”ハバキリ”の意外な事実
カランカラン。
キョーヤ君は扉を開けると、扉の上部分に装飾してある金色の鐘が揺れ来客者が来たことを告げる。
私はまだ数回しかその音を耳にしていないけど、可愛らしく鳴るこの音を気に入っている。
お店の中に入ると、カウンター奥のキッチンには何やら炒め物をしている筋骨隆々の男性と、快活そうな女性がいた。
「ただいま!」
キョーヤ君がそう言うと、四人とも私たちの方へ視線を向けてきた。
「あら、お帰りなさい」
「おう、帰ってきたかキョーヤ!例の女の子には会えたか?」
「ああ、会えたよ。それで、お礼を兼ねてお店まで来てもらったんだ。紹介するよ、この人が……」
「昨日ぶりだね!ガンテツさん!シトリさん!」
私はキョーヤ君が紹介してくれる前に、ついついガンテツさんとシトリさんの名前を呼んでまった
まさかこんなに早く、二人のお店に来れるとは思ってなかったから、気分が上がっちゃったんだ。キョーヤ君、ごめんね。
次いで、アルカが私の隣まで来て、ぺこりと軽く会釈をする。
「御邪魔します、ガンテツさん、シトリさん」
「おお、カノンちゃんにアルカちゃんじゃねえか!昨日ぶりだな!」
「あらあら、いらっしゃい!もう来てくれたのね!」
「ええ!?二人とも顔見知りなのか!?」
キョーヤ君は驚きの声をあげて、私とガンテツさんの顔を交互に見る。
初対面だと思ってた人たちが、実は顔見知りだって知ったらそれは驚くのも無理はないよね。
それにしても、世間って意外と狭いな。
「キョーヤ。もしかして、カノンちゃんがお前を助けてくれた女の子なのか?」
「あ、ああ。そうだよ」
「なるほどな。カノンちゃんなら、キョーヤを追い込んだっていう暗黒騎士を倒したって話は頷けるな」
ガンテツさんはうんうんと、顔を縦に振り納得のいったような表情をしていた。
実際には、暗黒騎士に止めを刺したのはシルフで、私はキョーヤ君を治療しただけなんだけどね。
私はそのことを訂正してもらおうとキョーヤ君の方へ視線を移すと、キョーヤ君は顎に手を当てて何やら考え事をしていた。
「どうしたの、キョーヤ君?」
「少し考え事をしててな。なあ親父」
「どうした?」
「昨日話してた、親父に傷をつけた女の子ってもしかして」
「ああ、カノンちゃんだぜ!歴代の勇者の中でトップクラスに強いんじゃないか?」
「やっぱりカノンさんなのか……」
キョーヤ君は私のこといているようで、どこか遠いところを見ているような目をしてる。
その表情は得心がいったようで、かつ呆れているようだった。
どうしてそんな顔をしているの?
それに、やっぱりって、どういうことなのかな!?
私が問い詰めるべきか悩んでいると、カウンター越しからシトリさんが、取り敢えず席に座って、と促してきた。
私たちは、円形のテーブルを囲むように私たちは五つある椅子のうち、三つの椅子に座った。
木材で出来ているだろうテーブルと椅子から、木々の芳ばしい香りがし、問い詰めようと躍起になっていた私の心を落ち着かせてくれた。
もう二席空いていたけど、ライナ、クレールはカウンター席に着き、キョーヤ君はキッチンへと足を運んだ。
キョーヤ君と変わるように、シトリさんが水の入ったコップを乗せたトレイを持って、こちらへとやってきた。
コップを配りながら、シトリさんはシルフとリゼにいらっしゃいと声をかける。
「二人とは初めましてよね?私の名前はシトリ!昔の話だけど、ガンテツと一緒に魔王軍を討伐する勇者パーティーの一員でした!よろしくね!」
「私はシルフと申します。今はカノンのお嫁さんです、よろしくお願いします。あら?どうしたのですかアルカ、私の目の前に来てって痛ぁ!?」
淑女のようにシルフが自己紹介を言い終えると、アルカにデコピンをされた。
それなりに痛かったようで、目じりには薄っすら涙が見える。
「いきなりデコピンするなんて酷いじゃないですか!?暴力反対です!」
「貴女が虚偽の発言と、猫を被った自己紹介をするのがいけないんです。訂正してください」
「い、嫌です!私は嘘なんかついてないです!ってデコピンする構えをしないでください!」
「では、訂正を」
「むぅ~。分かりました、訂正すればいいのでしょう!?私はシルフと言います!カノンの未来のお嫁さんです!これでいいですか!?」
「良くはありませんが、嘘ではない、と思うので許しましょう」
「待って、私シルフと結婚する予定はないんだけど!?」
「え……?」
私がそう言うとシルフは今までに見たことのない、とても悲しそうな顔をする。
これは、私が悪い、のかな。
シルフには私とは別の想い人がいるんじゃないの?
もしかしてその想い人って、私の、こと?
いやいや、まさか私なわけないよね。
私じゃないよね?
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。
酷く悲しませてしまったシルフに、何か言わなくてはと思考を巡らせていると、リゼがシ隣に座っていたシルフの方に手を置く。
「何を悲しい顔をしている」
「へ?」
「カノンは“今”は予定がないと言っただけだ。嫁にする気はない、とは一言も言っていないだろう」
リゼがそう言うと、シルフはぱぁっと表情が見る見るうちに明るくなっていく。
私が何を言おうか考えている間に、リゼが助け舟を出してくれてとても助かった。
ありがとう、リゼ。
「すまない、紹介が遅れたな。私はリーゼロッテ、呼びにくければリゼでいい。よろしく」
「ええ、よろしくね、リゼちゃん!うふふ、カノンちゃんの周りはすごい人たちが集まりやすいのかしら」
「どういうことだ?」
リゼがシトリさんに疑問を呈すると、シトリさんの表情は笑顔のままで、しかし何かを見通すような鋭い目をしていた。
「まずリゼちゃんね。そのネックレス、普通のネックレスじゃないでしょ。確か“古の魔道具”だったかしら」
「何ですか?“古の魔道具”って」
「それはね、一言で言ってしまえば、太古の時代からある最強の武具よ。武器だけじゃなくて防具も存在するらしいわ。いくつあるか分からないけれどとても貴重で、私は今までに二つしか見たことがないわ」
「そうなのか、これはそんなに珍しいものだったんだな」
リゼは“ハバキリ”を手にして、まじまじと見つめていた。
それにつられて、私も“ハバキリ”をまじまじと見つめ、やっぱりこの世界はファンタジーなんだなと感心していた。
「リゼちゃんはそれをどこで見つけたの?」
「これか?あんまり覚えていないが、どこかの山奥で拾ったんだ。触れたら剣に変化したから、これは面白いと思って今も愛用している」
リゼはさも当然のように言うと、シトリさんだけじゃなく、私以外の全員が驚いた顔をしている。
ちなみに、私は驚きポイントが分かっていなくて、ポカンとしていた。
「やっぱり、リゼちゃんは凄いわね。“古の魔道具”は見つけるのも困難なうえに、理屈は分からないけれど使用者を選ぶのよ。それをたまたま見つけて、すぐに使えるようになるなんて、素質が十分すぎるほどリゼちゃんにはあるのね!」
「そうだったのか。あまりピンとは来ていないが、“ハバキリ”が特別な武器だということは理解できたぞ」
リゼが“ハバキリ”の名を名乗ると、今度は先ほどとは比べ物にならないほど、全員が驚いた顔をした。
当然、私はポカンとしている。
「い、今“ハバキリ”っていったかしら!?」
「あ、ああ」
「リゼ!貴女、技名が“ハバキリ”ではなかったのですか!?」
シルフが興奮気味にリゼに問いかける。
技名と武器の名前で、何か違いがあるのかな?
「いや、このネックレスが私はハバキリだ、と語り掛けてきたから、そう呼んでいるんだが。技名ではないぞ」
「リ、リゼちゃん。“ハバキリ”ってね、“古の魔道具”の中でも、さらに希少で世界に三つしかない“神器”と呼ばれるものなのよ!?」
「そうなのか。すまない、そう言われても、やはりピンとこないな」
「それは伝説にあるぐらい本当にすごい武器なのよ。だから、伝説の武器の名をとって、技名をハバキリって名付ける人もいるぐらいなんだから!まさか“神器”が実在するとはね」
シトリさんは、ネックレスに顔を近づけて舐るように見つめる。
伝説の武器に認められているなんて、リゼは凄いエルフなんだね。
「神器、か。正直、私には“ハバキリ”が“神器”だろうと何だろうとどうだっていい。私は、この“ハバキリ”とともに、カノンや、大切な仲間を守れればそれでいいからな」
“ハバキリ”に語りかけるリゼの表情はとても優しく、その言葉を聞いた私はとても嬉しい気持ちになった。
以前まで復讐のために使っていた道具を、今は私たちを守るために振るうと言ってくれたから。
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