クレールとライナ
「それにしても、相変わらず規格外の魔法を使うのね。強くなろうとしてる私がばかみたいに思えてくるわ……」
そう言ってきたのは、キョーヤ君率いる勇者パーティーの一人の女の子だ。
赤く煌く長い髪を左右に束ねた、所謂ツインテールが特徴的だ。見た目からして、年齢は十五、六歳ぐらいで私と年齢が近い気がする。
背中には彼女の背丈と同じくらいの大きな剣が見える。
戦闘の時はあの大きな剣を振り回すのかな?
意外と力持ちなんだなと、感心していると、勇者パーティーのもう一人の女の子が一歩前に踏み出す。
その女の子は、ウェーブのかかった水色の髪が特徴的で、やっぱりこの子も見た目からして十五、六歳ぐらいだと思う。
「そうだね。やっぱり普通の人とは思えないかな」
おっとりとした口調で、いつしか耳に胼胝ができるほど聞いた感想を言われる。
確かに、私の魔法は他の人よりも少しだけ強いかもしれないけれど、それ以外は普通の女の子だと自負している。
「カノン、この三人組とお知り合いなのですか?」
「うん。というか、シルフも会っていると思うんだけど」
シルフは首を傾げて、如何にも会ったことありませんよ、みたいな表情をしている。
あれ、私の勘違いかな。
「俺って印象が残りにくいのかな……」
キョーヤ君ががっくりと項垂れてそんな言葉を零していた。
どうやらキョーヤ君はシルフのことを覚えているようだ。つまり、私の勘違いじゃなかったみたいだ。
ただ、キョーヤ君が流石に可愛そうに見えてきたので、何か別の話題を振ってみよう。
「それよりも、キョーヤ君はどうしてここにいるの?もしかしてこの辺に魔王軍の四天王が出没したとか?」
「そんな訳ないでしょ。四天王が来てたら、今頃王国中大騒ぎよ」
それもそうか。赤い髪の女の子、ライナの言う通り四天王が来ていたら大騒ぎになってるよね。じゃあ、キョーヤ君は何しにここへ来たのかな。
「俺たちがここへ来たのはカノン、君に会うためだよ」
「私に……?あ、パーティーの勧誘だったら、申し訳ないけど断らせてもらうね」
「あはは。勧誘もしようと思っていたけれど、今日は別件なんだ。ほら、暗黒騎士と戦ったときに助けてくれただろ。その時のお礼がしたくてさ、ギルドの人に聞いてここへ来たんだ」
なるほど、そう言えばそんなこともあったような。
一日一日が良くも悪くも濃密だったから、何だか遠い昔のことのように感じる。
キョーヤ君はあの時のことを覚えててくれていたんだね。
「そうなんだね。でも、わざわざお礼を言われるようなことはしていないよ。傷ついている人がいたら助けるのは当然でしょ?」
あの時は確か、キョーヤ君が傷だらけになっていたのを、私の回復魔法で治癒したんだよね。力を持っていたら、それを誰かを救うために使う。私はただそれだけのことをしただけだ。
「貴女にとっては当然のことかもしれない。けれど、そのおかげで私たちはキョーヤ君と今も一緒にいられてるわ。あのときはお礼を言えなくてごめんなさい。助けてくれてありがとう」
「クレールの言う通りね。あんたのおかげでキョーヤと、それからクレールの三人で魔王軍と戦えてるわ。その、私もあのとき、お礼を言ってなかったのが心残りだったの。だから、その、、あ、ありがと」
クレールと、少し気恥ずかしそうにしているライナが揃ってお辞儀をする。
きっと、この二人にとって勇者キョーヤという人は、かけがえのない存在なんだろう。
そして、この世界において、誰かを助けるこということは、誰でも出来ることじゃないことが、クレールとライナの言葉から読み取れた。
私はさっき、助けるのは当然と言ってしまったけれど、それはたまたま私がその場にいて、たまたま救える力を持っていたからできたこと。
どちらかが欠けていたら、きっと救えなかった。
そして、救えないことの方がきっと多いんだ。
アルクウェル王国はギルドや王国軍があるし、さらに言えば勇者もいるから命の危機にさらされることはほとんどない。
安全だからこそ、この世界は今まさに、魔王軍に侵略されているという事実を忘れがちになる。
焦ってはいけない、だけど早く強くなって残る二人の精霊の力を借り、魔王を倒そうと私は改めて心に誓った。
「それでよければ、俺の親父が経営している酒場に来てくれないかな。親父仕込みの料理をご馳走したいんだ。どうかな?」
私が珍しく真剣に考え事をしていたら、キョーヤ君がそう言って提案してきた。
そういえばそろそろお昼時だし、お腹も空いてきたところだ。
「お言葉に甘えようかな。シルフと、今ここにはいないんだけどアルカとリゼも誘ってもいいかな?」
「もちろん。二人とはいつ合流すんだ?」
「お昼ごろにギルドで待ち合わせしてるから、ギルドに行けば合流できると思う」
「そうか、じゃあギルドへ行こう。そこから酒場のある場所まで案内するよ。俺がいないと多分見つからないと思うから」
「狭い路地にあるの?」
「そうじゃないよ。大通りにあるんだけど、その酒場は特殊な結界が張られててさ。勇者じゃないと入れない仕様になってるんだ」
「魔法って便利だね」
特殊な結界か。そう言えば、昨日も似たようなお店に行ったばかりだね。
ガンテツさんのオムライス、また食べたいなぁ。
昨日のオムライスの味を思い出して、お腹が余計空いてきた。私はお昼ご飯を食べたい一心で、アルカたちと合流するべくギルドへ戻った。
ギルドへ戻ると、すでにアルカとリゼがそこにいた。
「お二人ともお疲れさまです。あら、カノンの後ろにいる方々は、以前お会いしたキョーヤさんたちですか?」
「お、覚えてくれてる!?」
「そんなに驚くことですか?何年も前に会った訳ではないですし、簡単に忘れませんよ」
アルカは事の経緯を知らないので、今まさに名前を憶えてくれていたアルカに感動しているキョーヤ君を不思議そうに見ている。
「その者たちと知り合いなのか?」
「うん。キョーヤ君はなんと勇者なんだよ」
私が何げなくそう言うと、ギルドにいた人たちがざわめき始めた。
「おい、あの黒髪の男、勇者らしいぞ」
「あんな若い奴が勇者なのか」
「私、勇者って初めて見たかも」
「カノンちゃんは勇者と知り合いなのかよ。やっぱり只ものじゃなかったんだな」
「あの勇者、あんなに美少女に囲まれて、幸せ者だな!チクショー!」
などなど、キョーヤ君は注目の的となってしまった。
このままだとここにいると、騒ぎになりそうな気がする。
「キョーヤ君、早速で申し訳ないんだけど、お店まで案内してくれるかな?」
「あ、ああそうだな。こっちだよ」
キョーヤ君はそう言って、お店のある方へ歩き出した。
未だ状況を飲み込めていないアルカとリゼはポカンとしている。
何も説明していなかったら、そういう表情になるよね、ごめんね。
「アルカたちもついてきて!キョーヤ君がお昼をご馳走してくれるらしいから!」
私の言葉に何も言わず、アルカたちは頷いてからついてきてくれた。
キョーヤ君の後を追ってから少しして、住宅街へとやってきた。
そして、朽ち果てている二階建ての建物の所まで来て、キョーヤ君は足を止める。
ん?私はこの建物に先日も来た覚えがあるよ。確か名前は……。
「お待たせ。ここが俺の親父が経営してるお店『ころんべあ』だよ」
ああ、やっぱり。
「ここがお店、ですか?」
「ああ。いまは特殊な結界でボロボロに見えているだけなんだけど、勇者が近くにいると認結界が識すれば」
「本当の姿を見せるのよ」
そして鐘の音が鳴ったとともに、私たちの目線の先に見えるお店は、新築のような姿に変化した。いや、本当の姿を現した、と言った方が正しいのかな。
ドアに黄色い縄でかけれているプレートには『ころんべあ』と書かれていて、私の予想通り先日行ったお店に間違いなかった。
ちなみに、私とアルカは驚かなったけど、シルフとリゼは目を見開いてとても驚いている様子だった。初見じゃそうなるよね。
そうして私たちは、キョーヤ君とともに『ころんべあ』にお邪魔することになった。
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