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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第4章 灼熱の勇者
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愛情は紙一重

「私にも、分からないのです」

「分からない?」

「はい。えっと、ある人と出会ってから違和感はあったのですが、昨日からそれが顕著になってきたんです」


 ある人、が誰だか分からないけれど、その人と出会ってから違和感が出始めたんだね。

 ある人って私の知ってる人かな。

 それから違和感ってどういう違和感なのかな、体調が芳しくないとかだったら大変だよね。


「身体の具合が悪いとか?」

「いえ、体調は良い、はずです。違和感というのは、心の方です」

「心……」

「その人と一緒にいると、心が満たされて幸せな気分になるのです。でも、他の人と仲良くしているのを見ると、心がギュッと何かに握られているみたいに、苦しくなるのです」

「そのことで、悩んでたんだね」

「はい。今まで生きてきて、こんなことは初めてなんです。もしかして、何かの病気なのでしょうか?」


 シルフが少しだけ震えているのが、繋いでいる手から伝わってくる。

 今まで感じたことのない、季節が巡るよりも早い心の変化に戸惑っているのだと思う。


 この世界が生まれたと同時に生を受けた一人の精霊が、何千年も生きてきて、初めて体験した感情なのだから。


 私は何となく、シルフが抱いている感情がどういうものなのか分かってきた。

 だけど、まだ決めつけるには早い。

 もしかしたら、本当に体調が悪いのかもしれないからね。


 もう少しだけ、シルフの話を聞いてみよう。


「まだ、病気かどうかどうかは分からないけれど、多分違うと思うよ」

「本当ですか?」

「うん。ねえ、シルフはその人とはどういう関係なの?」


 私が何げなくそう聞くと、シルフの身体がビクッと電気でも浴びたかのような反応をもせた。特に変わった質問はしてないと思ううんだけどな。

 それにしても今の反応、少し可愛い。


「え!?えーと、どういう関係、ですか。そうですね、良き友人だと思います」


 シルフはいつの間に、交友関係を広めていたのかな。知らなかったよ。


 シルフ自身はその人のことを、本当にただの友人としか思っていないのかな。


「シルフはその人のこと、どう思ってるの?」

「どういうことですか?」

「うーんと。直球で言うなら、その人のことが好きなのかなってこと。もちろん、恋愛対象としてだよ」

「へっ!?れ、恋愛対象として、す、好きか、どうかですか!?」


 シルフは白い肌を紅潮させ、とても恥ずかしそうにしている。

 その変わり様を見て、私も自分で質問しておきながら顔が熱くなっていくのを感じた。


「ど、どうなの!?好きなの!?」

「わ、分かりません」


 シルフは染めた頬はそのままに、だけど顔を俯けてしまった。

 分からないとは、どういうことなのかな。


「私は、何千年と生きてきて、知識として好きと言うものは知っていますが、私が相手を、恋愛の対象として好きになったことは一度もないのです。ですから、今抱いている感情が好きなのかどうか、分からないのです。それに」

「それに?」

「多分これはきっと、愛情と呼べるものではないと思います。私は、その人のことを独占したいと思っているのですから」


 私はシルフがどうして思い悩んでいるのか、何となく察することができた。


 シルフはその人のことが本当は好きでたまらないんだ。

 それは、その人の話題になる度にとても楽しそうに話したり、顔を赤く染め上げたりとシルフの態度を見れば分かる。


 だけど、シルフはそれを認めようとしていない。


なぜなら、シルフが先ほど言っていたけれど、その人のことを独占したいと思っているから。

嫉妬から来る独占欲は愛情とは呼べないと、シルフは考えているんだと思う。


けれど、私は思う。独占したい気持ちがあったら、その人のことを愛してはいけないのかと。


「私は、独占欲があってもいいと思うな」


 私が言うと、シルフは俯いた顔を上げ、視線を私の方へと向ける。

 その目は少し驚いたと言わんばかりに、見開いていた。


「どうして、そう思うのですか?」

「だって、その人を失いたくない、心配になって落ち着かない。だから、つい繋ぎとめたくなるんだと思う。でも、それって悪いことなのかな」

「カノンは悪いことだとは思わないのですか?」

「うん!あ、でもあまりにも縛り付けるのは良くないよ!?独占欲に限らず相手のことを考えずに行動するのは、その人や周りの人たちに迷惑になっちゃうからね!だから、相手に少し甘えるぐらいだったらいいと思うよ!」


 私は、恋愛経験は皆無だけどそれらしいことを言ってみる。

 けれど、適当なことを言っているわけじゃなくて、相手のことを想っての行動ならそれは素晴らしいことだと思うから、シルフにそれを伝えたかった。

 シルフは私の言葉を聞いてから、照れくさそうに私との視線をはずす。

 その代わり、握っている手の力が強まったのを感じた。


「もし、もしですよ。私がカノンに甘えたりしても、迷惑だとは思わないですか?」

「思わないよ。むしろ、可愛いなって思っちゃうな。きっと相手の人もそう思うはずだよ」


 するとシルフは逸らしていた目線を即座に戻して、興奮気味になる。


「可愛い、ですか!?」

「うん、可愛いよ」

「……!!」


 私は笑顔でそう言うと、シルフは声にならない声をあげると同時に、握られていた手を放して顔を覆ってしまった。

 手の隙間から、口角が上がっているように見える。良かった、嫌な感情は抱いていないらしい。


 少しして、顔を覆っていた手を外した。その表情は、さっきまで悩んでいたなんて言っても誰も信じてくれないほど、とても晴れやかで花が咲いたような笑顔をしていた。


「カノン、悩みを聞いてくれてありがとうございます!カノンのおかげで、スッキリしました!これからは、ほどほどに甘えたいと思います!」


 シルフがお礼を言ってくれたのと同時に、地面が揺れる感覚がした。

 そういえば、まだゴーレムを倒していないんだった!


「シルフ、後ろにゴーレムがいるから、一緒に倒そう」

「分かりました!ゴーレムなんて私とカノンの愛の力があれば、一瞬で倒せますよ!」

「?うん、そうだね。頑張ろっか」


 あれ、シルフの想い人は私じゃないはずだよね。

 それなのに愛の力とは一体どういうこの何だろう。


 あ、仲間としての愛の力か。危うく勘違いしそうになっちゃった。


「それでは、私が風の魔法でゴーレムをボロボロになるまで切りつけます。そうしたら、カノンが精一杯の魔法で打ち砕いてください!」

「了解!」


 私はシルフの作戦が成功するように、魔力を込めるために集中する。

 その間、シルフはゴーレムの頭上にエメラルド色の大きな魔方陣を展開させた。

 今まで見てきた魔方陣とは違い、とても煌びやかで今のシルフの感情を表しているようだった。


「『ヴァン・エンデュミオン』」


 シルフは私が聞いたこともない魔法を唱えると同時に、エメラルドの魔法陣からは想像もできないほどの暴風がゴーレムを襲う。

 きっと、最近習得した魔法なんだろうな。


 見るからに重厚感のある風は、巨躯を持つゴーレムの動きを止めてしまうほどの威力だ。

 さらには、シルフの宣言通り暴風に当てられる時間に比例して、身体に切り傷ができていく。

 正直、私がいなくても倒せるのでは?


 そう思うのも束の間、シルフは私の方へ顔だけ振り向かせる。


「さあ、カノン!バーンッと一撃を決めちゃってください!」

「いや、私が魔法を使わなくても倒せそうだけど」

「そんなことありません。私が新しく習得した魔法は、相手の動きを止めつつ防御力をそぎ落とすだけなので、決定打になりません。ですから、強力な魔法で倒しちゃってください!」

「もう、簡単に言ってくれるなー」


 シルフが目をキラキラさせて、私の魔法を期待している。

 そんな顔で見られたら、一撃で倒さないわけにはいかないよね。


 さて、シルフが新魔法を見せてくれたわけだし、私も新しい魔法を使おうかな。

 私の頭の中には。今まで使ったことのない魔法がいくつか浮かんでいる。

 だけど、それらは中級以上の魔法なのであまり試し打ちする機会がなかった。


 それに、リハビリ中だったしね。


 でも、今日はシルフがゴーレムの動きを止めてくれているから、新魔法を試す絶好のチャンスだ。

 この機会を逃すわけにはいかない。


 私は思い描いている風の中級魔法のイメージを心の中で、自身と重ねて祈るように唱える。


桜の蕾が内に潜めるエネルギーは計り知れなくて、いつか花開くその時に、綺麗に咲き誇る。私も今はまだ蕾だけど、いつかは鮮やかな桜の花を咲かせ、みんなを笑顔にしてあげられますように。


一つの桜の蕾を包み込むように、両手を合わせて魔力を込める。

すると、黄緑とかすか桜色が私の手の中から零れだし、内に秘めたエネルギーが強まっているのが分かる。


そろそろ、かな。


手の中にある力を押し出すように、魔法を放つ。


「『ビルイーム・カラーズ』!」


 直径は私の両手と同じくらいの魔法が、ゴーレムの方へ一直線に伸びる。

 ハリケーンのような渦を巻く魔法ではなく、どちらかと言うと光線に近い黄緑色の魔法はゴーレムの胸のあたりに直撃し、貫いた。


 その後、貫かれた胸からポロポロと身体が欠けていき、やがてゴーレムは全身が崩れ落ち、大きく土埃が舞う。

どうやら、作戦は上手くいったらしく、相手は再起不能となった。


「ふう、取り敢えず、クエストは達成かな」

「やりましたね、カノン!」


 私はシルフとハイタッチをして、お互いに新しい魔法を使いゴーレムを倒せた達成感に浸っていた。


「流石はカノンだね、あの時よりもすごく強くなってるね」


 突然男性の声が聞こえてきたので、前方をみる。すると、土埃のせいで顔までは認識できなかったけど、三人の人影は確認できた。


 それに、この声は聞き覚えがあるようなないような。

 

「『エア』」


 シルフが舞っていた土埃を風の魔法で払うと、咳込みながら黒髪の男と二人の女性が私たちのところまでやってきた。


「やあ、久しぶりだね。カノン」

「あ!黒騎士と戦ってるときにいた勇者さんだね!確か。キョーヘイ君だっけ?」

「いや、キョーヤだよ……」

「あ、ごめん」


 久しぶりに再会したキョーヤ君は、少しだけ悲しそうな顔をしていた。

 まあ、私のせいなんだけどね。

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