そして、清楚そうな印象からは想像もできない、妖艶な笑みを浮かべた。
「キョーヤ、私は大好きよ。もうあんなの放っておいて、これからは二人っきりで旅をしましょう?ね?」
クレールはそう言って、柔らかそうなお胸をキョーヤ君に押し当てる。
な、なんて大胆な女の子なんだろう。
私には絶対に真似できない。
そして、キョーヤ君はどうして、平然とした顔をしているのか。
少しぐらい、照れてもいいのでは?
「こんの女狐め!さっさと、キョーヤから離れなさいよ!」
「ふん。触覚魔人が何か言ってるみたいだけど、よく聞こえないわ」
「だーれが触覚魔人よ!せめて触覚魔女にしてよね!」
訂正するとこはそこでいいの!?
ライナの基準が分からないよ。
誰か、止めに入らなくていいのかな、と考えれば、
「お兄ちゃんを困らせないで。凍らせるよ?」
ガタっと椅子から立ち上がったシラユキが、細剣を納めている白銀の鞘に手を伸ばす。
そして、彼女の魔力のせいだろうか。気温が下がったように感じる。
「あ、姉御!落ち着いて!?ここお店の中だから!」
「問答無用」
これは、逃げた方がよさそうだな。
私は視線で、アルカたちに合図を送る。
私の意図を汲み取ってくれたアルカたちと共に、そっとお店の出入り口まで行き、
「それじゃ、また来まーす」
「御邪魔しました」
「ま、待ってくれカノン!せめてこの状況を何とかしてくれないか!?」
「ごめんね、助けてあげられない。だって私。か弱い、乙女だから」
「分かりやすい嘘をつかないでくれ!あ、待って、行かないで!助けてくれー!」
ごめんね、キョーヤ君。
私が割って入ったら、きっと今以上にややこしくなると思うから。
離脱するね。
そうして、私は『ころんべあ』のドアを開けて、帰宅したのだった。
最後に聞いた音は、綺麗な鐘の音ではなく、青年の悲痛な叫びと少女たちの怒号だった。
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