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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第4章 灼熱の勇者
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オムライス

 私はカウンターの椅子に腰を掛け、マッチョおじさんが作ってくれたオムライスを銀製のスプーンですくう。


 アルカはカウンターの上に、黄色いバッグから取り出した染み一つない、綺麗な白いハンカチを敷いて座布団のようにして座る。

 彼女も今まさにオムライスを口にしようとしていた。


 どうして私たちがオムライスを食べようとしているのか。

それは、先ほど私たちを試すためとはいえ、必要以上に怖がらせてしまったお詫びに、マッチョおじさんが料理を作ってくれると言ったからだ。


そして、出された料理がオムライスだったというわけだ。

マッチョおじさん曰く、今ある具材を用いてすぐに料理出来るものがそれしか思いつかなかったから、らしい。


とても苦しい思いをしたのだから、もう少し豪華な料理を作ってくれても良かったのに。


私は不貞腐れつつ、スプーンですくったオムライスを口に運ぶ。


濃い橙色に染まっているお米を舌に乗せる。

始めに、味蕾がお米から来る酸味を感知し、次いで一噛みするとお米の甘みと卵のまろやかさが先ほどの酸味とマッチしする。


「んー!」


独奏から瞬く間に三重奏になり、思わず声が漏れてしまう。


さらに噛み続けると、今度は塩味が効いたカリカリのチキンと、程よく油を吸った人参とえんどう豆の旨みが三重奏に加わり、五重奏となって私の食欲をさらに刺激した。


「美味しい!こんなに美味しいオムライス、初めて食べたよ!」

「ええ、とても美味しいです。驚きました」

「美味いだろ。有り合わせのものでも、正しい方法で食材を保存し、食材に合った調理をすれば美味しい料理は誰でも作れるだぜ」


 なるほど、素人でも食材の保存の仕方と調理には気を使うことは出来る。

 そういったひと手間が、料理を美味しくするんだね。

 『フォルテューナ』に帰ったら、実践してみようかな。


 私は、マッチョおじさんから得た知識から、食材を何処に保存するのがベストなのか、オムライスを頬張りながら考える。


「それにしても、いい食いっぷりだな。腹減ってたのか?」


 私は気付かぬうちに空にしてしまったお皿を、マッチョおじさんに差し出してから頷く。


「私、朝から何も食べてなくって、すごくお腹空いてたの。飲食店を探してたら偶然ここを見つけて、やっとご飯を食べられるって思ったんだよ」

「そしたら、貴方が襲い掛かってきたのです。理不尽にも程がありますよ」


 私からお皿を受け取ったマッチョおじさんは、反対の手で後頭部をぽりぽりと掻きながら、申し訳なさそうに眉を寄せる。


「ははは、それはすまなかったが安心してくれ。ここへ来た連中全員に同じことをしてるからな!」

「安心の使い方間違ってますよ」


 アルカは静かにツッコミを入れてから、水を一口飲む。


 それにしても、ここへ来た人たちに私たちと同じことをしてたのかと思うと可哀そうに思えてきた。

 それに、これから来るだろう新規の人たちにも、マッチョおじさんは今回と同様のことをするのだろう。気の毒でならない。


「あ、マッチョおじさん、おかわりね」


 マッチョおじさんはお皿を洗おうとしたので、もう一杯食べたいと言葉でその意思を伝える。


「お、おかわり?」


 私がおかわりすることに驚いたのか、マッチョおじさんは少しだけ驚いた表情をしている。


「うん、本当にお腹ペコペコだったから。迷惑じゃなければもう一杯食べたいな」

「迷惑なんかじゃねえよ。すぐに作るから少しだけ待ってな」


 マッチョおじさんは私のお願いを聞き入れ、オムライスを作り始める。

 本来は優しい人なんだね。


「ていうか、そろそろマッチョおじさんは止めてほしいんだが」


 マッチョおじさんは、視線は調理している手元を見つつ、苦い笑みを浮かべてそう言った。

 確かに、お詫びとはいえご飯をごちそうしてもらって、おじさん呼ばわりは失礼だよね。


「マッチョおじさんの名前は何て言うの?ちなみに私の名前は花音だよ、よろしくね」

「私はアルカと言います。よろしくお願いします」

「カノンにアルカか、よろしくな。俺の名前はシバ・ガンテツだ」

「シバ・ガンテツ?」


 私はガンテツさんの名前を聞いて首を傾げる。

 別に名前が変だとかそういう意味で疑問を抱いたわけじゃない。

そうではなくて、この人の名前はまるで“日本人”特有の名前であることに疑問を抱いた。


「もしかして、ガンテツさんは日本人なの?」

「ああ、そうだぜ。正確には元・日本人だけどな。そういうカノンちゃんも、少なくともこの世界の人間じゃないんだろ?」

「どうしてわかるの!?」

「どうしてもなにもなぁ。ほら、おかわりのオムライス出来上がったぜ」

「ありがとう」


 私は出来立てのオムライスを受け取り、スプーンを使って食を進める。

 

「この店には特殊な結界が張ってあるんだよ」


 ガンテツさんは手を洗い、濡れたてをタオルで拭いてから、カウンター越しに身体を寄せる。


「特殊な結界ですか?」

「ああ。異世界人の中でも“勇者”として召喚された奴だけが気付けるように、細工してあるんだよ」

「へぇ、ガンテツさんは結界を張ることができるんだね」


 ガンテツさんは私の言葉を聞いてから、軽く首を左右に振る。

 どうやら、勇者しか気付くことができない結界を張った主は、ガンテツさんではないみたいだ。


「この結界を張ったのは、先代の勇者だよ。俺はその後継ぎさ」

「じゃあこのお店は昔からあるお店なんだね」

「ああ。先代から聞いた話だと百年以上は前からあるらしいぜ。本当かは知らないけどな」

「そうなんですね。ではガンテツさんは、勇者なのですね」

「元、だけどな。今は引退してこの酒場の店主だ」


 勇者に現役とか引退とかあるんだ。

 小説では語られることのない、リアルな勇者事情を知ることができた。


 オムライスに舌鼓していると、後方からカランカランと鐘が鳴る。

ドアの閉じる音がしてから、次いで足音が徐々に近づいてくる。

 私は誰が来たのか気になり後ろを振り返る。視線の先にいた人は、小柄だけども生命力というか活力を感じさせる女性だった。

 その女性は、カウンターへ来るなり、私たちに軽く会釈をしてからガンテツさんの方を向く。

それから眉を寄せ、すぅっと空気を吸い始めた。

私はこの女性がこれから何をしようとしているのかを察し、耳を塞ぐ。


「ガンテツ!貴方また勇者にちょっかいを出したの!?可哀そうだからやめなさいっていつも言ってるでしょ!」


 女性は小柄な体型からは想像できないほどの声量でガンテツさんを怒鳴りつける。


「でもよぉ、代々受け継いでる行事だから俺の代で辞めさせるわけにも…」

「他にもやりようはあるでしょ!今度はこんなに可愛い女の子たちにあれをやったなんて、信じられない!大体あんたは…!」


 女性はガンテツさんに自分のターンを譲る気はないらしく、今までため込んでいただろう不満を爆発させていた。


 私とアルカはその光景を鑑賞しつつ、黙ってオムライスを頬張り静かに見守っていた。

読者の皆様、いつも応援していただきありがとうございます。

ブックマークを付けて追いかけてくださる読者様が増えてきて、

とても嬉しく思いますし励みにもなっています。

もしお話を気に入ってくださったり、

続きを楽しみにしていただけましたらブックマークや

ポイントをポチっと押してくださると嬉しいです。

また、感想もお待ちしておりますので、よろしくお願いいたします。


そして、自分都合で申し訳ありませんが次回のお話しは3/27(金)に投稿します。

よろしくお願いいたします。

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