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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第4章 灼熱の勇者
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誰が何と言おうと虫は虫

 私たちはレッドスライムを無事に討伐し、続いてスピアーの討伐に向かう。

「ねえねえ、スピアーってどんな魔物なの?」

「スピアーは背中に透明な羽を左右に二枚ずつ生やし、素早く飛び回る魔物だ。容姿は黄色くて虫のような形をしている」


 リゼの話を聞いて想像できるのは、私の元いた世界で言う蜂なのかな。だとしたらかなり良くない。いや、まだそうと確定したわけじゃない。もう少し情報を得る必要があるね。


「そのスピアーって足が五本以上ついていてかつお尻に針があるのかな?」

「はい、足は六本ついていてお尻に針がありますよ。針に刺されれば大怪我をしますし、種類によっては猛毒を持つものもいます」

「そ、そうなんだ。今回は毒を持ってるスピアーなの?」

「今回討伐するスピアーは毒を持っていないです。代わりに素早さが高いので侮らずに戦いましょう」

「了解、教えてくれてありがとう」


 シルフの情報も合わせるとやっぱり蜂さんだね、虫さんだね!

 参ったな、スピアーって虫だったのか。

 だけど、もしかしたら虫と魔物は外見が似てるだけで実際に見たら問題ないかもしれない、そう信じよう。


 しばらく歩くと森が見えてきたので私たちは森へ入り、スピアーがいると思われる場所まで到達した。

 だけど、辺りを見回してもスピアーの気配がしない、というか私たち以外の生き物に遭遇していない。


「クエストの内容だとこの辺にいるはずだよね?」

「はい、そのはずですが…いませんね」

「二人とも、気を抜くのは時期尚早かもしれない」

「リゼの言う通りです。耳を澄ませてください」


 私はアルカの言う通り耳を澄ます。

 神経を耳に集中させると、羽音と何で音を立てているのか分からないけどカチカチという聞こえる。

 その音は徐々に近づいてくる。

 そう思った矢先、茂みの中や木々の上の方からスピアーが何十体も姿を現した。

 事前に情報を聞いていたことに加えて、スピアーの大きさは五十センチメートルぐらいあった。そして見た目は、虫そのものだった。

「虫だ…」


 正直、私は虫を見るのも触るのも苦手だ。中でも足が五本以上生えている虫が苦手だ。

 瀕死になった虫が裏返ったときの、必要以上に足を動かしているあの動作がどうしても受け入れられない。

 さらに言うと、虫が元気な状態でも予測不可能な動きはするし、蜂に限って言えば黒と黄色の縞々模様が私の脳に警戒しろと言わんばかりに余計に恐怖感を与えてくるから苦手だ。


 要は、虫全般が苦手で、特に蜂や足が五本以上生えている虫を受け付けることができないのだ。


「私、虫が苦手なんだよね」

「だがあれは虫ではなく魔物…」

「虫っぽいフォルムしてるから虫なの!」

「いやしかし」

「虫!」


 私は涙目になりながら、いや半泣きになりながらあれは虫なんだとリゼに主張する。

 リゼには申し訳ないけど、苦手な虫があんなにいっぱい出てきたせいで私の心の余裕はほとんどない。

「…そうだな、あれは誰が何と言おうと虫だな。悪かった」

「カノンにも苦手なものもいるんですね。でしたらここは私たちで対処しましょう」

「そうですね、カノンは出来るだけあの魔物、ではなく虫から距離を置いてください」

「うん、ありがとう」


 私は出来るだけスピアーから距離をとるために一歩ずつ後ろに下がる。

 スピアーは私が動くたびに顎をカチカチと鳴らし、足を必要以上に動かしている。もう、視界にいれたくないけど、目を閉じればいつ相手が攻撃してくるか分からないから仕方なく見つめるしかない。

 

 私がスピアーとの距離が十分に離れたのをアルカたちは確認し、戦闘態勢に入る。

 シルフは素早く襲い掛かるスピアーに詠唱をする時間は無いと判断し、無詠唱で『エアブラスト』を使用し一体一体確実に倒している。

 シルフの放つ魔法は半径五十メートル以内であればどこにでも魔方陣を展開させることができ、かつ一度に十個の魔法を操ることができると言っていた。普通の人よりも魔力の高い私でさえ、そんな距離まで魔方陣を展開することは出来ない。

集中してもせいぜい直径五十メートルぐらいが限界で、一度に操れるのは三個だけだ。

 そう考えると、シルフは戦闘においてはとても心強い。


 リゼの方を見る。後ろ姿しか見えてないけど、右手を胸元に当てているのは分かった。ネックレスに括られている金色の小さな剣に触れているのだろう。。

「顕現せよ、"ハバキリ"!」


 リゼの呼びかけに小さな剣は反応し、形を変える。刀身は光に照らされずとも金色の輝きを放ち、柄は全ての色を飲み込み漆黒の色を帯びている。

 相も変わらずリゼに相応しい、鮮やかで美しい剣だ。見ていて惚れ惚れする。

 

リゼはハバキリを右手に持ち、上段に構えてから静止した。動きを止めているリゼに向かって一体のスピアーが、お尻に生えている針でリゼを刺そうとした。しかし、リゼは雷光のごとく素早い剣さばきでスピアーを縦一文字に真っ二つに斬る。

さらに、スピアーよりも敏速に動き回り、次々と一刀両断していく。


 ちなみに、リゼの足の速さは自然に身につけたもので、魔法による身体強化は一切していない。

魔法による身体強化をした場合、リゼが動作した後に音がついてくるほど速くなるが、その代わりに足への負担がかかってしまうデメリットが発生してしまう。だから、強敵と出くわしたとき以外は極力使いたくないと言っていた。

 

 シルフとリゼが次々とスピアーを討伐していく中、アルカも奮闘しているように見えた。

 素早く動き回るスピアーに照準を合わせて、アルカは『ライト』を当てようと努めている。


 最初の数発はスピアーの速度についていけず、また攻撃魔法の扱い方が覚束ないためか悉く外していた。

しかし、そこで挫けるアルカではないことを私は知っている。試行錯誤を繰り返し、次第に魔力操作のコツ、スピアーの動きが把握できるようになったのかな。スピアーに魔法を当てる回数が徐々に増えてきた。

 一撃では倒しきれないものの、それなりのダメージは与えられているのは見てとれる。

アルカの光魔法を受けたスピアーは明らかに速度を落とし、左右に意図せず舞いながら飛び回っている。

 アルカは追い打ちをかけるように、再度『ライト』を使い確実に倒していく。

  

 修行一日目にして、アルカは課題の一つである自衛できるほどの力を手に入れていた。元とはいえ精霊王女は伊達ではないということかな。


 私は後方で体育座りをしながら、みんなが頑張っている後ろ姿を眺める。

 スピアーが討伐されていく毎に、私にとって不快な羽音や顎のカチカチ音が減っていき騒いでいた気持ちが落ち着いていくのを感じる。

 

それにしても、アルカたちに一回も攻撃を当てることができていないスピアーたちに少しだけ可哀そうだと思ってしまう。


「『エアブラスト』!」

 シルフの風魔法が森の中に吹き荒れたのを最後に、スピアーは私の視界から全て見えなくなった。


「お疲れ様」

 私は立ち上がってアルカたちの方へ向かおうと右足を前へ踏み出す。

 足の裏が地に触れた瞬間、リゼの切羽詰まった声が聞こえてきた。


「カノン、後ろだ!」


 私はリゼの言葉を聞きすぐさま振り返る。

 すると、目の前に紫と黒の縞々模様が特徴的な、先ほどまで私が見ていた魔物とは一回り大きいスピアーがいた。色からして、毒持ちのスピアーだと思う。


 何故、目前に来るまでスピアーの存在に気が付かなかったのか、理由が分かった。

 このスピアーは、兎に角は羽音が小さい。原理は分からないけど、人が認識できないほど周波数が低いんだと思う。


 私はスピアーの大きな黒い目に視線を向ける。

 すると、今までじっとしていただけのスピアーが急に顎をカチカチと鳴らし始める。


「キャー!」

 虫が大っ嫌いな私の目の前でこんなことされたらさ!

流石に叫ぶしかないよね!

何なのもう!本当に勘弁してほしい、全身が恐怖で鳥肌立っちゃったよ。


 私はきっと恐怖を感じすぎて、スピアーの動きがスローモーションになって見えていた。

 針のついたお尻を少しだけ後ろに下げ、加速度を増すつもりなのかな。

 次第に私の身体に向けて、後ろに引いた針を近付けてくる。


 どうしよう、何とかしなくちゃ。そう考ええいた矢先、頼もしい声が聞こえてきた。


「花音!たった今、速さに特化した強化魔法をかけました!避けてください!」

「アルカ、ありがとう!」


 既の所でスピアーの針を避け、アルカの強化魔法のおかげで素早く体勢を立て直すこともできた。

 

 私に恐怖を与え、それだけに止まらず、剰え攻撃してきた憎きスピアーに私は天誅を下す。

 

スピアーの頭上と真下に二つ、鮮やかな赤い魔方陣を展開させ、相手が逃げないうちに新しく授かった魔法を使う。


「炎の初級魔法、『フレア』!」


 二つの魔方陣から放たれる炎の魔法によって、板挟み状態になったスピアーは身動きが取れず焼かれ続ける。

 ちなみに、上下から炎魔法を使用しているので、魔法によって木々に燃え移ることはない。


 そろそろ倒したかな。

私は確認のために魔法を使うことを止めると、まだスピアーはそこにいた。


ダメージが決して与えられていないわけではないらしく、よろよろと飛んでいる。

しかし、スピアーには炎の身に纏っているので、動き回られるともしかした木々に火が移ってしまうかもしれない。

 そうならないように、私はスピアーがこれから移動すると思われる位置に白い魔方陣を展開させる。


「火が移っちゃうといけないからね。『ライト』」


 私の光魔法によってスピアーを完全に飲み込まれ、跡形もなく消え去った。


「ふー、一件落着だねー」


 私は額の汗を腕で拭い、アルカたちの方を見ると、みんな顔が引きつっていた。


「花音、怖かったのは分かりますが、容赦しなさすぎです」

「ごめんなさい…」


 私たちは微妙な雰囲気のまま、森を後にし、クエストの完了報告をしにギルドへ戻った。

読者の皆様、いつも応援していただきありがとうございます。

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