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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第4章 灼熱の勇者
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興奮のち涙

 私とあまり元気がなさそうなシルフと二人で、ヒマライヤ平原へ来ていた。

 ここはアルクウェル王国から少し離れた場所にあって、普段レッドスライムを片っ端から討伐していた場所でもある。


 ここ最近で気が付いたことがある。

それは、私たちの姿を見ると、レッドスライムが隠れてしまうようになったことだ。

レッドスライムに知性があるのかは知らないけれど、私たちが天的であることを代々伝えているんだろうなと思う。

レッドスライムから見たら、私たちは恐るべき悪魔なんだろうな。


ふと、そんなことを考えていると、どこか寂し気な風が、私の黒い髪と制服のスカートを靡かせる。

あまり気持ちのいいものではない風を受けて、私は髪が乱れてはいないか確認する。

一応、乙女だからね。

少しだけ乱れたかもしれない髪の毛を、簡易的に指で解して整える。


それから、さっきの風の勢いで落ちるわけがないと思うけど、ミーシャさんから貰ったピンク色の花型のヘアピンが外れていないか確認する。

退院祝いに貰った大切で、大事なヘアピンだからね。もし失くしちゃったら、私は心苦しくなってきっと立ち直れないかもしれない。


右手で、右側頭部に手を当てると、小さい無機質なものが感触で伝わってきた。

良かった、失くしていない。


私は胸を撫でおろし、何となく空を見上げた。

空は雲一つない快晴で、気持ちのいい気温だ。だけど、気分は今一つ晴れやかにならない。


君の毛も整えたし、ヘアピンもあるのに、どうして切ない気持ちになるんだろう。


原因が分からないまま歩みを進めていくと、気が付いたら目の前に黄土色の大きな岩のようなものがあった。


「ねぇシルフ、こんなところに大きな岩なんてあったっけ?」


 私はシルフに問いかけてみたけど、返事がない。


 あれ、考え事しすぎてシルフのこと置いてきちゃったかな!?

 もし、そうだったらすごく申し訳ない!

 私は慌てて後方を振り向くと、案外近くにシルフはいた。

 置いていっていなくてよかったと安堵するとともに、私は心配になっていた。


 近くにいたということは普段のシルフなら聞こえていたはず。それなのに、今日は声が届いていないみたい。

そういえば、ギルドを出てから視線を斜め下に向けてひた歩いてたな。


「おーい、シルフ―。聞こえてるー?」

 

 私が歩みを止めて、シルフに声をかけてみるも、そのことに気が付く様子もなく私の横を素通りして先に進んでしまった。


「うーん、これは相当思い悩んでいるのかも」


 私はシルフの行く先に視線を移す。

 シルフが歩いている方向の先には、私がシルフに聞こうとしていた大きな岩がある。

 多分、このまま進んでもシルフが岩にぶつかるだけだと思うけど、危ないのでもう一度、声をかけておこう。


 私はシルフに正面を見て歩くようにと、声をかけに行くその瞬間。


 突然、地面が大きく揺れた。

 立っていられるのもやっとなほどの揺れだったけど、倒れずに堪えていた。

だけど、さらに揺れは強くなり、流石に立っていられずに私は地に両手をつく。


この揺れでシルフが倒れていないか心配だ。

私は、岩の方へ歩いていったシルフを確認してみると、驚いたことに。


この大きな揺れに姿勢を崩すことなく歩いてる!


私の体幹が鍛えられていないせいなのか、それともシルフの体幹が鍛えられているのか。

多分、どちらかというと後者の方で、さらに言えばシルフの体幹はもともと強いんだと思う。


そんな分析は一先ず置いといて、急に地面が揺れるなんて異常だ。

 私は辺りに震源になりそうなものを探してみた。

 首を回して三百六十度、周囲を見回した。唯一怪しいと思ったのは、黄土色の大きな岩だ。


 ……心なしか、大きな岩が徐々に隆起している気がするんだけど、目の錯覚かな?

 私は何度か目をこすってみたけれど、どうやら目の錯覚でないことは分かった。


 クエストの依頼場所がこの平原であること、隆起し始めた岩らしきもの。

 この二点を組み合わせると、一つの結論に辿り着く。


 あの岩、もしかしなくてもゴーレムでは?


 つまり、ゴーレムに気が付かすに近づいてるシルフは、ものすごく危険なのでは!?


 私は慌ててシルフの元へ走りだそうとした。その頃には、地面の揺れは収まっていて、その代わり、ゴーレムの全身が地面から這い出ていた。


でっかー!


アステール火山で戦ったゴーレムも大きかったけど、今回討伐するゴーレムも五メートルくらいの大きさだと思う。


ゴーレムはシルフのいる方へ足を一歩踏み出そうとしている。

それなのに、未だにシルフは視線を斜め下にしたまま歩き続けている。

 

もう、いい加減に気付こうよ!

それにあんなのに踏みつけられたら、軽い怪我じゃ絶対に済まないよね!?


「シルフ―!」


 私は大声を上げながら全力でシルフの元へ走り出す。

 私の大きな声でようやっと気が付いたのか、シルフは私がいる後方へ顔だけ向ける。


「あ、カノン。そんなに大きな声を出してどうしたのですか?」

「いやいや、上見て!上―!」

「上ですか?」


 シルフは私の言った通りに真上を見上げ、そして。


「きゃー!」


 シルフは自身が置かれている危機的な状況にようやく気が付いたみたいだった。

 頭を両手で守るようにシルフはその場を離れようとしていたけど、何かに躓いたらしく身体のバランスを崩した。


 シルフが前のめりになって転びそうになる直前、私はシルフの元へと駆けつけることに成功し、転びそうになっていたシルフを抱えてゴーレムの足元から走り抜ける。


「はー、危なかったー!シルフ、怪我してない!?」


 私はシルフの方へ視線を移してそう聞くと、何故だかシルフの頬がうっすらと赤く染まっていた。

 熱でもあるのかな?

 そう思っていた矢先、シルフは桜色の美しい唇をゆっくりと動かす。


「キュン」

「キュン?」


 何を言うのかと思えば、漫画でいう心がときめいたときに書かれる擬態語を、突然私に言ってきた。

 私、シルフにキュンとときめかせるような行動はしてないと思うんだけどな。


 取り敢えず、抱えていたシルフを下ろしてあげる。

 すると、シルフは両手を頬に当て、明るい口調でキャーと小さく呟いていた。その顔はとても嬉しそうな、そして幸せそうな顔をしている。


「シフル、どうしてそんなに嬉しそうなの?」

「だって、カノンにお姫様抱っこされたんですよ!?嬉しいに決まってるじゃないですか!私、お姫様抱っこって憧れてたんですけど、まさかカノンにしていただけるなんてまるで夢のようです!それに、私が転びそうになった時に、颯爽と駆けつけて助けてくれるなんて!王子様みたいです!これだけされてときめかずにいられますか!?」

「分かった!分かったから一旦落ち着こう!?」

「落ち着くなんて無理です!興奮が収まりません!」


 シルフは鼻息を荒げながらじりじりと私の方へ近づいてくる。


「どうして逃げるんですか!」

「だって!シルフの目が少し怖いから!」


 もし私が今のシルフに捕まったら、一体何をされるのか分からない。

 普段のように可愛らしく甘えてくるなら、私は大歓迎なんだけど、今日のシルフは違う。

 捕まったら、無事じゃ済まないような気がする。


 私は後方にいるゴーレムをちらっと見る。

 私とゴーレムとの距離はかなり縮まっていて、これ以上後ろへ下がれば攻撃される。


この状況を突破できるような解決策はないか、必死に思考を巡らせる。

 すると、先ほどまで興奮していたシルフが突然泣き始めた。


「ちょっと!どうして泣いてるの!?」

「だって、カノンが、私を避けるから……」


確かに避けていたけども、泣くほど傷つかせちゃったのかな。

シルフの感情の浮き沈みが激しくてついていけない。


ついていけないけれど、シルフが泣いているのに放っておくわけにはいかない。


だって、私はシルフが笑っている表情が好きだから。


やるべきことは決まった。まずは、シルフと話し合うための時間が欲しい。そのためには、後ろにいるゴーレムを何とかしなければいけない。


私は後ろを振り返り、ゴーレムに両手をかざす。

手に魔力を込めることに集中しつつ、機会を窺う。


ゴーレムが一歩前進しようと、大きく重量のありそうな足を上げた。

今がチャンスだ!


「『ホーリーシャイン』!」


 私の両手から光の中級魔法を勢いよく放つ。

 片足で立っていたゴーレムは私の魔法によって体のバランスを崩し、ふらふらとよろめき、やがて背中から倒れた。


 これでゴーレムから離れるだけの時間は稼げたはず。

 あとははシルフと落ち着いて話せる場所まで逃げるだけだ。


 私は、泣いているシルフの左手を優しく握り、微笑みかける。


「……カノン?」


シルフは私が急に手を握ったものだから、少し困惑しているようだった。だけどそんなことは気にしない。私はゴーレムが倒れた方とは逆の方へシルフを張って走り出す。


 シルフは拒否するようなそぶりを見せず、鼻をすすりながら私の手を離さずついてきてくれた。


 私はゴーレムからかなり距離をとったのを確認し、徐々に走る速度を落とし、足を止める。


 ここなら、ゆっくり話せそうだ。


 私はシルフの方へ身体を向け、涙で濡れていたシルフの頬を拭ってあげる。


「ありがとう、ございます」


 シルフはまだ目じりに涙を浮かべていて、今にも美しい雫が落ちそうだった。

 私はもう一度、シルフの涙を拭ってから、シルフの両手にそっと触れる。


「ねぇシルフ。もし何か悩み事があるなら聞かせてほしいな。でも、もし話したくなかったら、無理に話さなくてもいいからね」


 シルフは首をふるふると左右に振った。どうやら話してくれるみたい。

 私はシルフが何を思っているのか口にするまで、静かに待った。

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