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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第4章 灼熱の勇者
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それでも抗うの

 私は無我夢中で、中級魔法を口にする。


 屈強な男へかざした手から、白く輝きを放つ円形の魔方陣が顕現する。

 そこから勢いよく白銀の光線が、男の方へ向かって駆け抜けていく。


 私と男の距離はかなり近かったので、不慣れな中級魔法でもはずすことなく男の右手に命中した。


 命中したものの、右手は消し飛ぶでもなく、ただ軌道を逸らしただけだった。


 この男の筋繊維一本一本が鋼の糸で構成されているのだろうか。


 いや、今はそんなことはどうだっていいんだ。

 私の目的はこの男を倒すことじゃない、アルカを助けて二人で生きて帰ることだから。


私は全力疾走で、アルカの元へ駆け寄り、未だに動けずにいるだろうアルカを抱きかかえて男から距離をとる。


「はぁはぁ、アルカ、怪我してない?」


 私はもしかしたら、魔法の巻き添えを与えたかもしれないと思い、確認を取る。


 アルカはまだ身体を震わせていたけど、私の問いにゆっくりと頷く。

 良かった、怪我はしてないみたい。


 私は男の方へ視線を戻すと、男は空振りに終わった右手を左手でさすっていた。

 よく見ると、私が魔法を当てた個所には傷があり、血が滲んでいる。


「まじかよ、中級魔法なんかで怪我するなんてなぁ。老いなのか、それともあのお嬢ちゃんが強いのか」


 そう言ってから身体ごと私たちの方へ向けると、光の具合から私はようやっと、男の顔を確認することができた。


 男の顔は、男前という言葉が似合うだろう。

 髪は所々白く、頬には十字の傷痕が窺える。


「お嬢ちゃん」


 私は突然声をかけられたので、ビクッと身体に電気が走ったかのように反応してしまった。


「何?」

「そんな怖い顔で見んなよ、ビビっちまうだろ」

「アルカを殺そうとしたんだか、睨むのは当然じゃないかな?」

「ま、それもそうだな」


 私は少しだけ、声のトーンを低くして男の出方を観察する。

 男は、力んだ身体から脱力するためだろうか、息を深く吐きカウンターに置いてある椅子に腰をかけた。


「お嬢ちゃん、どうして俺の理不尽に抗った?」

「当たり前でしょ。一回の間違えで罰を与えるなんて、そんなの抵抗するに決まってる」

「だが、その妖精はまた間違えるかもしれねえぞ。今ここで助けたとしても、次に来る理不尽がまたお前らを襲う。この世界はそうできてるって、さっきも言ったよな」


 男はカウンターに左肘を乗せ、それから左手拳を作り、顔をその拳で支えるような体勢をとる。

 見た感じだと、今は私たちと交戦する気はないようだ。


「そうだね。貴方の言う通り、この世界は理不尽で出来ていて、これからもアルカや、次は私にもそれが襲ってくるかもしれない」


 この男の言うことは、多分間違っていなくて、生きていくうえで何度も理に沿わない出来事が起こると思う。


 間違って選択してしまったことや、失敗したことで窮地に立たされたり、その場にいただけで被害に遭いそうになったりと、多くのケースでそれは襲ってくるだろう。


 だけど。


「それでも抗うよ」

「何?」

「アルカたちと笑って過ごせる世界を作るためなら、何度だって抗って見せるって言ったの!」


 男は目を丸くし、左手の拳から少しだけ頬を離す。

 もしかしたら、今度は私がこの男にとって不正解なことを言ったため、戦闘態勢に入ろうとしているのかもしれない。


 しかし、私はそんなことは気にも留めないで、言いたいことを言う。


「それから、仲間の失敗や間違い生死を分けるって言ってたよね?だったら、どうにかして仲間のミスをカバーすればいいだけの話だよ!」

「口で言うほど簡単じゃねえぞ」

「そうかもしれないけど、そうやって支え合って生きていくのが仲間でしょ!私は、どんな理不尽が襲ってきたって、全部全部抗ってやるんだから!」


 私は言いたいことを全てぶつけた。

 勢いよく話したせいで酸素を多く使ったのか、身体がだるくなったので左足に左手を乗せて、上半身の体重を軽く乗せる。


 男は私の話を聞いてどう思ったのか分からない。

 

だけど、これが今の私の答えなんだ。


 誰に何と言われても、アルカたちの笑顔のために戦う、この意思だけは譲れないし折れることもない。


 私は呼吸を整え、もう一度男の方へ視線をやる。

 視線が合うと男は何を思ったのか、ゆったりと立ち上がりこちらへ近づいてくる。

 

また、襲ってくるかもしれない。だけど、もう先ほどの恐怖はどこにもない。

私は右腕で抱えているアルカを守るように、さらに力を込める。


 すると、アルカはその腕からするりと抜けて私にせ見せるように前に立つ。


「アルカ?」

「花音、先ほどは見っともない姿をお見せして申し訳ありませんでした。あの言う通り、私の判断ミスで花音を危険に晒すかもしれないと考えたら、とても怖くなってしまったのです」


 アルカは、そう言ってから首だけ後ろに向ける。

 

私がアルカを助ける前は暗く深淵を覗き込むような光のない目だった。だけど今私の目に映るアルカは、どんな困難にも負けない、力強く輝きのある瞳に変わっていた。


「ですが、もう恐れはしません。私が間違ったときに、先ほど花音が助けてくれたように、今度は私が、花音が間違ったときに助けます」

「アルカ…」


 アルカは私に、そう言ってから男の方へ視線を戻す。


「ですから、こんなところで、貴方の理不尽に殺されるわけにはいかないのです!花音と共に何が何でも生きてここを出ます!」

「ほう、俺から逃げられると思ってるのか?」

「ええ、花音と一緒なら余裕ですよ。ね、花音」

「うん、余裕だね!マッチョおじさんの攻撃なんか、全部避けてやるんだから!」


 アルカの呼び声に、私は勢いよく答える。

 アルカの言う通り、無理やりにでもここを脱出してやる。

 私は、アルカの横に立ちマッチョおじさんの出方を窺うと、マッチョおじさんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。


「マッチョおじさんって、俺のことか!?」

「他に誰がいるの?」

「いや、俺しかいねえけどよ、初対面でマッチョおじさんって呼ばれたのは生まれて初めてだぜ」


 マッチョおじさんの言葉を最後にしばらく睨み合っていたら、マッチョおじさんは手を顔に当ててくつくつと笑い始める。


 次第にその笑い声は大きくなり、遂には天を仰ぎながら笑っていた。


 状況が飲み込めずにいた私は、アルカと顔を合わせるが、アルカもこの状況が飲み込めていないといった様子だった。


 ひとしきり笑った後、マッチョおじさんは私たちの顔を交互に見つめる。


 先ほどの張りつめた表情とは打って変わって、何故か今は輝く白い歯見せ満面の笑みを浮かべていた。


「お前ら、良い根性してるじゃねえか!合格だ!」

「…へ?合格」

「合格、ですか?」


 合格って、どういうこと?

 

 なんだろう、この状況に既視感を覚えるな。


 確か、シルフと初めて会ったときも同じことを言われたような気がするけど。


「もしかしなくても、私たちって試されたの?」

「ま、そういうこった!怖がらせてごめんな、妖精さん、それからお嬢ちゃんも」


 何なのそれ。


「何なのそれー!」


 私は気が抜けすぎてその場に座り込み、、続いてアルカも私の隣に墜落した。

 この世界の住人はどうも、誰かを試さずにはいられないみたいだ。

読者の皆様、いつも応援していただきありがとうございます。

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