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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第4章 灼熱の勇者
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小さな鐘の音

 私はアルカとともに『フォルテューナ』を出て空を見上げると、お天道様はすでに真上まで移動していた。今日の天気は雲一つない晴天だ。

 

「天気良いねぇ」

「はい、洗濯物がよく乾きそうです」


 私は背筋を伸ばしつつ太陽の光を浴びている間に、ドアの方からガチャっと音が鳴った。アルカがドアのカギを閉めてくれたのかな。


 アルカの方へ視線を向けると、今まさに家の鍵を黄色いショルダーバッグに仕舞おうとしている所だった。


「アルカのそのバッグ可愛いね、いつ買ったの?」

「可愛いでよね。これは、今朝買ったんです」


 そう言って、アルカは黄色いバッグの全体が見えるように私に見せてくれた。


「朝に買ったんだ」

「ええ。本来の目的は掃除用具を買いに行くことだったのですが、たまたまこれを見かけてしまって」

「買っちゃったんだね」

「衝動買い、というやつです」


 アルカは少し恥ずかしそうにしていて、私はついその姿を見て微笑んでしまう。

 元・精霊王女でも、衝動的に物を買っちゃうんだね。


「戸締りも済ませましたし、早速ギルドへ行きましょうか」

「うん!」


 私とアルカは外部に露出されている共用廊下を進み、階段を下りてギルドのある方へ向かう。

 

『フォルテューナ』からギルドの方面は、住宅街が並んでいる。

今日は天気が良いこともあってか、道には家族連れの人たちが多く、商店街とはまた違った賑わいを見せている。


「王国内は平和だね」


 私は行きかう人たちを横目に、アルカに話しかける。

 魔王軍が活発になり始めているはずなのに、誰一人として緊迫な雰囲気を発していないのでついそんなことを言ってしまった。


「アルクウェル王国は王国騎士団やギルド、たまにですが勇者がいますからね。他の国に比べて安全であることは間違いないと思います」


 そういえば王国騎士団の人たちはアルクウェル王国にいるのか。


「王国騎士団の人たちって、ギルドに張ってあるクエストを手伝ってくれないの?」


 私はふと思った疑問をアルカに投げかける。

 王国騎士団がいるなら、ギルドに張ったある魔物を退治してくれればいいのに。


「花音、その認識は少し違います」

「そうなの?」

「はい。基本的に王国騎士団だけでは対応が追い付かない場合に、ギルドへクエストを発注するんです」


 そうだったんだ。それにしてはギルドに張られているクエスト数が多い気がするけど。

 そんなことを考えていると、前方からガチャガチャと鉄と鉄がぶつかり合うような音が聞こえてきた。

 間もなくして、甲冑を来た騎士団の方々が、駆け足で私たちのことなど気にも留めず通り過ぎていった。


「…もしかして、王国騎士団って人手不足なの?」

「そうかもしれません。王国騎士団は十三の騎士団で構成されている組織なのですが、全ての騎士団が常にこの王国にいるわけではないのです」

「どうして?」

「それは主に二つの理由があるからです。一つ目は遠征で、二つ目は自国の防衛力だけでは魔王軍に太刀打ちできない地域へ赴き、落ち着くまで在中しているためです」

「なるほど。それにしても、やけに詳しいね」

「今朝、商店街の方々とお話をして知識を得ましたから」


 私もアルカを見習って、自ら情報収集しないといけないなと思ってしまった。

 多分、アルカが話してくれたことは、この国にとって当たり前なことのはず。

 ここへ来てからまだ日は浅いけど、恥をかかない程度の知識は身につけておかないとね。

 

 自分で言うのもおかしな話だけど、珍しく真面目なことを考えていたら、お腹の方からキュルルっとヘンテコな音が鳴ってしまった。

 この音は、間違いなく空腹を知らせる合図だ。


 その音を聞いたアルカはくつくつと笑い始める。


もう鳴らないで、とお腹をさすると、またお腹が鳴ってしまった。

恥ずかしくて、顔が熱くなっていくのが分かる。


「ごめん、アルカ。お昼食べに行かない?」

「うふふ、そうですね。私もちょうどお腹が空いてきましたし、お昼を食べてからギルドへ向かいましょうか」

「ありがとう、アルカ!」

「お店はどこにしましょうか」


 辺りを見回してみても、昼食をとれそうな場所は見当たらない。

 止められないのは分かっているけど、お腹が鳴らないよう意識を集中させながら歩みを進める。


 私はキョロキョロとお店がないか探していると、不思議な情景を目にした。

 何が不思議なのかと言うと、住宅街が連なっているところに一か所だけ、朽ち果てているお店があったからだ。


 二階建てのそのお店は、屋根や壁に敷き詰められているレンガが所々欠けている。それから想像だけど、以前は鮮やかで深みがあったはずの緑色のドアは、塗装が剥がれていて本来の木材の色が露出してしまっている。


 また、お店からは小さな物音すら聞こえてこないので、きっと誰も住んでいないと思われる。


 賑わう住宅地にポツンと建つ朽ちたお店は、私から見れば異色を放っているけど、住民から見れば日常の一部になっているのかな。

 誰一人として不思議そうに、そのお店を観察する者はいない。


 誰もいなさそうだし、別のお店を探そうかな。


 そう思った矢先、カランカランと小さい鐘が鳴るような音が聞こえてきた。


 どこから聞こえてきたんだろう。

 突然のことで聞こえてきた音の発信源を特定することができなかった。

 辺りを見回してみても、小さな鐘を鳴らした者は見当たらない。


 この国の家には、家の主に訪ね人が来たことを知らせる鐘がついている

 だから、鐘が鳴ること自体は特別不思議なことじゃない。


 鐘の音が、空気を伝って私の耳に届いたのなら、不思議ではない。


私が戸惑っている理由は、先ほどの音が直接脳に聞こえてきたような気がしたからだ。

 アルカにもその音が聞こえてきたか確認してみよう。


「ねえアルカ、何か聞こえなかった?」

「いえ、聞こえませんでしたよ。どんな音ですか?」

「鐘が鳴るような音なんだけど」

「私には聞こえませんでしたけど…」


 おかしいな、確かに聞こえたはずなんだけど。

 今度は何処から鳴ったのか分かるように、耳を澄ませる。

 

 カランカラン。


 さっきと同じ音が聞こえた!


私は音の鳴る方へ顔を向ける。


「うそ、でしょ」

 

 私は驚きのあまりに、思わず口に出してしまう。

 

だって、音の発生源はあの朽ち果てているお店だったから。


 いや、正確には“朽ち果てていた”お店だ。


私の目線の先に見えるお店は、規則正しく交互に敷き詰められている赤みが強い茶色のレンガと、深みのある緑色のドアはどこか懐かしいような、郷愁を感じさせる作りになっている。


 ドアに黄色い縄でかけれているプレートには『ころんべあ』と書かれていることから、きっとこのお店の名前なのだろう。


「ねえアルカ、あのお店、あんなに綺麗だったっけ?」


 私はアルカの方を軽く突いてから、『ころんべあ』と書かれているお店を指さす。

 アルカはお店を見るなり、少しだけ驚いたのかな、目を少しだけ見開いていた。


「っ!?いえ、先ほどまではボロボロのお店だったはずです」

「そうだよね、あんなに新築みたいな作りじゃなかったよね」


 一瞬のうちに劇的な変化があったんだ。住民の人たちも驚いているに違いないと思い、私は周囲を見回してみる。


 だけど、誰も目に止めていなかった。

 私は、通りすがりのマダムに声をかける。


「あの、少しだけいいですか?」

「あら、どうしたざます?」

「あ、あの、あそこに建っているお店って、元々綺麗なお店でしたっけ?」


 私はマダムの喋り口調を、少しだけしか気にすることができなかった。

 マダムは私が指さすお店を見てから、手を顎に当て首を傾げた。


「いいえ、あのお店はずっと古びたままざますよ?それに今も綺麗になっているようにはみえないざますが」

「そんな、レンガとかドアとか、傷一つ付いてないように見えますが」

「あらあら、これは謎かけか何かでざますか?私にはただの古びたお店にしか見えないざますが」

「そうですか」


 これ以上会話をしても、私がただの痛い人に見えるか、もしくは謎かけ職人と間違われてしまう可能性があるので、マダムにお礼を言って話を強制的に終了させた。


 マダムの会話から、おそらく綺麗になった『ころんべあ』は私とアルカにしか見えていないってことだよね。


「ねえアルカ、あのお店、気にならない?」

「気になりますが、もしかしたら危険な場所かもしれませんよ?」

「大丈夫。危険だと思ったらアルカと一緒に全力で逃げるから」

「分かりました。では、入ってみましょうか」

「うん」


 私とアルカは『ころんべあ』のドアの前に立つ。

 緊張からか、喉が渇いてきたのを感じる。

 暑いと思えるほどの気温ではないはずなのに、手からは汗がにじみ出る。


「それじゃ、入るよ」

「はい」


 私は金で塗装された縦長の取っ手を引き、ドアを開ける。


 そして、小さな鐘からは来訪者を告げる音が鳴った。


 カランカラン、と。

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